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Clueは生理・排卵期トラッキングアプリを開発するベルリンのスタートアップです。そのシンプルながら、爽やかで美しいビジュアルデザインは世界中のユーザーを惹き付けてきました。

先日ベルリンで、ClueのリードデザイナーであるMike LaVigne氏にインタビューをする機会をいただきました。Clueのデザインを作り上げる過程で意識したこと、男性が女性用のアプリを開発することについての考え、プロダクトの根本にある哲学などについて話を伺いました。

 

――Mikeさんのこれまでの経歴について教えてください。元々はフロッグデザインでクリエイティブディレクターを務めていました。ニューヨークオフィスや上海オフィスの立ち上げにも関わりました。アジアの有名ブランドの仕事をしていたときもあります。NTTドコモ、KDDI、ソニーといった日本企業と仕事をしたこともありますよ。主に、欧米企業がアジアのマーケットに進出する際の手伝いをしていました。ですので、Clueに参画する前はコンサルティングを専門に行っていました。
戦略コンサルタントとしての私の仕事の多くはクライアント企業に対して大きな影響を与えるものでしたが、直接市場に出ることはありませんでした。ちょうどその時期、グローバルに起きていることに対する関心が高まりつつあり、これまで培ってきたスキルを何か良いことのために活用したいと考え始めていました。ですので、私はフロッグを辞めて、フィヨルドのベルリンオフィスでのポジションを引き受けることにしました。フィヨルドは、フロッグと同様に大きなデザインコンサルティングの会社です。そこでまたクリエイティブディレクターとして働き始めました。
ベルリンに移ったあと、Clueのファウンダーである Hans と Ida に出会いました。私は彼らに対して、デザインをテーマに小さなワークショップを行ったのですが、その内容が多少プロダクトに影響を与えることになりました。その時、彼らはワイヤフレームはあったものの、まだプロトタイプも出来ていない状態でした。ワークショップで二人とコラボレーションをしていたとき、私は何か意義深いことをやりたいと思っていることを話しました。すると、ぜひチームに加わってほしいと言われたのです。私はその時ノーといいました。当時はビジュアルデザイナーではなかったからです。デザインの仕事には15年もブランクがありましたし、私は女性でもありません。特にアーリーステージで成長が必要な段階においては、この二つの要素のうち出来れば両方、少なくとも一つが必要だと思ったのです。なので何度も断ったあげく、ある時点でチャレンジしてみようと決めました。

もう一度デザイナーになる必要があった。

Clue 2

――どのようにClueにジョインしたのですか?

再びデザイナーに戻る過程は大変なものでした。最初の12カ月から18カ月は特に。自分でもできるんだと自らを納得させるのには時間がかかりました。 イテレーションの点で言えば、三度大きなイテレーションを行いました。最初の2つは誰にも見せていません。とてもひどいものだったので。その2つのバージョンのことは「Ugly little monster」と呼んでいるのですが、各バージョンのクオリティのギャップは非常に大きなものでした。三度目のイテレーションで、やっとイメージしていたものに近づいたという感覚が得られました。そこに至るまでにはかなりの時間を要しました。再びデザイナーに戻るプロセスというのは時間のかかるものでした。アプリのデザインも初めての経験でしたし。

スキルが高い人というのは、自分に対して厳しくなりがちです。自分の作品に批判的になりすぎることで負の連鎖におちいって、作品を完成できないことがあります。私自身もそうした過程を経験しました。自分のスキルに自信が無かったので。

自分が女性向けのアプリをつくることはおかしいと思っていたのですが、周囲は誰もそう思っていませんでした。

――女性向けのアプリをつくることに対してためらいを感じていたのですね。大きなためらいを感じていました。カスタマーサポートを担当していたのですが、Eメールで多くの女性と生理や月のサイクルについて話をしました。当時、何百通ものメールをやりとりしていて、今ではその数は何千通にもなります。私はその担当を務められる自信がありませんでした。ですが、私自身のそうした懸念は相手との距離を縮めるのにまさに必要だったことに気付きました。私は自分の懸念と、うまくコミュニケーションをしたいと願っていることを伝えました。すると、誰も私が男性であることを問題だとは感じていないことが分かりました。実際、女性の担当者と話したいと言われたのはたったの二度だけです。

こうしたやりとりがうまく行った背景にはアプローチの方法も大きく関係していると思います。私は量的ではない質的なヒューマンリサーチをやってきた経歴があります。フロッグでもユーザーリサーチをやることは多くありました。門外漢のことについてリサーチをしてきた経験が多くあります。こうした経験は今回もユーザーとの距離を縮めるのに役立ったと思います。もう一つは勉強です。妊娠や受精について多くの本を読みました。質問を受けた際にも、一般的に人が調べる方法で調べました。こうして得た多くの情報について、一貫性や誤情報にも注意を払うようになりました。そのあとは、より科学的な意識の高い方々の知見も得ることで自分の推測が正しいかどうかを確認し、深いレベルの知識を得るように努めました。

結局のところ、おかしいと思う自分の認識自体がおかしかったのです。男性が女性向けのプロダクトを開発したり、それについて語ることにまったく問題はありませんでした。私自身がそれはおかしいのではないかと思っていたのですが、周囲は誰もそう思っていなかったのです。

また、こうしたテーマについて語るときの女性の心理について情報を集め、女性が共感を抱きやすいデザインをつくりました。アプリのデザインはこのようにして生まれました。なので、ユーモアのあるデザインにしています。共感を引き起こすようなユーモアです。アプリを使う人が感情移入できるように心がけました。

――アプリのユニークなビジュアルインターフェースはどのようにして生まれたのでしょうか?実を言うと、私はずっとAndroidユーザーなんです。その前はノキアのフィーチャーフォンユーザーです。みんながiPhoneを使っているときも、Androidやフィーチャーフォンを使い続けることにこだわりました。というのも、アップルのデザインパターンから物事を考えたくなかったからです。戦略コンサルタントとして、一つのものに影響されない状態でいることが重要だと思いました。非常に洗練されたスタイルから距離を置くように意識していました。自由な意思決定ができるように。

デザインに関しては、フラットなデザインにすることにしました。これは、iOS7 が世に出る前に決定もリリースも行いました。なぜなら、新鮮さとモダンさが感じられ、幅広いシーンで使えるものにしたかったからです。過去に多くのグローバルな仕事を担当してきた自分の経験から、グローバルに通用するスタイルにしたいと考えていました。異なる言語や文化へのローカライゼーションができることを意図してつくりました。これは、かなり初期の段階で決定したデザイン戦略です。

また、Clueの最初のデザインは速さと美しさを重視しています。この二点だけです。美しさというのは純粋な静的デザインで、それはさらに共感やユーモアなどといった細かい要素に分けられます。インタラクティブなインターフェースにしたのは速さを重視したからです。たとえば、データ入力に関しては100%ボタン操作だけで行えます。データを入力するか画面を出るかの二択しかありません。文字による説明のないインターフェースもテストしたのですが、それでも同じレベルの正確さでデータ入力が可能でした。

米国、欧州、日本のすべてで成功するものをつくるのは大変です。美的感覚が異なるので。

――日本市場にリーチする上で、もっとも難しい点は何ですか?アイコンでナビゲーションをつくること、美的感覚を合わせてグローバルに通用するデザインをつくることは難しいものです。国ごとに美しさに対する感覚は異なります。ですので、米国、欧州、日本のすべてで成功するものをつくるのはとても難しいのです。

日本も含めて、アジアのデザインというのは、さまざまな機能を密に取り込みます。すべてを一つの場所に詰め込もうとするので、密度が高くなります。上海で仕事をしていたときも、デザイン案をクライアントに見せると「いいですね。ですが、もうちょっと何か足してください」とよく言われたものです。

私が Clue のデザインで考えていたのは、日本の美的感覚に存在する柔軟さを意識するということです。日本の古い建築に見られるような柔軟さ、軽さ、色彩、美しさを組み合わせたものです。日本の田舎に行くと、可動式の壁があり、広いオープンスペースがあって、床に布団を敷くことができますよね。こうしたスタイルはある種のデザインであると思います。Clueは日本市場だけのためにデザインしたわけではありませんが、日本でも成功できる可能性を意識しました。こうした点もデザイン戦略の一部です。

プロダクト戦略の点に戻ると、日本は避妊用ピルの使用率が非常に低いという点が他国と異なります。欧州における使用率とはまったく異なります。その分、基礎体温で妊娠可能日を測定する人がより多い。体温の微妙な変化から、排卵期を特定するのです。そのために使用するハードウェア、ソフトウェアも多くあります。なので、他国と比べると日本は競争が激しいと考えています。

――日本では欧米と比べると、親が子どもに対してセックスに対して話すことも少ないと感じます。Clue が特に意識したことの一つが、セクシュアリティやジェンダーの問題についてポジティブに考えるということです。否定的なメッセージを入れないようにしています。アイコンで、ポジティブさ、楽しさ、喜び、遊び心を表現するようにしています。私たちは、性に関する個人の選択によって、その人を判断することはありません。それから、10ページ分に相当する文量の妊娠に関する科学的な説明文も入れています。いつが妊娠可能でいつが不可能かといった情報も含めて、幅広いトピックをカバーしています。Clueが今後成功したら、こうしたオープンな姿勢が原因で、いくつかの文化圏では壁にぶちあたるかもしれません。こうした姿勢が受け入れられない文化もあるかもしれませんね。

――Clue で使われているアイコンが大好きです。避妊をしたセックスを表しているネクタイを着けた男性のアイコンは特に好きです。これはMikeさんのアイデアですか?これは私のアイデアです。あと膣外射精を表すアイコンですけど、当初このアイコンをつくるときに最初に思い浮かんだイメージというのは、中心から逸れるイメージでした。ですが、それは女性の側から捉えた経験ではありませんでした。女性にとっては、それは事後にきれいに拭くというものでした。セックスを表すアイコンもそうですけど、多くのアイコンに関して女性の意見をもらいました。セックスのアイコンについては、女性から男性を表すアイコンにするべきだという意見をもらいました。ですが、そのあとClueを使っているレズビアンの女性はこのアイコンを好まないという問題にもぶつかりました。彼女たちからしてみれば、このアイコンは女性であるべきだと考えますからね。

Clueは今のところ、異性愛者のカップルを標準にしてつくられています。それから説明文の中では、「women」という言葉を削除して、全て「person」または「people」に置き換えました。私たちは決してアクティビストではありませんが、セクシュアリティやジェンダーに関してオープンに捉える姿勢を支持したいと考えています。ですので、異性愛を規範とする考えに対抗する活動をサポートしています。性欲の無い方やトランスセクシュアルの方から連絡が来ることもあります。ですので最終的には、ユーザー個人がトラッキングしたい機能を選べて、自分にとってもっとも使いやすい形で Clueを自由にカスタマイズできるようにしたいと考えています。
Thank you again to Mike for taking the time to talk to us!

Mike LaVigne on Twitter: https://twitter.com/mikelavigne_

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