プロダクト開発の基本。ユーザーに愛されるプロダクトを作るためのポイントとは
皆さんにとってユーザーに愛されるプロダクトとは何だと思いますか?
- 「機能が充実している?」
- 「見た目が綺麗?」
本当にそうでしょうか?
今回ご紹介するのはユーザーに愛されるプロダクトづくりのポイントです。ユーザーに愛されるプロダクトとは何か、またそうした偉大なプロダクトを作り出すために何が必要なのかを一緒に考えてみたいと思います。
目次
成功したつもりだったけど・・・
「これはすごい!!絶対売れる!」と意気込んで開発したプロダクトが、いざリリースするとあまり売れなかったり、すぐにユーザーが離れてしまったり・・・
ソフトウェアやサービスの開発現場に携わる方にとって、一度は身に覚えのある話ではないでしょうか。
自信を持って生み出したプロダクトがユーザーの支持を得られないというのは大変悲しいことです。プロダクトがヒットするかどうかの結果は、プロダクトだけのせいではなく様々な要因が複合的に関わってきます。しかし、事業としてプロダクトをリリースする以上、やはりユーザーに愛され、必要とされるプロダクトでなくてはいけません。いかにユーザーを惹きつけられるかが企業の収益を左右し、さらに優れたプロダクトへと改善し続けるための開発投資の資金の確保にも影響を与えます。
そして、プロダクトの開発者には「テクノロジーで人の役に立つものを作りたい」「最新技術を活かして今までにないものを作り世界を変えたい」という想いがあるでしょう。しかし、その想いがユーザーに伝わらない、あるいは努力が実を結ばない環境だとしたら、開発担当者のフラストレーションはたまってしまい、モチベーションの低下を引き起こします。すぐれた開発者に力を発揮してほしい企業にとって大きなロスになってしまいます。
ユーザーに愛されるプロダクトの条件
さっそくですが、ユーザーに愛されるプロダクトが備えている条件とはなんでしょうか。
私が考える重要な条件は次の3つです。
1. ユーザーが価値を感じるもの
価値とは、ユーザーがニーズを満たすものだと感じることです。わかりやすくいうと、「ユーザーが抱えている問題を解決できるのか」、「目的を果たすためのサポート役として十分であるか」、この2点ではないでしょうか。
問題解決の簡単な例としては、掃除機があげられます。部屋が汚いままだとダニが発生したり、アレルギーになりやすくなりますが、掃除機は、素早く、強力に掃除をしてくれるので、こうした問題を解決します。
目的達成のサポート役という点では、トレーニングジムなどがイメージしやすいでしょうか。私の知人が今年の秋に結婚式をあげます。式に向けて彼女は理想の花嫁姿を目指していますが、一人でトレーニングするのは難しいため、ジムに通いパーソナルトレーナーのサービスを利用しています。
2.操作が簡単である・使いやすいもの
操作が簡単であること、アクセスしやすいなど身近に感じられるものは、ユーザーのリテラシーに依存しないため、幅広い人に使ってもらえます。さらに繰り返し使うことのハードルも低いので、使い慣れると多くの人の日常生活にすばやく浸透します。
シンプルなデザインで直感的な操作ができるiPhoneが顕著な例で、年齢や職業を超えて多くの層に使われています。
3.感情的な関係が築けるもの
世の中には、感情的なつながりをもてるプロダクトというものが確かに存在します。機能の豊富さや使い勝手のみならず、色や音、画面遷移といったデザインの雰囲気、あるいは利用した時の効果などが多くのユーザーにインパクトを与え、共感を呼びます。こうしたプロダクトは人々を夢中にさせ、感情的な関係を築けるプロダクトといえます。
私も最近見つけた、「いろいろなリモコンをすべて集約して使うことができる」というプロダクトが気になって仕方がありません。インテリアの邪魔にはならない手のひらサイズの黒い置物なのですが、正面に描かれたクマの愛嬌ある表情がなんとも言えず、遊び心を感じます。使ってみたい!という気持ちにさせられますね。
ユーザーに愛されるプロダクト開発の基本
ユーザーに愛されるプロダクトは、ニーズを機能面・心理面ともに満たしているとお話しました。そうしたユーザーのニーズに最適なものを作るために、開発の現場で意識しておきたい点が2つあります。
それは、「プロセス」と「マインドセット」です。
1.プロセス
ユーザーの声をプロダクト開発の最初の段階から拾い、統合できるプロセスこそが重要です。
これまでの一般的な開発プロセスは、ウォーターフォール型です。ウォーターフォール型の開発プロセスは、システムの開発を基本計画からテストまでの各工程に分け、段階を経て次に進めていく手法です。前の工程には戻らない前提なので、滝の流れに例えてウォーターフォール型と呼ばれます。そのため、ユーザーの声が初めて聞けるのはベータ版リリース時など全行程の最後の方になってしまいます。
この開発のリスクは言うまでもなく、作っているものがユーザーのニーズに応えられるものかが最後の最後までわからないという点にあります。もし求めているものとの間に大きな隔たりがあったら・・・ご想像の通りです。
対策として、最近はリーンスタートアップという考え方や、アジャイル的な開発方法論が注目を集めています。それぞれの詳細はまた別の機会にしますが、どのような点がウォーターフォール型と異なるのか、特徴をまとめてみました。
“WHY?”から考える
まずはじめに、ビジョンとミッションを明確にして戦略を立てることに注力します。
「ビジョン」というのは会社やプロダクトの理想像です。私たちが成功したら、世界がこうなるという大きな夢のようなものです。
「ミッション」はビジョンを実現するために必要な、より具体的なステップや行動です。
ビジョンとミッションの分かりやすい例としてディズニーをあげましょう。ディズニーのビジョンは「To make people happy (人をハッピーにする)」です。その理想像に近づくために、ディズニーは、世界一のエンターテイメントや情報を制作・提供する会社を目指しています。「コンテンツやサービス、製品を差別化するために、さまざまなブランドを含むポートフォリオを活かし、もっともクリエイティブで、革新的で、有利なエンターテイメントの体験やそれに関連するプロダクトを開発します。」とディズニーがミッションを定義しています。
ビジョンやミッションを明確にすると、個人は主体的に動けるようになり、かつチームとしては同じ方向を向いて動けるようになります。
このようにビジョンとミッションの明確化は、開発チームを一つにまとめるだけでなく、プロジェクトが目的に近づいているかを把握したり、開発の優先順位を決定する指針ともなります。悩みを抱えた時や、判断を迫られる時には、ビジョンやミッションに立ち返って考えます。総じてプロジェクトの進行は円滑になります。
ユーザーと市場を見定める
次に、対象となるユーザーを確定します。徹底的なリサーチでユーザーの課題やニーズ、特性を理解し、どんな人の役に立ちたいか考えていきます。
デザインやマーケティングでは「ペルソナ」と言われるものですが、理想のお客様像をイメージし、できるだけ具体的に捉え、チームで共有することが重要です。年代、性別、職種、社会的地位、年収、業務上の課題、関心ごと、よく見るサイト、家族構成、個人的な趣味趣向・・・たくさんの角度から架空の人物像を作りあげ、その人の心に刺さるものを提供していきます。
加えて市場環境や競合などの調査も大事です。ターゲットにしている市場や対象となるユーザーのボリュームが、ビジネスを成長させていくのに十分かどうか確認しなくてはいけないからです。
こうした調査情報に基づき、プロダクトが提供できる価値はなにかを追求します。
細かくテストを実行する
アジャイル的な開発では、仕様や設計の変更は当然あるという前提に立つので、初めから厳密な仕様は決めません。おおよその仕様をもとに細かいイテレーション(反復)開発を行い、小単位での実装とテストを繰り返しながら徐々に開発を進めていく手法です。この細かな単位での実装とテストが、アジャイル的な開発の大きな特徴です。
繰り返しますが、物事を判断をするときは、最初に定めた“WHY?”とユーザーの反応に立ち返ることがルールです。初期段階からチームを巻き込み、実装と細かいデザインを積み上げていきます。
ここで注意すべきポイントは、一気にプロダクトを仕上げることよりも、小さいもの(例えば簡単な機能)を一つずつ設計・デザインし、開発することです。実用最小限の限られた機能を持つプロダクトをテストすることで、開発初期から多くの人の意見を聞く機会を作ります。すぐに利用できる実用的な解決策と技術的な実現可能性を一致させていくことで、価値ある製品を迅速に提供できるようになります。
2.マインドセット
以上のプロセスが従来のプロセスと大きく異なるため、マインドセットを切り替えることも重要です。特に以下の3つのマインドセットを重視しましょう。
ユーザー目線を徹底する
残念ながら、ユーザー調査を重視せず、自分たちの感覚だけでユーザーに人気が出そうだというプロダクトを考えてしまったという失敗例は数多くあります。
売れるという自信を裏付ける十分な調査が行われなかった、断片的なニーズを拾ってしまった、先行で成功している企業の手法を参考にした・・・どれも突っ走るには準備が不十分です。
会社の方針や自分たちの思考にユーザーが必ずしも同じ考え方でついてきてくれるとは限りません。良かれと思って開発をしても、ユーザーが求めているものと違えば、それは販売の結果に表れます。
大事なのはユーザー目線の徹底です。機能にフォーカスするのではなく、ユーザーに価値を提供できるものかどうかを軸に考えることをオススメします。そのためにユーザー調査の徹底はもちろん、ユーザーの声や行動の観察もプロセスの一部に組み込んで考えると良いでしょう。
チームで良いものを作る
一人の天才のアイディアや決まった上司の指示をそのまま形にするのではなく、偉大なプロダクトを作ることに妥協せず、様々な視点から意見を持ち寄って議論していく体制が大事です。そのためには、デザイナー、エンジニア、PM、マーケティングなど部門横断ですべての関係者の力を結集しましょう。
ただし、最初から高い品質や完璧なものを作れるわけではありません。得意分野や持っている専門知識の異なるチームメンバーが、それぞれ疑問に思ったことから学び、ディスカッションを通じて試行錯誤を繰り返します。都度テストを繰り返し、失敗があれば違った方向を模索するのです。
このとき、ビジョンと戦略がある程度確定されており、チームメンバーがそれを意識できていれば、失敗は怖くないはずです。ユーザーの課題を解決できる、価値あるプロダクトは偉大なチームから生まれます。本質に立ち返りながら、アイディアに固執せず柔軟にチャレンジを繰り返しましょう。
失敗・不安を怖がらない
完璧主義のあまり完成度や品質にこだわりすぎてなかなかリリースできないというのも困ったパターンの一つです。満足のいくまで開発してリリースを遅らせることは、顧客にとって価値のないプロダクトを作るリスクを抱えることにもなります。
LinkedInの創業者であるレード・ホフマン氏(Reid Hoffman)の名言に「最初にリリースしたプロダクトを恥ずかしく思わなかったとすれば、リリースタイミングが遅すぎたと考えるべきだ。」という言葉があります。
新しいプロセスのもとでは、失敗や不安を怖がらないようにしましょう。
これまでのプロセスと異なり、早期からテストとイテレーションを繰り返すために、早い段階で自分の考えが間違っていることが明らかになる可能性があります。でもそれは大した失敗ではありません。最初は自信を打ち砕かれるようで落ち込むかもしれませんが、テストを繰り返すことでユーザーの期待に近づいていくため、最終的な失敗は避けられるのです。
また、ミッションとビジョンがあり、戦略が定まっていようと、実際に作っているものやプロセスが少しずつ変化する可能性はあります。不安になるかもしれません。しかし、初めからすべてが決められていない点こそが新しい開発プロセスの特徴です。テストの結果やユーザーの反応に合わせていくことで最終的なリスクは減らせるのです。不安がらずに、むしろその刺激や柔軟性を楽しめるマインドを持ちましょう。
さいごに
アジャイルやリーンスタートアップなど、馴染みのない言葉やコンセプトがたくさん出てきましたが、心配はいりません。今後、Goodpatch Blogでは適切な開発プロセスやマインドセットについて、より詳しくご紹介していきたいと思います。また、実際に業務でそれらをどのように利用できるかについても順を追ってご説明しますので、次回もお楽しみに!