「デザイン思考」で有名な、世界で最も有名なデザインファームの一つであるIDEO。1991年の設立以来、デザインの力を用いて数々の企業の問題解決の支援をしてきました。そんな彼らは、企業の問題だけでなく世界中にはびこる社会問題の解決に対してもデザインの力を応用し、支援する仕組みを作っています。その最たる例がOpenIDEOです。

今回はOpenIDEOの概要と、具体的にどのようなプロセスで社会問題の解決に取り組んでいるのかについて紹介します!

Open IDEOとは?

OpenIDEOより

OpenIDEOとは、2010年に設立された社会問題の解決を目指すオンラインコミュニティです。特定の個人や企業の枠組みをこえて世界中の人々の知恵や経験を駆使して困難な社会問題にアプローチする取り組みで、元IDEOのトム・ヒューム氏により設立されました。

ロンドンオフィスで働いていたトムが数年かけてアイデアを温め、ブラッシュアップし、情熱を持って実行に移した結果、実現されたプロジェクトです。当時のことを回想して、IDEO共同経営者・トム・ケリー氏はこう話しています。

彼のOpen IDEOにかける意気込みがあまりに強烈だったうえ、ミーティングでも情熱的にアイデアを語りかける姿に誰もが心動かされました。そのため、「彼を止めるべきだという意見の人はいますか?」と聞いたら、誰もいなかった。もちろん、その挑戦はリスクを伴い、コストもかかります。ですが、これほどの知識と情熱をもって挑戦しようとする若者がいたら、止める理由はありません。実際、彼は見事やってのけました。

引用:Open IDEO:貢献度の可視化がプラットフォームを活性化させる IDEO共同経営者トム・ケリー氏に聞く(後編)DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

OpenIDEOでは社会問題に対してどのようなアプローチが取られているのでしょうか?

どのように問題解決がおこなわれるの?

OpenIDEOにおいて、問題解決が進むおおまか流れは以下です。

  1. 企業や財団が解決したいと考えている問題をOpenIDEOのプラットフォーム上で公開し、世界中からアイデアを募る
  2. 集まったアイデアを取捨選択・ブラッシュアップし、実現可能なアイデアを選定する
  3. 選定されたアイデアを実行に移す

起案されたアイデアに対して世界中から協力が集まるという点では、クラウドファンディングの考え方に近いかもしれません。違う点は、世界中から集まるのが資金ではなくアイデアだということです。

ここからは、インドの水・衛生状況に問題意識を持ったWater.orgが実際におこなったプロジェクトを例に、OpenIDEOの問題解決プロセスを紹介します。

インドの低所得者層の水・衛生状況を変えるソリューションを世界中から募集!

OpenIDEO – Water and Sanitation Challenge より

起案したWater.orgは、安全な水にアクセスできない低所得層を支援している非営利組織で、これまでアフリカや南アジアなど13カ国1,000人以上の人々に、安全な水の入手と衛生環境の改善に貢献しました。

彼らが発起者となりOpenIDEO上で作成したプロジェクトは、「どうしたら、インドの低所得世帯の水と衛生に関するソリューションの拡大のために市場本位のアプローチを使えるだろうか?」というもの。

インドにおいては7,700万人が安全な水にアクセスすることが難しく、13億人の人口のうち7億6,900万人が衛生環境の良くないところで暮らしている状況にあります。

この状況を打破すべく、OpenIDEOでアイデアを募集しました!

アイデアには以下の条件を踏まえていることが求められていました。

  • インドの文脈を踏まえ、きちんと法的に登録された組織として実行されること
  • 継続的にインパクトを出すために、5人の従業員を雇い、年間売上は1億ルピー(150,000ドル)を見込むこと
  • 安全な飲料水へのアクセス・衛生施設が抱える問題を解決する取り組みであること
  • 慈善事業では持続可能なインパクトを与えられないので、きちんと長期的なビジネスとして成り立つようにすること
  • 何百万人もの世帯をターゲットに入れるスケール感を持つこと

デザイン思考のメソッドに沿ってアイデアの選定・実行へ

一連の問題解決プロセスは、IDEOが提唱する「デザイン思考」のマインドセット・メソッドが基盤となっています。今回のチャレンジでは、以下のプロセスに沿ってオンラインでアイデアの発散と収束がおこなわれました。

OpenIDEO – Water and Sanitation Challenge より筆者作成

①アイデア
このフェーズでは、関連するソリューションやアイデアがたくさん寄せられます。太陽光発電で動くポータブル浄水システムや、浄水作用のある粉、ケニア拠点の会社が開発する水のいらないトイレシステムなど、総計143に及ぶアイデアが約1ヶ月の間に世界中から集まりました。

②フィードバック
OpenIDEOのコミュニティから、投稿されたアイデアに関して質問が投げられたりフィードバックをもらったりします。継続可能性であるファクトは何か、インドでの実際に事業をおこなった経験はあるか、そのアイデアを実行するにあたってのリスクとその対策は何かなど、現実的なソリューションであることを見極めるためにさまざまな角度から質問が投げかけられます。この期間は2週間続きます。

③改善
アイデアの中で、インパクトが大きそうで実現可能性が高いアイデアに絞られるフェーズです。改めてチャレンジのゴールや目的に立ち返り課題をリフレーミングしたり、これまで気づかなかった視点からのフィードバックを送ったりすることで、143個のアイデアの中からから39個に絞られます。それぞれのアイデアのインパクトを高めるために、人間中心設計の観点にもとづき、4週間でコミュニティ一丸となってブラッシュアップを図ります。

④評価
この2週間では残った39のアイデアの中で、最低でも5個のアイデアに絞り込んでいくフェーズです。ここでは、Water.orgのメンバーやOpenIDEOの専門家がアイデアを評価し、始めに定めた条件に照らし合わせながら選定します。

⑤トップアイデア
評価フェーズを経て、10のアイデアにまで絞られました。それぞれのアイデアの起案者は賞賛され、世界へ向けて幅広く共有されます。インド初の電気トイレであるeToiletや起業家育成プログラムなど、多様なソリューションが選出されました。

⑥最終選定
10個のアイデアのうち、2つの団体がWater.orgと正式にパートナーシップを結び、プロジェクトを開始する運びになりました!それぞれの団体には約25万ドルが付与され、活動資金に充てられます。

⑦実行
実際に2つの団体はブラッシュアップされたアイデアを元にプロジェクトを実行に移します。

そのうち一つであるSamagraという社会的企業は、自宅にトイレの無い低所得者層向けのトイレのデザインを行うソリューションを提案しました。ただのトイレではなく、口座預金やテレビ・スマホの充電器、日用品の売店などを合体させたワンストップ型ショップを併設することで、きちんとお金がまわってトイレのメンテナンスもできるといったものです。

OpenIDEO – Water and Sanitation Challenge – Samagra (समग्र)より

このように、OpenIDEOでは世界中の知を結集させて、解決の難しい問題にアプローチしているのです!

さいごに

近年、日本ではクラウドファンディングがかなり当たり前の存在となり、世の中から資金を集めてプロジェクトを行う動きが増えてきました。OpenIDEOのように、資金だけでなくアイデアを募集し問題解決へ取り組む、という動きも増えていくかもしれません。

OpneIDEOに興味を感じたのは、当事者を増やせることにあると思いました。結果的に選ばれた団体は2つでしたが、その過程の間に143団体・8,000人以上がプロセスに関わり、アイデアのブラッシュアップが行われています。インターネット上で行われるので、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちによる多様な視点からのアイデアが生まれ、ムーブメントが広がります。

寄付ではなく、アイデア創出に多くの人を巻き込んでいくことで、当事者意識を持つ人を増やし、社会問題に関心を持つ人が増えていく流れを作れることが、このOpenIDEOの良さなんだと思いました。

今後の動きに期待です!