金融サービスを変革するデザインプロセスに迫る!証券×デザインの未来とは?

「FinTech」というワードを耳にすることが増えた現在、金融サービスにおけるデザインの需要が高まっています。
Goodpatchが主催するPrott User Meetup #24は、SMBCグループのオープンイノベーション拠点「hoops link tokyo」にて、株式会社SMBC信託銀行さま、株式会社SBI証券さまをゲストにお迎えし、金融サービスのデザインプロセスとプロトタイピングについて紐解きました。証券という歴史ある環境に、デザイン思考やプロトタイピングツールのProttはどのように根付いていったのでしょうか。デザイン組織を立ち上げるという視点でも、参考にしてみてください。

SMBC信託銀行|酒井 俊祐さん「お客様の体験を変えるための組織づくり」

個人金融部門 デジタル・バンキング部の酒井さんは、元スタートアップのCOO。銀行とは大きく異なるバックグラウンドを持つ酒井さんは、どのように組織でデザインの啓蒙活動を行なったのでしょうか。また、組織づくりにおけるProttの活用方法についても伺いました。

酒井さん:
スタートアップは人数も少ないため、プロジェクトごとにキックオフを行ったり、期ごとの締め会で会社の向かう先が社員全員に共有される傾向にあります。ワークショップなどを通じて「自分が会社にどんなバリューを出せるのか」ということを考える機会も多いと思います。
一方、組織が大きくなると業務が細分化されているため、担当業務以外のことに目がいかない、全体を俯瞰して業務を行う意識が乏しいのではないかという問題意識を持ちました。
「このままではお客様の体験は変わらない」と考え、こうした課題を解決していくための方針を決めました。

まず取り組んだことは、組織を作りなおすことでした。関係者全員を集めて、会社の方針や、やるべきこと、そのためには自分が何をできるか考え、ワークを行う時間を増やすようにしました。「自分ごと」として会社やプロダクトの改善を捉えるカルチャーを定着させることが狙いでした。

具体的にやったことを紹介すると、Prottを使って、ペルソナを元にプロダクトを作ってみるというワークショップを行いました。このワークショップを通して、まずはプロトタイプを作ってみることと、プロトタイプをいちユーザーとして触った時どう思うか?という、ユーザー視点をチーム内に取り入れられました。
このように組織改善がメインで、目に見えるプロダクト改善はまだまだな状況ですが、得たナレッジを元に、三つの取り組みをしました。

まず取り組んだのは、トップページのリニューアルです。

好みは人それぞれだとは思いますが、今までのトップページは、初めて訪れるお客様がどうしたらいいのかがすごくわかりづらいという課題がありました。情報に強弱がなく、何がこの中でも重要とされる情報なのかがわからないという要因があったので、改修に取り組むことにしました。

そこでバッサリとメニューや、「ご注意ください」の類はここではいらないよね、と引き算して、お客様が知りたいキャンペーンや、為替の情報にフォーカスしやすく作り直しました。

現行のトップページ

結果的には、とても低かったトップページのCTRを、10倍ほど伸ばすことに成功しました。これが一つ目の取り組みです。

二つ目の取り組みは、メールマガジンUI統一化です。私たちは2日に1回くらいのペースでお客様にメールマガジンをお送りしているのですが、今まではこのようなものを送っていました。

ご覧いただくと感じると思うのですが、ヘッダーが揃っていればよいという話ではないんですよね。情報設計や導線の作り方、モジュールなどがバラバラで、同じ企業が発信しているものとしての統一感が少なく、CTRでも伸び悩んでいました。そこで、全てのフォーマットを統一するプロジェクトを始めました。

改修後は、ヘッダーのトーンを揃える以外に、アクションボタンのモジュールを統一したり、「同じ銀行が同じ価値観でメールを送っている」ことを、メールマガジンというお客様がよく目にするものから伝わるように変えていったという感じです。定量的にCTRが上がったという話もありますが、もっと感覚的な部分で、「見やすくなった」というお声も結構いただくようになりました。

三つ目が、口座開設フォームのUI/UX改善というプロジェクトです。
SMBC信託銀行は、オンラインで口座開設が可能ですが、口座開設フォームの入力途中で離脱してしまう比率が高いという課題がありました。離脱の原因としては、単調な画面デザインが続くため、打ち間違えをした時の修正場所がわかりづらいなど、画面のデザイン(UI/UX)に起因するのではないかと想定し、実際そのような指摘をいただくこともありました。さらに、画面のフロー自体にも課題がありました。口座開設の情報入力をする前に、一旦メールアドレスを登録する必要があり、受信メールに記載されたURLでログイン認証を済ませた後でないと、口座申し込み情報の入力や本人確認資料のアップロードを開始できませんでした。他の銀行さんはもっとシンプルで、本人情報を入力→資料アップロードで申し込みが完了するというシンプルなフローになっていました。

そこで、以下の二点に取り組みました:

  • 画面フローから変えていくこと
  • それぞれの画面のユーザビリティを変えていくこと

出来上がったフォームがこちらです。

字のトーンやモジュールを統一した他にも、「今は何を入力しているのか」をお客様が分かるよう、字をつけたりしました。どうしても情報が多いので、お客様が何をしている状況なのか忘れないようにしたんです。必須項目や、あと何項目入力するのかの案内をつけたりといった細かいUI改善を行いました。

この改善を策定するにあたり、「現行のフォームの改善点」を全員でわいわいしながら出し合う、という2時間のセッションを3回くらい繰り返し、そこで挙がった改善ポイントを全て改善した、というのが改修後のフォームです。

社内で実際にサービスを触りながら課題を改善していくプロセスを導入することで、実際に成果を出すことが出来ましたので、このプロセスを今後も続けていければと考えています。

最後に、私なりのUI/UX向上のポイントを3つ挙げさせていただきます。

「なぜUI/UXなのか」を明確にする

UI/UXを磨かなくても、他に勝てるビジネス要素があれば、わざわざ取り組む必要はないと思うんですよね。時間もお金もかかるUI/UXに、それでも挑むのはなぜなのか?というWhyを明らかにすることが大事だと思います。

やると決めたらカルチャーから変える

カルチャーから変えるためには、口うるさくすることが効果的です。始め私は、どんなに小さな制作物に対しても、「本当にこれでいいの?」と尋ねることを意図的に行なっていました。すると、徐々に「体験って大事なんだ、これ一つとっても体験づくりなんだ」という理解が広がっていくようになるのかなと思っています。

すべてはお客様の体験次第。プロトタイピングで改善し続ける

いくら「やるべき、こうあるべき」と言ったとしても、すべてはお客様の体験次第なので、プロトタイピングでどんどん改善し続けることです。私たちのサービスではまだアプリもなく、Prottを活用できる場も少ないので、引き続き改善を続けていきたいです。


個人情報を取り扱う金融サービスならではのUIデザインや、体験づくりの難しさが垣間見えるお話でした。UI/UXを磨くためには、すぐに施策に取り掛かるのではなく、長期的な視点で組織のカルチャーから変えていくところがポイントなんですね。

株式会社SBI証券|阿部 佳明さん「SBI証券の課題解決への道のり」

株式会社SBI証券様は、Goodpatchがデザインパートナーとして2017年からお手伝いをさせてもらっています。2018年2月に立ち上がったUXデザイン室室長の阿部さんより、組織における課題解決に道のりについてお話しいただきました。

阿部さん:
私は3年前にSBI証券にジョインして、その時の金融商品のラインナップはこのような感じでした。

この商品に対して縦割りの部署が存在していて、それぞれから出てくるアウトプットはバラバラでした。課題感として、UIデザインの統一感がないこと、その課題がSBI証券のブランド力を低下させているのではないか、というものがありました。
しかし、現在に至るまでどんどん商品が増え始め、このままではますます独自化が進んでしまう懸念がありました。これらを一括の横串で管理するためには、一定の協力と増員が必要になるとわかりました。そこで取り組んだのが、デザインチームの立ち上げです。

デザインチームを立ち上げるために取り組んだこと

デザインチームを立ち上げるにあたり、取り組んだことは3つです。

  1. UXデザインの理解を深めるための啓蒙MTG
  2. UX関連のキーワードを使ったコミュニケーション
  3. 「デザイン」とつく仕事は、すべて受ける

しかし、この3つはすべて失敗してしまいました。その理由を一つずつご紹介します。

1. UXデザインの理解を深めるための啓蒙MTG

僕のエゴが入ってしまったこともあるのですが、金融商品の担当者は朝7時から来て、日々の相場に左右されながらも情報提供をして、企画や、時には画面設計もしなければならない。そんな彼らを定期的にMTGに呼び、UXについて語るとのは現実的ではなかったんです。

2. UX関連のキーワードを使ったコミュニケーション

UXを理解してもらいたい一心で、「ユーザーインタビュー」「ジャーニーマップ」「ペルソナ」など、UXデザイナーの言葉を多用していました。でも、これって金融用語の「逆日歩」「約定」「ダークプール」などと一緒で、急に言われてもわからないものなんですよね。最終的には「ジャーニーマップ」「ペルソナ」などは、遠回しな言い方で表現するようにしました。

3. 「デザイン」とつく仕事は、すべて受ける

UXデザインの改善につながるということで、業務効率化の提案や社内向けプレゼン資料の作成、新入社員研修など、「なんでも屋」に徹しました。しかし、このころはまだ僕一人だったので、業務内容も分散していて、なかなか成果に結びつける事ができませんでした。

これらに取り組んでいた中で、2年が経過していました。しかしこの2年間は無駄にはなっていなくて、色々な部署との連携の中で、少しずつUXデザインの重要性が浸透していったのだと思います。変化として、グッドパッチさんを紹介いただいたり、新卒の社員が配属されるなどグッドニュースが増え始めまして、2018年2月にはUXデザイン室誕生まで漕ぎ着けることができました。
実はグッドパッチさんを紹介いただいてから、1年経っていないのですが、今後はこんなことをやろうと思っています。

まず、金融業界でデザイナーが気持ちよく働くことができる環境を整えようと思っています。グッドパッチさんにも、オフィスに来ていただいているのですが、あるスペースに大きなMacがドーン!と3台置いてあるんです。これだけでも存在感があって、「UXデザイン室ってなんかやってるな」と認識されるようになるんです。結果として社内の雰囲気はかなり変わりました。まだ出来立てなので、「プロジェクトにどう関わってくれるのか」「どんな責任を持っているのか」を顕在化していきたいと思っています。
次に、根気よく謙虚に、黒子に徹することです。ユーザーニーズと、経営がやっていきたいビジネスニーズの調整が難しいのですが、根気と謙虚さを持って粘っていきたいです。

株式会社グッドパッチ|畠山 糧与「グッドパッチのデザインパートナーとしての取り組み」

最後にグッドパッチのUXデザイナー 畠山から、SBI証券様との取り組みをどのように支援して来たのか、具体的な施策をお話しさせていただきました。

畠山:
2017年4月、プロジェクトの初めにお会いした際、阿部さんは一人でデザインを浸透させる取り組みを行われていました。社内でUXデザインが大事ということは伝えてきたけれど、自分自身でもうまく説明できず、関係するメンバーを巻き込めないことがあったり、メンバーから共感を得られないという課題があるとお話をしてみて分かりました。

そこで最初の半年のチャレンジは「デザイナー以外の人に、いかにデザインの価値を伝えられるか」に重点を置いてきました。この時期心がけていたことは、二つあります。

1. まずは効果実感

「UI/UXデザインという言葉は聞くようになったけど、どう取り組んでいいのかわからない」「実際どのくらい数字が上がるの?」という話は今もよく上がることだと思います。僕たちがSBI証券さんのオフィスに常駐し始めた頃も、同じ話題が出ることがありました。
そこで、効果実感を示すために、スマホトップの改修を行いました。3ヶ月で重要なKPIを改善できたことは大きかったと思います。

デザインスプリントで、クイックに仮説検証からプロトタイプ作成、ユーザーテストを繰り返していく形をとりました。しかし、いくらクイックでも、多忙な方はデザインスプリントの全ての工程に参加することは難しかったので、最小限のコミットでも関心を持っていただけるように次のような工夫をしていました。

  • 仮説検証の優先順位づけ
    整理された課題の中で、検証する優先順位をつけなくてはなりません。「何について検証するのか」という仮説検証の優先づけの議論には、SBI証券さまの社員の方に必ず参加いただくようにしていました。
  • ユーザーテスト
    弊社のプロトタイピングツールProttとユーザーテスト録画ツールのLookbackを連携させてユーザーテストの準備をしました。自分が提案した仮説がどうUIに起こされて検証されたのか、きちんとフィードバックするようにしました。忙しい方でも、どんな仮説の元にUIデザインが作られて、どんな結果になったのか分かることで、「こんな風になったんだ」という気づきを持ってもらえることを心がけていました。

2. 相手の言語で伝える

専門用語をまくしたてられると身構えちゃう人って、多いと思います。そこで、まずは相手の言語を理解した上でそれに合わせて伝えることを心がけてきました。相手がマーケティング担当であれば、マーケティング用語を適宜交えながらデザインの話をするような感じです。これによって、このデザインで何をどのような課題をどのように解決したいのかきちんと伝わるようになりました。「このターゲットペルソナのカスタマージャーニーが…」と話すのではなく、「この方の検討ステップをAISCEASで見たとき、今回は…」と翻訳して話す感じです。

後半では、前半に心かげた二点を踏まえてSBI証券さまが自走できる組織づくりに取り組んできました。これは現在進行形です。直近半年で心がけていることは以下の3つです。

まずやってみせる、一緒にやる、やってもらう

先述したように、デザインプロセスではスプリントを回していくのですが、スプリントをなんども繰り返す中でSBI証券さまの中で浸透していきました。血肉にしていってもらうということですね。実際に、新卒入社されたメンバーの方も、未経験から半年で、デザインプロジェクトを主導できるようになりました。はじめは弊社側でユーザーインタビューを主導していましたが、今は新卒の方がインタビューの設計からモデレーションまで一貫して行なっています。

プロセス全体を最適化する

デザインスプリントは1週間で終わっても、そのあとのレビューや実装に時間がかかってしまい、制作スピードが遅くなってしまうという課題がありました。

そのために、作業工数を圧縮し、UIのコンポーネントを統一化したり、Prottを始めとしてZeplinやAbstractなど便利なツールをどんどん導入しました。あとは、各部署の主要メンバーを初期のスプリントから巻き込むようにして、スピードをどんどん上げていこうと思っています。

もう一つの課題に、リニューアル重視であることも挙げられました。リニューアルしたけれど、それだけで放置されてしまう事態を防ぐために、正しいKPIを見直し、データ分析の支援をしたり、ナレッジを蓄積していくことを行っています。

当事者意識を持って取り組む

まだまだ現在進行形で進めているところです。内部でどう人材を育成していくか、経営層のコミットをどう引き出すかなど、やらなければいけないことはまだまだあります。総力戦で色々なところから協力を仰ぐ必要があることも、この半年でわかってきました。なので、当事者意識を持って粘り強くお手伝いを続けていきたいと考えています。


金融サービスのデザインプロセスを紐解いたPrott User Meetup、いかがでしたか?今回は、グッドパッチのUIデザイナー兼グラフィックレコーダーの香林によるグラフィックレコーディングもあり、会場の注目の的になっていました。

三者の登壇内容から、銀行という大きな組織においては、最初からデザインプロセスを実践できるわけではなく、組織に新しい視点をインプットすることが重要かつもっとも苦労する点なのだと分かりました。しかし、組織の課題に真摯に向き合うことで、金融領域にデザインによる変革をもたらしている2社の動きには、引き続き注目していきたいですね!

お金の価値に多様な価値観が生まれ始めていることから、金融サービスは今後さらなる変化を求められるでしょう。デザインがどのように変革に影響をもたらすのか、今後もFinTechとデザインの関係からは目が離せません。
最後に、「今後のPrott User Meetupでこんなテーマの話が聞きたい」などご要望がある方は、ぜひ @Prott_jpまで教えてください。お待ちしております!

ABOUTこの記事をかいた人

Kaori Sugimoto

エディターをしています。デザインをもっと身近に感じてもらえるように、色々なコンテンツをお届けします!
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