日本で昔から伝わる職人技。しかしその職人技で生まれた素敵な工芸・民芸品の中には、まだ世に知られていなかったり、歴史が途絶える危機に晒されているものがあることも事実。だからこそ、デザインの力の重要さは増していると考えられます。今回は、デザインが支えている日本の伝統工芸品の事例を5つご紹介します!

1.飾りコマ

「山形県100年の歴史を守る」木工玩具製造とデザインのタッグ。

飾りコマは、100年以上の歴史を持つ山形県米沢市の木地玩具工房「株式会社つたや物産」と天童市のデザイン事務所「株式会社コロン」とのタッグで生まれた民芸品です。大量生産が難しい職人の仕事は、時代の変化と共に減少してしまうものですが、「100年の歴史と昔ながらの木工玩具がなくなってしまうのはもったいない」とデザイン事務所コロンとのプロジェクトが始まりました。

山形県の特産品「こけし」や、山形県出身の童話作家・浜田広介さんの「泣いた赤鬼」など可愛らしいキャラクターをコマに一つ一つ手書きで仕上げていきます。「コマは回している時よりも、回していない時間の方が長い」という目線から、回していなくても飾って楽しいコマが出来上がりました。

今までは「遊ぶため」のものだったコマに、「飾って楽しむ」という機能を与え、現代の感覚にもチューニングを合わせた素敵な事例です。飾りコマは、山形エクセレントデザイン賞を受賞している他、多くのお店で展開され、メディアにも多く取り上げられています。

山形の歴史や伝統を知ることもできる素敵なこの飾りコマ。是非みなさんもおひとついかがでしょうか?

2.紙和 SIWA

山梨県の和紙小物ブランド

photo by SIWA 紙和

紙和 SIWAは、1000年の歴史ある和紙産地である山梨県市川大門の和紙メーカー大直と工業デザイナーの深澤直人さんが作っている全て紙製のバッグや小物のブランドです。「紙の可能性を広げる日常品」をコンセプトに製作しています。大直が開発した重さや水にも強い紙「ナオロン」はもともと障子紙として使われていて、雨に濡れても水に強く、重さにも強いという特性があります。

「ナオロンという重さや水にも強い紙を現代の生活にインストールし、伝統工芸という枠組みから超え、もっと身近なものにしたい」という想いから、しわのつく和紙を素材に使い、経年変化を楽しめる小物たちがつくられました。使うその人だけのしわでできた経年変化は愛着を生み、長く使おうと思わせてくれます。大量消費の時代に、一つのものに想いを持って使い続ける大切さを感じられるデザインです。

紙では普通作らないものにアウトプットし、非日常を日常にインストールすることでさらに製品の付加価値が上がります。他にも、ペンケースやお財布、A4が入る封筒など展開されている種類も豊富。自分の好みの小物を自由に選べる選択肢が広いのも魅力的ですね。私自身もペンケースと封筒を愛用しています。

3.bench

奈良県の”ファッション便所サンダル”ブランド

photo by bench

benchは、「奈良の良品を世界の良品に。」というコンセプトで展開されるファッション便所サンダルブランドです。デザイナーの藤澤豊生さんは、便所サンダルは、実は優れたデザインをしていることに気づき、耐久性やクッション性、小石が入らないような設計にプロダクトとしての魅力を感じていました。そして「便所サンダルというイメージを払拭することができればファッションのマーケットに受け入れられるのでは」と感じ、商品開発に着手したそうです。

訴求の仕方を変えることで年代の広い層に知ってもらう機会を作ることができます。普段考えられないものと掛け合わせてデザインするということは、新たな価値づけには必須の考え方です。

レザーのような高級感も漂っていて、一風変わったプレゼントなんかにも面白いですよ!

4.筒井時正玩具花火製造所

 江戸時代当時の手持ち花火を作り続ける日本で唯一の製造所

筒井時正玩具花火製造所 イメージ1

photo by 筒井時正玩具花火製造所

筒井時正玩具花火製造所は、子供向け玩具花火の製造を続けて約90年も続けています。国内唯一の線香花火製造所であった製造所(福岡県八女市)が1999年に廃業し、日本の線香花火は消えてしまうところを3代目筒井良太が線香花火の製造技術継承を願い、すべてを引き継ぎました。

筒井花火 ワークショップ イメージ1

こちらの製造所では、子供向けに、線香花火を一緒に作るワークショップを開催するなど、伝統的技術をカジュアルに体験できる場をデザインしています。知ってもらうためには買ってもらうのが先ではなく、体験してもらうことが大切です。こどもたちに魅力を伝え、子供たちがその魅力をどんどん発信していくことで、一度は消えかけた線香花火は今現在も大輪の花となって咲き続けています。商品を売るためコミュニティからデザインしていくという一例です。「花火を体験すること」に面白さがあるのは当然ですが、「それがどう作られているのかを体験すること」も普段の人は体験できない領域ですから、目新しさもあり興味をそそられます。当事者は普通だと思っていることも、他人からすると貴重なものであり、その視点を持つことで新しい価値を見つけられるのではないでしょうか。

5.タダフサ庖丁

 心込めた職人の斬れ味

庖丁工房タダフサ

photo by 庖丁工房タダフサ

タダフサ庖丁は、1600年中頃から鍛冶の町として栄えた新潟県三条市で、創業当時から手造りにこだわり、家庭用や本職用の庖丁をはじめ、蕎麦切り庖丁、漁業用/収穫用刃物などを日々製造しています。 「和洋にとらわれない現代のライフスタイルに合わせて選べる種類の多さ」が魅力の庖丁です。

庖丁工房タダフサ 庖丁

そんなタダフサの庖丁は、もともとは300種類の取り扱いがあったそうです。しかし、消費者の「どれを選べばいいのか分からない」「最初に買うべき庖丁を知りたい」という声に気づき、庖丁の種類を減らしています。さらに、まずはこれがあれば大丈夫という「基本の3本」と「次の1本」をセットにするなど、戦略を変えました。「基本の3本」は現在もヒットし続けており、中でもパン切り庖丁は予約待ちになるほどの人気を誇っています。職人技で作られており、男性的なイメージを持たれやすい庖丁に、木や丸みで女性らしさを加えるなど、リブランディングで成功した事例と言えます。

温故知新の心を大切にしていて、日々変化を遂げながら職人の手造りの庖丁をその想いと一緒に届けています。ブランドのコンセプトをしっかりと見定め、よりシンプルなコンセプトを持つことは、どの領域においても共通する考え方の一つだと思います。

まとめ

今回は、デザインの力を活用していると言える地方の工芸・民芸品をご紹介しました!普段見逃しているかもしれない魅力を最大限に引き出し、新たな価値へと変えて現代にインストールしている素敵なものばかりです。これらの考え方はどの領域のデザインでも重要な考え方です。そしてこれらの商品をぜひ手にとって、魅力を最大限に活かす方法を身近なアイテムから感じてみてください。

他にもGoodpatch Blogでは、デザインをする際に重要な「デザイン思考」についての記事もございますので、是非読んで見てください!