SBペイメントサービス株式会社は、ソフトバンク株式会社(以下、SB)の100%子会社であり2004年に設立された会社です。SBグループの決済・金融事業を担い、その大規模なトランザクションへの対応の中で培われたシステムや業務におけるナレッジをもって、お客さまへ確かなサービスを提供しています。

そんな同社が課題に感じていたのは「決済サービスを利用する加盟店の満足度向上」。この大きな目標に向けて、どう着手すべきか具体的なアクションを決めかねていたと言います。

今回Goodpatchは、顧客満足度向上に向けた組織の立ち上げからプロダクト改善の提案、オペレーションの改善も含め、顧客体験(CX)の向上までをトータルで支援。プロジェクトを通じてどんな成果が得られたのか、前後編の2本立てでお届けします。

調査を通じて明らかになった課題の解決に向け、ワーキンググループを組成するまでを書いた前編に続き、後編では各ワーキンググループでどのような施策を行い、どんな成果が得られたかをメンバーに語っていただきました。

話し手:
SBペイメントサービス 企画推進本部 副本部長 波田野さん
SBペイメントサービス データ戦略室 室長 奥川さん
SBペイメントサービス 営業本部 営業戦略部 マーケティング課 課長 木村さん
SBペイメントサービス システム本部 カスタマーサービス部 日比さん
Goodpatch デザインストラテジスト 高橋
Goodpatch UIデザイナー 金渕

「ログインボタン」の配置で議論が白熱? デザインガイドライン策定までの道

──本プロジェクトでは、4つのワーキンググループを中心に活動していたと聞いていますが、それぞれどのようなテーマを掲げていたのでしょうか。

SBペイメントサービス 奥川さん:
まずは「全体導線プラットフォームワーキンググループ」。これは加盟店さまが使うツールやWebサイトの改善を目的としたグループですね。2つ目は「コンテンツワーキンググループ」。FAQコンテンツや開発者の方々に向けたコンテンツの充実化を目指すグループです。

3つ目は「サポート高度化ワーキンググループ」です。これはツールを使う加盟店さまの声をもとにサポートを改善していくプロジェクトでした。最後は「CX委員会」という、KPI策定や予算計画など、全社横断でのCX施策を推進するチームですね。

──木村さんは、全体導線プラットフォームワーキンググループでしたよね。いつからどのような活動をしていたのでしょう。

SBペイメントサービス 木村さん:
2022年の6月ごろからでしたね。加盟店さまが使うツールやWebサイトの改善ということで、ユーザー体験という観点からツールや導線を見直し、最終的にデザインを進める際の指針となる「デザインガイドライン(※)」の策定までを行いました。

(※)文字・色・ボタン・画像などさまざまな要素について、ルールを詳細に定義したドキュメント

SBペイメントサービス 木村さん

SBペイメントサービス 営業本部 営業戦略部 マーケティング課 課長 木村さん

──ガイドラインは、どのようにして作っていくのですか?

SBペイメントサービス 木村さん:
まず私たちから、Goodpatchさんにアクセス履歴などの定量データに加え、失注や解約の理由といった定性的なデータを共有することから始めました。

そこから社内ステークホルダーへのヒアリングや、Goodpatchさんとのワークショップを通して得られた知見も組み合わせて考察し、あるべきユーザー体験をワーキンググループ内で言語化していきます。最後に目指すユーザー体験に照らし合わせながら、ガイドラインを作成するという流れです。Goodpatchさんには、その都度テーマやフレームを提示いただき、プロジェクトをリードしていただきました。

──なるほど。ワーキンググループの活動で印象的だった点はありますか?

SBペイメントサービス 木村さん:
完成したデザインガイドラインの冒頭に「会社の想い」を提示していることです。目には見えない「概念」をデザインに昇華させる。これはGoodpatchさんと一緒だからこそ実現できた部分ですね。今までの僕らにはなかった発想でしたから。受注率などのKPIではなく、会社の想いからデザインを決めるというのはとても新鮮な気付きでした。

デザインガイドラインの一部

デザインガイドラインの一部

──ガイドラインが決まるまでの過程では、さまざまな議論があったとは聞いていますが。

Goodpatch 金渕:
確かにWebサイトに配置している「ログインボタン」一つとっても、議論が盛り上がりましたよね(笑)。

──え、それはどういうことですか?

SBペイメントサービス 木村さん:
加盟店さまが訪れるWebサイトであった話ですね。これまでは新規顧客の獲得をミッションとして運営していたので、そのための導線に注力したデザインになっていました。そこにGoodpatchさんから「新規だけじゃなく、既存顧客も大事にしないといけない」という意見をいただき、方針をめぐって議論が白熱したという感じです。

Goodpatch 金渕:
最近のSaaSを見ていると、既存顧客向けにログインボタンをサービスサイトの右上に大きく表示させていることが多いんです。このデザインを提案したところ、「ログインボタンが目立ってしまって、新規顧客の獲得に悪影響が出るのではないか」という意見も出ました。会社のための最善の方法は何か、という視点で結論まで持っていけたのが印象に残っています。

Goodpatch 金渕

Goodpatch UIデザイナー 金渕

SBペイメントサービス 木村さん:
そういうこともありましたね(笑)。基本的に僕らの方がサービスについては分かっているはずなんですよ。でもGoodpatchさんは臆せず意見をぶつけてくれる。そういう点から、このプロジェクトを本気で成功させようという気概を非常に強く感じました。

障害対応メールにも「ガイドライン」。受け手目線のコミュニケーションを徹底

──日比さんはサポート高度化ワーキンググループということで、取り組んだ内容を教えていただけますか。

SBペイメントサービス 日比さん:
サポート高度化ワーキンググループでは、これまでのサポートのやり方を改めて見直し、加盟店さまのためのサポートになっているかの点検を行いました。提供ツールのあり方や回答をいかに分かりやすく早く行うか、など、さまざまなことに取り組んだのですが、Goodpatchさんには当社がおそらく苦手とするだろう2つの課題に協力していただきました。一つはVoC(Voice of Customer:顧客の声)分析を通じて自社サービスの改善を行うこと。もう一つは決済システムの障害が発生したときに加盟店さまに送る「障害報」の改善です。

まずVoCの取り組みについてですが、そもそもSBペイメントサービスの中で、顧客からの問い合わせやリクエストをサービス改善につなげていく仕組みがきちんと整備されていませんでした。これまでは個別に対応するのみで終わってしまっていて、サービス全体の改善や顧客満足度の向上といった動きにつなげられていなかったのです。

そこでGoodpatchさんに入っていただき、まずは問い合わせ内容全体を見て、加盟店さまが困っていることを整理するところから始め、サービス改善へとつなげる枠組みを一緒に作成しました。

もう一つの「障害報」は、障害発生時に加盟店さまに一斉にメールをお送りするものなのですが、具体的にはメール文面の改善に着手した形です。

SBペイメントサービス 日比さん

SBペイメントサービス システム本部 カスタマーサービス部 日比さん

──メールの文面ですか?

SBペイメントサービス 日比さん:
単に「障害が起こりました」という事実だけを発信しても、メールをもらった加盟店さまとしては「それで何?」と感じるでしょう。無意識のうちに、当社側の対応が冷たい印象を与えてしまっていたんです。加えて提供ツール、プロダクト単位ごとに統一性のない文面をお送りしてしまっていました。

今回、Goodpatchさんが加盟店さまにインタビューいただいた内容を基に改善を進め、文面を確定した上で、最終的に、メールにおけるガイドラインも提案いただきました。

件名やフッターはこう記載したほうが分かりやすい、といった細かなところから今まで考えたこともなかった受け手目線の観点を示してもらいました。ガイドラインを見た社内の声もポジティブで、今後これを基にメールテンプレートを作成したい、という声も挙がっています。

Goodpatch 金渕:
日比さんは、加盟店からのご連絡に全て目を通しているといっても過言ではないほど、加盟店に対する理解が深い方でした。事情に精通しているキーマンが参画してくれていたのは心強かったですよね。僕らは、日比さんたちが認識されているご意見を整理する「コーディネーター」のような役割が強かったように思います。

──メールのガイドラインも「デザインガイドライン」との相関があるのでしょうか。

Goodpatch 金渕:
そうですね。両者で連携しながら作ったので、方針の関連性はあります。ある意味「憲法」のような形で、複数のガイドラインに共通する指針も作っていたので、その指針に従って「法律」となる各ガイドラインを作っていった形です。

──日比さんはこのプロジェクトを通じて、仕事の仕方や考え方に変化はありましたか。

SBペイメントサービス 日比さん:
Goodpatchさんから教えていただいた「カスタマーサクセスを成功させるための5要素」は今後も使える考え方だと思っています。

これまで問い合わせに対して「早く対応しよう」という気持ちばかりで、そもそも加盟店さまが本当は何に困っているのか、その上で加盟店さまが困るポイントをどう取り除いていけるか、といったことまで考えが及びませんでした。今こうした考え方を持てているのは、5つの要素を言語化してもらえたからですね。

カスタマーサクセスを成功させるための5要素

「ウチの部門」から「わたしたちの会社」へ メンバーの視野が広がり、会話の主語が変わった

──今回、納得感のあるデザインガイドラインが策定できたと聞きました。成功した要因はどこにあると思いますか?

Goodpatch 高橋:
プロジェクト全体を考えると、デザインガイドラインの作成までに、助走となるリサーチ期間をしっかり確保できたことだと思います。「加盟店さまがSBペイメントサービスに何を期待しているか」「SBペイメントサービスが選ばれる理由は何か」といったリサーチを通して、SBペイメントサービス“らしさ”を事前に明確化しておくことができました。

デザインガイドラインは、見た目がきれいなだけでは不十分で、その会社“らしさ”が端的に伝わるものでなければなりません。SBペイメントサービスさんの強みや個性を十分に理解してからガイドラインに着手できたことは、私たちデザイン会社にとっても非常にありがたかったですね。

Goodpatch 高橋

Goodpatch デザインストラテジスト 高橋

Goodpatch 金渕:
デザインガイドライン自体の話でいうと、やる部分とやらない部分を明確に決めていたところでしょうか。例えば「この要素はデジタルプロダクトでは守ってほしい、でも広告では守らなくていいです」というように。

広告を作るときにガイドラインを守りすぎていたら、逆に魅力が損なわれてしまうこともあるでしょう。こういった枠組みをあらかじめ固めていたことで、意思決定がスムーズになったと同時に納得感も生まれたのかもしれません。

SBペイメントサービス 木村さん:
これまでは、各部署がそれぞれ制作会社と一緒に必要なクリエイティブを作っていました。そこにデザインガイドラインという「旗」を立てることができましたよね。

SBペイメントサービス 奥川さん:
各提供ツールの担当部門が各々のルールで動いていたので、デザインガイドラインがあることによって、会社として整合性が取れるようになったように思います。

──現在は各ワーキンググループで一定の成果が出たフェーズだと伺っていますが、改めて今回のプロジェクトを通して得られた成果として、どのようなものがあると考えていますか?

SBペイメントサービス 波田野さん:
プロジェクトとしては、各グループで出た方針を基に実装のフェーズに進んでいくところでして、最終的な成果はこれからですが、まず「われわれが今何をすべきか」という結論が出たのは会社として大きな一歩だったと考えています。

加えて、これまでは「わたしが」「わたしの部門が」という姿勢だったところから「わたしたちの会社は」というふうに、主語が変わり始めているのを感じています。メンバーの視野が広がり始め、会社として良い方向に変わったのではないでしょうか。

SBペイメントサービス 波田野さん

SBペイメントサービス 企画推進本部 副本部長 波田野さん

SBペイメントサービス 奥川さん:
波田野が言った通り、考える範囲が部門を飛び越えたのは大きいですよね。これまでは、ある課題に対して「じゃあこの部門が担当ね」というふうに明確に解決組織が分断されていました。今では、部門の課題ではなく、会社の課題として捉えられるようになる兆しが見えてきたのも良い変化だと思います。

グッドパッチの印象は、ITビジネスのあり方を「顧客視点でリデザイン」する会社

──なるほど。さまざまな課題に対して「自分ごと」に捉えるようになったということかもしれませんね。プロジェクトを共に進めたGoodpatchへの感想や印象もぜひ教えてください。

SBペイメントサービス 波田野さん:
コミットとスピード感がすごいですよね。社内に蓄積されたノウハウなどもあると思いますが、それ以上に個人の熱量がすごい。金渕さんなんて「こうなるといいですよね」とお話したことをその日のうちに「できました」と作って見せてくれるんですよ。そのスピード感には、本当に驚かされました。

SBペイメントサービス 奥川さん:
やり切る姿勢とデザインのスピード感はさすがだと思いました。しかも、きれいで分かりやすいデザインが出てくる。実際に作る前に根本的な考え方や思想をしっかり話し合っていることで、コンセプトが崩れにくい作り方をしてくれていると感じました。

SBペイメントサービス 木村さん:
あとはモチベートがとてもうまいですよね。例えばGoodpatchさんとのワークショップの設計力でしょうか。オンライン開催で運営も難しかったはずなのに、話しやすいようにZoom上で音楽をかけてくれたり、アイスブレイクでは誰もが知っているようなアニメのユニークな分析情報を入れ込んでくれたり(笑)。参加者が自然と、面白い、やってみたい、と思ってもらえるようなファシリテートでした。

もし同じことを僕らだけでやろうとしていたら、ここまで能動的にプロジェクトに向き合えなかったと思います。どのメンバーも別にミッションを持っているので、どうしてもプロジェクトの優先度と取り組む意欲が上がりきりません。でも、こういったモチベートのおかげで、関係者はより自分ごとにしながら会社のために動けたと思っています。だからこそ、素晴らしい成果物が一緒に作れたのかなと。

SBペイメントサービス 日比さん:
私は事業の理解力が一番印象に残っていますね。SBペイメントサービスが扱う決済代行事業というのは、一般的にあまりなじみのない業種です。われわれが困っている事象を説明する前に、そもそも事業に対する理解が難しいと思っていたんです。プロジェクト開始当初、正直不安に思っていたところがあります。

しかし、何回かヒアリングするだけで私たちが困っていることと全体像をすぐにくみ取り課題に落とし込んでいただいた。それだけでなく、どう解決していくべきかも提示してくれました。決済という目に見えない事業をやる中で、具体的で確かな成果を上げていただいたのは、本当にすごいと思っています。

──今回のプロジェクトのような全社的な課題に取り組む際は、コンサルティングファームなどに頼む方法もあると思います。私たちのようなデザイン会社と一緒に進めた理由や良かった点がありましたら、教えていただけませんか。

SBペイメントサービス 波田野さん:
個人的な考えですが、当社は「外に伝えること」が下手だと思っていました。自信のあるサービスや機能を作っても、顧客に伝わらず「玄人向けの機能ですよね」「深く知れば使えるけど、誰もが使いやすいわけではない」と言われてしまった経験もあります。こういった「伝える力」を根底から変えられないかなと思っていました。

確かにコンサルティングファームという選択肢もあったとは思いますが、この課題感を「デザイン」で補いたいと思ったのが、デザイン会社を選んだ一番の理由ですね。

SBペイメントサービス 奥川さん:
私も弱点はデザインだと思っていたので、もともとデザイン会社とご一緒したいと考えていました。ただ、デザインって人によって定義や範囲がバラバラですよね。私も正直、いわゆる「お絵描き」の世界だと思っていた時期もあります。

でも、Goodpatchさんの提案はカスタマージャーニーを基に顧客とのタッチポイントを整理してくれたり、セールスやマーケティングの領域を押さえつつ、プロダクトデザインも行ってくれた。想像以上に課題解決の方法が戦略的でした。今はWebサイトの見た目の美しさなどを対象とするデザイン会社、というよりも「ITビジネスのあり方を顧客視点でリデザインする会社」のような印象を持っています。

SBペイメントサービス 奥川さん

SBペイメントサービス データ戦略室 室長 奥川さん

──ありがとうございました。今後はSBペイメントサービス内で戦略を実行されていくと思います。展望を教えてください。

SBペイメントサービス 奥川さん:
今回のプロジェクトは、現状の課題を基にペルソナやカスタマージャーニーマップ、UIなどを考えていただきました。

今は社内では「顧客に対する最適なサービス・体制はどのような形か」という議論が本格的に進んでいるところでして、ビジネスの全体像にまつわる方針が定まったときに、プロジェクトで生まれたアウトプットをどう機能させていくのか、改めて考える必要が出てくると思います。

一方で、既存のワーキンググループは「委員会」と名前を変えて継続します。サポートサイトの改善など、現状でもテコ入れ可能なものは変わらず進行していく予定です。社内で調整しながら、顧客満足度向上という課題に全社視点で取り組んでいきたいと思います。

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