ジェスチャーで、機械と人はもっと仲良くなれる。SONY MDR-1000Xのインターフェースデザイン

SONYのMDR-1000Xは、我々を音質の悪いBluetoothリスニング体験から解放してくれる素晴らしいヘッドホンでした。

もしもあなたがケーブルが嫌いな音楽ファンであるならば、MDR-1000Xを検討するべきです。もちろん相性や好みなどはあるでしょうが、それでもMDR-1000Xが素晴らしいと断言できるのは圧倒的に「リスニング体験」が優れているからです。

はじめに

書き始めが偶然AirPodsの記事と被ってしまいましたが、今回はSONYのヘッドホンをレビューしたいと思います。僕個人としてもApple信者なので、AirPodsのすばらしさは理解していますし、AirPods派を否定するわけではないことをご了承ください。

2017年10月7日に、Sonyから新しいヘッドホンWH-1000XM2が発売されました。前モデルのMDR-1000Xと合わせて、機能とデザインが高い次元で融合している希有な事例と言えるヘッドホンシリーズだと思っています。僕は基本的にはApple信者ではありますが、今回ヘッドホンに関しては、Air PodsでもBeatsでもBoseでもなく、Sonyを選びました。その理由を、前モデルMDR-1000Xのレビューをしながら、このヘッドホン体験のどこが良いのかを書いていきたいと思います。(個人ブログに書いていた記事の再編集版です。)

以下の内容はあくまでも前モデルMDR-1000Xについてですが、ほぼ、WH-1000XM2にも当てはまっているので安心してください。後述しているボタン数も減っているので個人的には正統進化しているとみています。

基本品質の良さ

まずは何と言っても音です。音に関してはハイレゾ級を謳うだけあって、「現状、ワイヤレスヘッドホンで取りうる最高の選択肢の一つ」ということでよろしいかと思います。ひと世代前のBluetoothイヤホンやレシーバーを使って聴いていた身としては隔世の感があり、過去の経験から音質を懸念される方は一度試してみて良いかと思います。対応するウォークマンを使っていればLDACで転送され、これが最高音質なのだと思いますが、iPhoneで聴いたとしてもアップスケーリングやデジタルアンプ技術によって、かなり満足のいく音質となっています。

ノイズキャンセリングもかなり満足できるレベルにあり、電源をオンにしてノイズキャンセリングが入る瞬間の静寂感はとても気持ちが良いです。僕は周囲の騒音(特に会話音)に極端に集中力を奪われる性質があるので、遮音性についてはかなり重視しています。また、このヘッドホンはノイズキャンセリングに加えて、しっかりした作りのイヤーカバーになっているので、フィット感がとてもよく、インイヤ型のイヤホンから乗り換えてもオッケーかなと思えるくらいの密閉性を発揮します。

ジェスチャー設計の秀逸さ

MDR-1000Xは右耳の外側が全面タッチパネルとなっていて、通常の利用では電源のオンオフ以外は基本的にここで操作することができます。インターフェースを生業とする者として一番グッとくるポイントは、ジェスチャーを利用している時の体感の良さです。いつもは、いわゆる「メーカーもの」のプロダクトで「タッチパネルで直感的な操作感!!」みたいなアピールを基本的には信用できず、眉に唾つけてみています。(覚えにくく、反応の悪いジェスチャーに落胆することのあまりに多いこと!)

しかし、MDR-1000Xのジェスチャーは非常によく考えられています。ジェスチャを「ショートカットではなく、メイン操作を行うためのインターフェース」として、本気で考えているなという印象です。さらには、あくまで個人的な感想にはなりますが、操作を行うときの感情とのリンクが構築できているという、海外まで見たとしても稀有なプロダクトだと思っています(詳しくは後述)。

個人的に、ジェスチャーや音声認識などの「ヒントを提示にしくいコマンド行為」は、ユーザーに学習・習慣化させることが非常に難しいため、「ほぼ全てのユーザーが持っている共通認識や行動」に乗っかるようにデザインすべきだと考えています。「上げる/下げる」「前に/後ろに」の概念に乗っかって逸脱しないジェスチャーデザインが、わかりやすさを生んでいると行って良いのではないでしょうか。

ジェスチャーは大体以下の通りです。

  • 再生/停止:中心部のダブルタップ
  • 曲の巻き戻し/早送り:前後スワイプ
  • ボリュームの上げ/下げ:上下スワイプ
  • Siri/Google Nowの呼び出し:長押し
  • 外部音の取り込み(クイックアテンションモード):手のひらで覆う

というように、全てのジェスチャーが、「中心部のタップ」と「上下左右にスワイプ」で完結しています。主に移動中という細かい操作が難しいシチュエーションであること、右耳という自分の目で視認できない部分をノールックで操作しなければいけないことからすると、操作系を「絶対に間違えないシンプルなものにすること」は絶対的に正義であると言えます。

とっさに外の音を聞く時(クイックアテンションモード)

一番特徴的なジェスチャーから説明しましょう。外で音楽を聴いていて一番煩わしいのが、コンビニなどで買い物をして支払いをする時に、ヘッドホンやイヤホンを外すという瞬間です。また、仕事場で誰かに話しかけられて応答しなければいけない(けど一言二言で済みそうな)時、電車で「アナウンスが流れてるな」と思った時なども同様のシチュエーションだと思われます。

この瞬間は、手の平で右耳を覆うだけで外の音を取り込むモードに切り替わります。このモードでは、外音がマイクで増幅状態になり、非常に聞き取りやすいです。この時、再生されている音楽を一時停止するのではなく、音量を聞き取れるギリギリくらいに抑え、視聴体験の断絶が起こらないように配慮されているのもニクいです。

このジェスチャー設計のいけているポイントは、「手の平を使う」というところです。「とっさの瞬間」では、細かいジェスチャーはミスを誘発して体感が極端に低下します。このジェスチャーはぱっと右耳を覆うだけで発動するので、操作ミスはまず発生しません。実際の利用シーンがきちんと想定された素晴らしい設計だと思います。

さらには、この状態を人から見ると、耳に手を当てて傾聴している感が醸し出され、周りから見ても「聴いてもらっている感」がちゃんと感じられるのもすごいところです。厳密には「聞いている格好」とは違うのですが、初めてこのヘッドホンを見る相手でも比較的安心して話すことができているのではないかと思います。他者の体験までちゃんとデザインされていると感じます。

再生/停止

再生と停止という一番基本的な操作は、「とんとんっ」と二回右耳をタップすることで発動します。操作する側の気持ちとしては「ねえねえ?再生/停止して?」という感覚です。

音量調整

一本指で上下にスワイプするとボリュームをコントロールすることができます。指を離す絶対位置によって音量が決定されるわけではなく、一回スワイプにつき一段階の上下になります。歩いている時に操作することも多いので、誤作動で突然爆音になってしまうリスクを考えると当然かなと思います。(スワイプした後に指を離さないでキープすると連続的に音量が変化します)
そして、このジェスチャーも意外に気持ちが良いのです。音楽を聴いている時に、サビの直前などでボリュームを上げる時に、人差し指でさっとボリュームアップする時に、なぜかテンションが上がります。

ちなみに、このジェスチャを前後に置き換えると曲の前後送りができます。前にスワイプすれば次の曲、後ろにスワイプで戻ります。こちらも、「次の曲へ!」と心の中で叫びながら指を動かすととても気持ちが良いです。

「使いこなす」という快感

この「気持ちがいい」を言語的に説明するのはとても難しいのですが、「ユーザーが望む結果」とそれを実現する「ジェスチャー」が結びつくことで、「必殺技を出している感覚」や「ギターやキーボードなどの楽器を演奏している感覚」に近く、「自分はこのデバイスを使いこなせている」という実感を与えることに成功している、ということなのかなと思っています。特に「(3−4万円のヘッドホンを買うような)音楽が好きな人」の中にはまだ、「操作する快感」を求める人の割合も多いのではないかなと感じており、Appleのようにすべてが溶けていく方向を目指すのとはまた違うアプローチを感じます。「車の運転に快感を覚える」とも近いものがあるかもしれませんね。この体験もまた、「愛されるプロダクト」となることに寄与していると言えるのではないでしょうか。

※より「万人のユーザー」にとって簡単なのは、「すでに行なっている行動に機能が付加される」ことだと思っていて、こちらは学習の必要が全くないデザインです。こちらはAirPodsがかなり作り込んでいますね、「ケースから出すと電源オン」「耳に装着したら再生開始」など。あとは、iPhoneの「ホームボタンを押したら指紋認証」など。MDR-1000Xでも「USBを繋いだら電源が切れる」が実現されていますが、この点についてはやはりAppleの方が得意なようです。詳しくはusagimaruの記事を参照してください。→AirPodsの記事

AirPodsこそ理想のワイヤレスデバイスである

エンジニアリングにも影響するデザイン

このように、MDR-1000Xのジェスチャーは、分かりにくさをユーザーに与えることなく、メイン機能を全て取り込むことに成功しました。すなわちジェスチャーは「すでにあるメイン導線のショートカット」ではなく、機能そのものとなったわけです。その結果、ハードウェア的に組み込まなければいけないボタンの数はたった3つにまで減少し、非常にすっきりとしたボディデザインが実現されました。物理ボタンは電源、ノイズキャンセルモードの切り替え(長押しで髪型やメガネによる音響特性をキャリブレーションできる!)、外音取り込みモードの切り替えなど、普段は利用しないかつ、誤作動したら困るものだけに絞り込まれています。

「本体に操作部を持ってくるとユーザーから見えない」という、多機能ヘッドホンとしてのある意味宿命的な制約を上手くいなしながら、美観としてもより良いものに仕上げるというエレガントな解決が、完成度の高いジェスチャーによって実現されており、これこそデザイナーが目指すべき仕事と言えるのではないでしょうか。装飾だけ・操作部だけではなく、全体の構造設計まで影響範囲としてデザインする、ハードウェアデザインとしては当たり前の考え方だと思いますが、質の高い仕事ぶりに改めて感服いたしました。

同僚や友達に貸したところその場で何人も購入に至っていて「売れるというのはこういうことか…!」 という体験をしたり、11月1日に発表された2017年度のグッドデザイン賞でも見事金賞を受賞しており、良いものはちゃんと評価されるのだなぁと安心しました。受賞おめでとうございます!!(実は弊社でお手伝いした案件でも特別賞を受賞しました!

※イラストはGoodpatchのグラレコマスター香林 望先生にお願いしました。

1年3ヶ月描き続けて考えるグラフィックレコーディングのこと

ABOUTこの記事をかいた人

keita

サービスデザイナーとして奮闘しています。
テクノロジーフェチ。先日深圳にいってきました。

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