いまさら聞けないお金の知識!「損益計算書(P/L)」とは?
いきなりですが、皆さんは「損益計算書(P/L)」を読めますか?
財務三表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)の1つで、一定期間の企業の経営成績を示すものです。
例え財務系の部門でなくても、ビジネスマンとして数字の理解は非常に重要。
デザインも最終的にはビジネスを成長に導くためのものですし、ビジネスと切り離すことはできません。
グッドパッチには社内で知識を共有する文化があり、デザイン以外も含め多くのテーマが扱われます。今回は社内で話題になった記事を参考に「いまさら聞けないお金の基礎知識」として損益計算書についてご紹介したいと思います。
売上と利益の関係
お金のことを知りたいと思っても、どこから始めたら良いかわからないですよね。
色々な視点がありますが、まずは「売上」と「利益」の2つを見ていくのがよいでしょう。
売上と利益ですが、どちらが大事だと思いますか?
そもそも、売上の一部が利益だから、やっぱり売上でしょうか?
例えばAとB、異なる2つの会社があったとします。
- [A社] 売上2億円で利益ゼロ
- [B社] 売上1億円で利益5,000万円
この場合、最終的に儲かってるのは明らかにB社ですね。最終的に重視されるのは当然「利益」です。
では、売上と利益の関係について詳しく説明できますか?この答えは何か深掘りしてみましょう。
ここからは魚屋で例えてみましょう。アジを10匹仕入れてきて、誰かに1,000円で売ったとします。このとき、売上と利益はどうなるでしょうか?
売上はわかりやすいですね。1,000円です。お客さんからもらったお金、それがそのまま売上になります。
では利益はどうでしょうか?これはいくらで仕入れたかによって変わりますね。
アジ10匹の仕入れ値が100円なら900円、300円なら700円、500円なら500円です。
仮に、アジ10匹を100円で仕入れたことにしましょう。
そうすると「売上1,000円に対して利益は900円だから利益率90%?すごい!」と思ってしまいますが、実際手元には900円も残りません。
- アジを買いに行く為の電車賃
- お店の家賃
- お客さん呼び込みの為の広告費
仮に100円で仕入れたものを1,000円で売るビジネスを作れたとしても、それをどう実現するかによって最終的に得られるお金は全然違います。
仕入れに使った100円を含め、売り上げの1,000円は最終的に手元に残る利益になるまでに、色々な理由で削られていきます。「利益を削っていく費用」、これがコストです。
実際にはアジを仕入れるにしても、広告を出すにしても、商品をお客さんの前に並べる為に売上よりも先にお金を払うケースが大半です。
なので、「コスト=利益を作るためにかかる費用」というのが正しい表現になります。
利益構造を理解する
上記の魚販売は、色々な現実を無視して簡単に表現した事例です。これが実際の会社だった場合、構造はもう少し複雑になります。
- [A] 銀行から借金をしているので利息を払わないといけない
- [B] アジが腐っていてお客さんが体調を崩し、訴えられて賠償金を払った
- [C] アジが売れず業績が良くないので、自社店舗を売却して一時的にお金を確保した
…など、本業の「魚販売」以外にも、会社のお金を増やしたり減らしたりする要素は色々あるのです。
例えば [C] ビジネスが良くないので、自社ビルを売却して一時的にお金を確保したケースを売上と利益だけで見たらどうなるでしょうか。
アジは売れていないので売上は減っていますが、ビルを売ったのでそれが収益となり手元に残るお金は増えます。
実際はビジネスが良くない状況でありながら、売上と利益の数字だけ見ると利益率が上がっていて、ビジネスの構造が良くなったようにも見えます。しかしそれはもちろん間違いです。
会社のパフォーマンスを正しく理解するには、収益とコストをもう少し細かく見て、どんな構造になっているのか知る必要があるのです。
収益とコストの分類
はじめに「損益」について説明したいと思います。
損益とは収益と損失を合わせた最終的な収支のことを言います。収益が10、損失が1なら損益は「+9」です。収益10に対して損失が15になれば「-5」です。とても簡単です。
会社の利益構造を理解する上ではまず、損益を以下のようなカテゴリに分けて考えましょう。
- 本業の損益
- 本業以外の損益
- 臨時で発生した損益
最終的な利益にたどりつくまでの構造は、以下のような3ステップで表現されます。
上記の図だと全てがプラスだった場合を示していますが、項目にごとにマイナスが出ることも当然あります。
では「本業」「本業以外」「臨時」がそれぞれ具体的にどういうことなのか、生鮮食品の販売業を営む会社を例に、3つのカテゴリの具体例を見てみましょう。
1.本業の損益
これはわかりやすいと思います。「食品を販売して売上を上げる」という活動の中で発生する売上、仕入れ費用、家賃、広告などの収益とコストを並べて、最終的にいくら残るかで決まります。
2.本業以外の損益
文字どおり、本業である食品販売以外の損益です。例えば、お店の一部を有償で貸したりすると収入になるわけですが、それは本業ではないので「本業以外の収益」とみなされます。マイナスの例としては借金の返済などがあります。
3.臨時の損益
単発で1回だけ発生する損益です。プラスの例では保有していた株を売る、不動産や営業車を売るなどの場合、マイナスの例では災害による被害や訴えられて負けたときの賠償金などが考えられます。
突然ですが、もしもあなたが傾きかけたこの会社のCEOだったらどうしますか?「辞任します!」ではなく、どんな経営をするかを考えてみてください。
「とにかく徹底的に現場の業務を見直し、売上を増やしてコストを減らします!」という路線はまず考えられるでしょう。
実際にそういう企業があるかどうかは置いておいて「リスクはあるけど余剰資金をビットコインに投資して運用益を出そう!」と言った考え方もあるかもしれません。
では仮に
- [A]本業をがんばる
- [B]投資にリソースを振る
…の2つの方針で1年間会社が運営されたとして、そのときに最終的な損益が1億円だったとしましょう。その時、ビジネスの構造を比較するとこうなります。
「A: 本業がんばる」シナリオの場合は、当然「本業の損益」が大きくなります。一方、「B: 投資で利益」シナリオの場合は「本業以外の損益」がプラスに転じ、最終的な損益に貢献しています。では今年度の損益が全く同じだったこの2シナリオを比べたとき、来年度の利益が大きくなりそうなのはどちらだと思いますか?例えば株式投資をするとしたら、どちらを選べば儲かりそうでしょうか?
この質問には正解がありません。
「A: 本業がんばる」シナリオは、自社ビルを手放すほどボロボロになっていた会社を既存ビジネスの改善だけで成長させました。CEOはこのビジネスに対して相当の実力があると考えられます。
一方で、食品販売だけでビジネスを何倍にも成長させることは難しく、今後大きく他社のシェアを奪うアクションや新規事業を創り出さないと成長には限界があると見ることもできるでしょう。
「B: 投資で利益」シナリオパターンは手元のお金をうまく活用し、本業とは異なるところで会社のお金を増やしています。
しかし、今回の収益源はハイリスク・ハイリターンの仮想通貨。1年後にこの市場がどうなっているかはわかりません。
ただ、大きな成長の見込めない本業のリソースを他に振り向けたことには注目すべきです。しかしそれを何に使うかによって、結果はプラスにもマイナスにも振れる可能性があります。
仮に最終的な損益が一緒でも、2つのシナリオで会社の性格は大きく異なります。
このように、3項目の損益構造を見ることで、会社がどんな風にビジネスを運営しているかを理解し、ビジネスモデルの強さを類推したり投資の判断をします。
(実際には外的要因を含め、もっと色々な観点で分析します。)
利益の種類
読み進める中で既に違和感を持った人がいるかもしれません。
損益を3段階で見ていくことは理解できました。でもそしたら利益とは何でしょうか?
結論から言うと、利益は1種類ではありません。基本的には以下の4つを押さえておきましょう。この4つは順番も重要です。1→4の前後関係も含めて理解しましょう。
- 粗利
- 営業利益
- 経常利益
- 純利益
1. 粗利
粗利は「売上 – 原価 = 粗利」で表現されます。
原価とは、その商品やサービスを作る上でかかったコストのことを言います。
例えばアジを100円で仕入れて1,000円で売った場合、原価は100円、粗利は900円です。
また、粗利率は90%ということになります。序盤の説明ではここをぼかして「利益」と表現していましたが、正確には粗利のことを指していました。
では、会社が事業範囲を拡大して、食品の加工まで実施するようになったとしましょう。単にアジを仕入れて横流しするだけでなく、アジフライを販売するようになりました。
アジフライを作った場合、上記の100円に比べフライを作るためのパン粉や油のような材料費やフライを揚げるおばちゃんの人件費など、商品を作るためにかかる費用が増えます。
Goodpatchが提供しているソフトウェアサービス、Prottに置き換えるとどうでしょう。ソフトウェアなので魚のような仕入れ額は発生しませんが、システムを開発するためにかかるメンバーの人件費、開発に使うツール類のライセンス費用、サーバーのコストなどが原価になります。
2.営業利益
粗利で表現できる損益はビジネスのプロセス全体のうち、「製造」「生産」の部分だけです。
ここに商品を販売する費用、会社を運営する費用を含めたものを「営業利益」といいます。
どんなに優れた商品でも作りっぱなしでお金は入ってこないので、お客さんに知ってもらい、目の前に届けなければなりません。営業マンを雇って営業する場合はその人件費、チラシを出したらその費用が掛かります。これが「販売費」ですね。
そして、企業が企業として存続するためには売上を直接作らない人も必要です。例えば人事、財務経理などの部門ですね。こうした間接部門の人件費や、その部門の運営にかかる家賃、光熱費、福利厚生の費用などは「一般管理費」と呼ばれます。
上記の2つを合わせたのが「販売費及び一般管理費」で「販管費」と略されます。
会社を運営し、お金をかけて商品やサービスをつくり、販促活動を行って売上を得た結果、残ったお金。これが営業利益です。
式で表現すると「粗利 – 販管費 = 営業利益」ということになります。
これはつまり「売上 – 原価 – 販売費 – 一般管理費 = 営業利益」ということですね。
3. 経常利益
経常利益は営業利益に対し、さらに本業以外の損益を加えたものです。「本業以外の損益」とは既に説明したようにお金や不動産の貸し借りなどによるもの。1年間ビジネスを運営した結果に入ってきたお金、出ていったお金を足し合わせたものです。
式で表現すると「営業利益 + 営業外収益 – 営業外損益 = 経常利益」ということになります。詳細は下記の表を確認してください。
たとえ営業利益がたくさん出たとしても、ここでマイナスが大きい場合、その1年間の最終的な損益は小さくなります。
本業以外の損益には「投資」も含まれます。稼いだお金を積極的に投資する企業は経常利益は低く抑えられがちですが、営業利益はしっかり出ているはずです。
4. 純利益
本業による損益、本業以外の損益、臨時で発生する特殊な損益…。1年間の企業活動の中で発生するいろんなプラスマイナスを全て考慮し尽くした上で最終的に残るお金、その企業の利益と認められるお金が「純利益」です。
3.経常利益の額をベースにさらに臨時で発生する損益と税金を加味したものになります。
いろいろなコストを加味して、やっと手元に残った利益。最後にここから税金を納めなければなりません。現在、日本の法人税はざっくり40%。いろんなプロセスを経て、何とか手元に残したこのお金がいきなり半分近く持っていかれるわけです。
例えば税引き前の利益が1億円出そうだとわかったとします。
それを普通に取っておいて、当期の利益とした場合40%が税金になります。つまり手元に残るのは6,000万円。
しかし会計年度が閉まる前に1億円投資すれば、利益はゼロになりますが税金を支払う必要もなくなり、結果として1億円丸々投資に使えることになります。
「意図的に利益を出さないようにする」ケースの一例ですね。
ちょっと複雑になりましたが「1. 粗利」から「4. 純利益」まで理解できたでしょうか?一口に利益と言ってもいろいろあり、意味合いもかなり違います。利益について話すときは、混同を避けるために「粗利」「営業利益」などと明示することが多いです。
損益計算書(P/L)とは
損益計算書とは財務三表のひとつです。Profit(利益) and Loss(損益) Statementの略になります。
この頭文字を取ったのP/Lです。普段の会話「損益計算書」より「P/L」と呼ばれることが多いです。
P/Lについて詳しくまとめた表がこちらになります。
売上額をベースに、各種の損益が足し合わされていき、最終的に純利益が算出されたものがP/Lです。売上はいちばん上にあるので「トップライン」、純利益は「ボトムライン」と呼ばれます。
あとがき
今回は理解のしやすさを優先し、少し極端な例も用いながら複雑な内容を噛み砕いて記載しています。項目やカテゴリの名称は文献によって若干違うものが使われたり、収益と損失がまとめて「損益」と表現されるなど、記載のしかたが異なる場合もあります。
ただし、基本的な構造は今回お伝えしたとおりです。P/Lを理解するだけでもいままで敬遠しがちだったお金の話が頭に入りやすくなり、ビジネスの視野が広がるかと思います。
まずはご自身の会社やライバル企業のP/Lを読んでみるのはいかがでしょうか!