意外と知らない?世界の5つの事例から学ぶ、デザインの持つ力

デザインは広義に渡り解釈され、一般の人には表層的な物として誤解されがちですが、デザインが持つ力は人々が生活する上で行う意思決定の心理に大きく影響します。

今回の記事では色々な事例を交え、デザインがどのように人々の生活に影響を与えているかを説明していきます。今まで「デザインの力」についてあまり考える機会が無かった人にもぜひ読んでいただきたいです

1. 大きな利益をもたらせるWebデザイン

Googleでは2006年まで、正式にビジュアルデザイナーという肩書きをもつデザイナーはいませんでした。当時在籍していた多くのデザイナーはCS(コンピューター・サイエンス)やHCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)を専門とするスタッフばかりでした。そして後にTwitterでデザインを担当するダグラス・バウマン氏は、当時初のビジュアルデザイナーとしてGoogleにジョインします。

2009年にバウマン氏の指揮のもと、GoogleはGmailの広告リンクの色を決めるために41種類の青色を一つずつ試していきました。2014年に行われたイベントでGoogle UKのマネージングディレクターのダン・コブリー氏は当時について以下のように語っています。

“We ran ‘1%’ experiments, showing 1% of users one blue, and another experiment showing 1% another blue. And actually, to make sure we covered all our bases, we ran forty other experiments showing all the shades of blue you could possibly imagine.”

“And we saw which shades of blue people liked the most, demonstrated by how much they clicked on them. As a result we learned that a slightly purpler shade of blue was more conducive to clicking than a slightly greener shade of blue, and gee whizz, we made a decision.”

「私達は1%の実験を行い、後に1種類の青色のリンクをクリックした1%のユーザーがいるという事が判明しました。その後また違う種類の青色を試し、最終的に想像し得る全ての青色を試し、40以上もの実験を行いました。私達はクリック数に基づき人々がどの青色を一番好むのかを調べ、結果ほのかに緑がかった青色より、少し紫寄りの青が一番好まれるという事が判明しました。」

引用: https://www.theguardian.com/technology/2014/feb/05/why-google-engineers-designers

結果的にこの微細なデザインの変化は成功し、Googleはその年200億の広告収入を得ています。もちろんこの成功は圧倒的なデータに基づいた分析という、Googleならではの強みが要因の一つでもあります。しかし、この成功の裏にはデザインの力が影響していることは間違いなく、この事例からデザインが人々の心理へ与える影響は大きいと言えます。

2. 国の未来を変えたUIデザイン

参考: https://www.verifiedvoting.org/resources/voting-equipment/ess/votamatic/votomatic_banner/

デザインは日常の生活を良くするだけではありません。全ての事柄に密接に関わっており、時として誤って国の将来を変えてしまうこともあります。

2000年にフロリダのパルム・ビーチ群で行われた大統領選挙の際に使用された投票機械のデザインが良い例でしょう。アメリカのデザイン界では知られた話で、MITなどの有名な大学でも粗悪なデザインとして授業で教えられています。

参考: http://projects.mypalmbeachpost.com/2000election/

実際の投票の手順は、配布される投票カードをこの機械の下に挿入し、中央のそれぞれの候補者に充てられた穴に針を突き刺し投票を記録するというものでした。

この今では見ることのないような不合理なデザインに当時の投票者は混乱しました。また、この折りたたみ式の機械によって針を刺した後に投票用紙に残った紙くずが切り落とされず、機械に読み取られないという事態も発生しました。後日、この地域を含めたフロリダのいくつかの地域では、手作業での再集計が求められました。結果的に民主党のアル・ゴア候補優勢だったはずのフロリダで、共和党のジョージ・ブッシュ候補の勝利が確定しました。

この不必要に左右に分けられた候補者の順番、小さい矢印や文字の並び、そして中央の非常に間隔の狭い穴の並びなどが、このデザインの問題ではないでしょうか。投票者は投票機の前に立って投票しますが、この機械を真上から見ることは少ないと思いまし、恐らく下の画像のように少し前から斜めに俯瞰する形になります。

参考: https://bit.ly/2KmOXx7

このように見ることで上下に隣接したアル・ゴア氏とパット・ブキャナン氏の穴を見間違えたいうことが推測されます。現に、推定2800人の民主党のアル・ゴア氏への投票者が誤って改革党のパット・ブキャナン氏に投票して、この地域のみでブキャナン氏の得票率が異常に伸びるという事態が起きました。結果ブッシュ候補とゴア候補の最終的な得票差は537でした。

そして2000年にジョージ・ブッシュ候補がアメリカ合衆国大統領になり、8年の任期を全うします。このデザインが違っていたらアル・ゴア氏が大統領になっていたとは断言できませんが、この事実からは、デザインが意図せず人々の行動を変え、結果的に国を変えてしまうほどの影響力を持っているということが読み取れるのではないのでしょうか。

3. 人々の交流を豊かにしたインテリアデザイン

インテリアにおいてもデザインは多方面に大きな影響をもたらします。例えば、キッチンは常に人が集まる場所であり、Goodpatchのオフィスにもキッチンを設けています。オフィスだけでなく、家庭にも欠かせないキッチンですが、100年以上前は騒音や悪臭が人々に煙たがられていたため、隔離された部屋にありました。

参考: https://austenonly.com/2012/09/11/eighteenth-century-kitchen-gadgets/

技術の発展とともに料理をすること自体が容易になり、キッチンは徐々に人々の目に晒されるようになります。20世紀中盤にはキッチンは女性や使用人のみが家事を行う場所ではなく、美しくデザインされたキッチン家具を披露する、人々が集まる場所になりました。

参考: http://www.veteransunited.com/realestate/from-functional-to-fabulous-kitchen-trends-from-1930-2000/

この事例におけるデザインの力というのは以前は特定の人が離れて作業する場所だったキッチンを、技術の進歩と共にオープンにデザインすることで、人々のキッチンに対する認知をデザインで変えたということではないでしょうか。

4. 街全体をコントロールした都市デザイン

参考: https://www.factoryfurniture.co.uk/camden-bench/

前述のフロリダの選挙の例では、意図せず人々の行動をコントロールしてしまったデザインを紹介しました。ここでは、作為的に人々を悪い方向に仕向けるように作られたデザインを紹介します。

こちらの動画では、なぜ世界には全く快適ではないベンチが溢れているのかということを説明しています。多くの人は、公園や公共施設に置かれたベンチは人々が座って楽しい時間を過ごすためにあると考えるはずです。しかし、ニューヨークの駅や人が多く集まる場所では必ずしもそうとは限りません。意図的に人々が長時間ベンチに居座らないようにデザインされているのです。こうした種類のデザインをこの動画ではディフェンシブデザインと紹介しています(日本では排除アートという名前で呼ばれているようです)。

有害生物防除のために木に取り付けられた針や、若者が街中でスケートボードをしないようにデザインされた公共の建物など、ディフェンシブデザインはニューヨークでは至るところで使われています。中でも、ベンチは物議を醸すデザインです。ニューヨークでは年々ホームレスの人が増え続けているため、公共のスペースに居座り続ける事態を防ぐためにディフェンシブデザインのベンチが採用されました。

このデザインのゴールはあくまで街を良くすることでしたが、一部の人には人権侵害であると反論を受けています。ディフェンシブデザインに反対の建築家ジェームズ・ファーザー氏は、公共建築物を作る会社の創業者との対談の中でディフェンシブデザインについて以下のように語っています。

“I’m not saying that the Camden bench is evil … because it is successful in what it does. (The client wanted them) to use design to force out antisocial behavior. But then antisocial behavior is actually people congregating. We are designing people out of space. I feel we need to design spaces that encourage good behavior — and turn antisocial behavior into welcoming behavior. Ultimately, architecture isn’t the cure of homelessness. There’s a much greater issue with governments, properties and land laws.”

注: Camden bench(カムデンベンチ)は上の画像のベンチ

引用: https://edition.cnn.com/style/article/new-dean-harvey-james-furzer-hostile-architecture-debate/

「カムデンベンチは反社会的な行動を取り除くようにデザインされている。クライアントが希望していることなら製品としては成功してるし、悪いとは思わない。しかし、そうしたら人々が集まること自体反社会的な行動になってしまう。人々を公共の場所から追い出すのではな社会的に良い行いを促し、反社会的な行動を歓迎されるようなものに変えるような場所を作っていかなくてはならない。建築物はホームレスの解決手段にはならないし、法律や政府にもっと大きな問題があるはずだ。」

ディフェンシブデザインについては色々な意見があるとは思いますが、個人的にはデザインは問題を解決するというものに加え、一番最善の解決策を導き出すプロセスのことを指すと考えていますので、このデザインについては芳しくはありません。

5. 人々の健康をも操るグラフィックデザイン

グラフィックデザインは視覚に直結しているため、デザイン業界の中でも非常に影響を与えやすいデザインです。広告業界では商品の価値を効果的に伝えたり、非営利団体では社会問題を提起する際にグラフィックデザインを使う手法は多く見られます。

タイポグラフィやレイアウトなどグラフィックデザインを構成する要素は多くありますが、今回の記事では中でも見落とされがちなピクトグラムが持つ力について説明したいと思います。

ピクトグラムについてはWikipediaで以下のように記述されています。

“車椅子マーク(国際シンボルマーク) 非常口マーク ピクトグラム(英語: pictogram)あるいはピクトグラフ(英語: pictograph)とは、一般に「絵文字」「絵単語」などと呼ばれ、何らかの情報や注意を示すために表示される視覚記号(サイン)の一つである。地と図に明度差のある2色を用いて、表したい概念を単純な図として表現する技法が用いられる。”

引用: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0

主に車椅子マークや禁煙マークなどがピクトグラムとしては有名ではないでしょうか。特に皆さんも馴染みのある非常口マークは日本発のデザインで、1987年にISO(国際標準化機構)に採用されて以来、危険時に瞬時に非常口の場所がわかるようにデザインされています。

参考: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%9E%E5%B8%B8%E5%8F%A3

他にも1972年のミュンヘン・オリンピックでは、ドイツ人のグラフィックデザイナーオトル・アイヒャー氏が発表したピクトグラムが採用され、国際的にもピクトグラムの存在が認知され始めました。

参考: https://designobserver.com/feature/the-graphic-design-olympics/2517

そんなピクトグラムですが、その汎用性の甲斐もあり、皆さんが気づかない色々な所で使用されています。2004年にロード大学のロズ・ダウス教授が発表した論文には、薬品のラベルに書かれている処方箋に従った患者はピクトグラムがある処方箋と無い処方箋では割合に差が出るという研究結果が出ています。

実際に41人の参加者がいるグループAにはテキストのみの処方箋を渡し、46人の参加者のグループBにはピクトグラムが有る処方箋を渡し、最大10年間の研究が行われました。結果、90%以上の割合で処方箋に従った人は54%の割合でグループBに存在し、グループAにはわずか2%しかいませんでした。処方箋の理解度においても差があり、ピクトグラムの与える影響は大きいとダウス教授は締めくくっています。

また同論文には、2004年時点でアメリカの病院を訪れる理由の全体の5.5%が処方箋に従っていないことに原因し、国全体の経済を逼迫していると述べられています。

参考: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0738399104002253

非常口のデザインやこの研究からはデザインが経済だけではなく人の命にも間接的に影響を与える可能性があることが読み取れると思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回はデザインがいかに人々の行動や心理をコントロールできるかを紹介しました。上記の例はほんの一部ですが、今回の記事で少しでもデザインの力や影響が垣間見ることが出来たのはないでしょうか?今までデザインというものを表層的に捉えていた人にとっては驚くような内容だったと思います。今回紹介した事例が皆さんにとって、デザインについて深く考えるきっかけとなれば幸いです。

ABOUTこの記事をかいた人

Nao

アメリカにいるNaoです!18年度からGoodpatchのUIデザイナーになる予定です!
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