ブランドを考えるとき、体験の魅力をより磨いてブランドやサービスを作るのは当然でよくある話です。その際、デザイナーは「一貫性」についてどれくらい考えているでしょうか。

ブランドの一貫性という部分を考えないで進めると、コアの部分にしか注力しなくなり、その結果全体の一貫性という観点が疎かになります。結果的にブランド全体の魅力度が減り、一体誰に向けてのブランドなのかと混乱を招いたりします。

今回はブランドをより魅力的にするために、ブランドの一貫性という部分のお話しをします。

一貫性がないということ

ブランドの一貫性に欠けているサービスやプロダクト、ブランドは沢山存在すると思います。

例えば、「捨てても土に還ります」というようなエコプロダクト商品であるにも関わらず、購入するとレジ袋(プラスチックバッグ)に入れて渡されたり、「オーガニックで健康的、自然派」と謳いながら、プラスチックのストローを使用していたり、商品が一つ一つ過剰に包装されていたり。

商品そのものの良さはなんとなく伝わっていても、商品そのものに表現されている思想とそれを取り巻く環境の思想が一致していない場合もあります。一貫性がないとユーザーに正しくメッセージが伝わらない状態に陥ります。

一見商品のコアな部分以外は、直接売上に繋がらないと思われたり、幅広い視点でブランドとして見れてなかったりと、軽視されがちです。本来はそこが肝心で、そこまで含めてブランドとしてデザインしていくことでブランド力が強化され、ビジネス的にも成功するのではないだろうかと思います。

エンダースキーマ

商品のコアだけでなく、広い視点でブランドの一貫性を保てているプロダクトとしてエンダースキーマが挙げられます。
エンダースキーマはレザーを中心に色々なものを作っているブランドで、主にシューズですが小物や服も展開しています。

セックス(身体的、生物学的に性差を示す)による性差を尊重しながらも、身なりにおいてジェンダー(社会的、文化的な性差)を介することなく、人間の経験や環境によって構造化されたジェンダースキーマを超越した概念を提唱しています。

直営店は「スキマショップ」と呼ばれ、街のスキマにあるような場所に存在しています。店内も有機質と無機質が混じり、色自体も黒でもなく白でもなく、どちらともとれないグレーっぽい空間。そこにレザー商品の有機的な色が商品を際立たせていて、商品は見やすくエキシビションのように美しい。

私自身、初めて直営店に行った際に品物を購入したのですが商品そのもの以外の部分でもブランドの一貫性を表現していて大変感銘を受け、初めての購入体験でファンになりました。

レンポの場所、作りや雰囲気、接客、商品そのもの、購入体験、購入後の小さなグラフィックデザイン、履き心地からその後のアフターケアまでの体験が大変素晴らしかったです。

メインのお店が最寄駅から遠いのですが、接客で「遠いところわざわざありがとうございます」とユーザーが到着して遠かったなと思うであろうことを述べてくれることから接客も始まりました。

接客内容もブランドに共感して働いていなければあのような接客はできないだろうと感心しました。商品説明も商品自体の細かなデザインと連動して大変丁寧でした。

商品体験

靴の入っている箱やショッピングバッグ、それに付随するレザーたち。商品以外のおまけ的要素にもこだわりを感じました。購入前の雰囲気から、購入後まで一貫してエンダースキーマというブランドを貫く姿勢を感じました。

ユーザーとの接点は、商品を購入したら終わりではありません。商品購入前も、購入後もブランドの体験は続きます。靴の場合は、いつか修理が必要になることもあります。そこまでしっかり考えているからこそ、エンダースキーマは修理が必要になればすぐに承ってくれます。街にも靴の修理する場所はありますが、エンダースキーマ は自分たちで修理をします。そうすることで自然とユーザーとブランドの接点も(時間も)増え、ブランド力が上がるのだなと感じました。

またエンダースキーマ自体、浅草全体で靴を作るという幅広い目線でものづくりをしています。材料、工場、機械、職人、と1つかけると他に影響が出てしわ寄せがくるのです。このように、一点に集中をしてコアのクオリティーを上げるのは当然のことですが、それだけではなく、何事も全体を見る姿勢というのも大事なことではないでしょうか。そしてそういう部分にこそ、人は共感するのではないでしょうか。

一貫性がブランド力を高める

一貫性をしっかりと考えることで、体験のコアだけでなく幅広くブランドやサービスを見ることで考えることができます。そうすることで、ユーザーがブランドを体験する時間が増え、共感して、結果的にそれがブランド力上昇につながるのだと思います。

今回の事例はフィジカルなものでしたが、これらの考え方はデジタルサービスであっても同じではないでしょうか。例えば、アプリケーションのログイン画面は、四角や線のインプットフィールドがあるだけになっていませんか?そこにもブランド要素が反映できるのではないでしょうか。

実店舗などでメールアドレスを紙に書く際、紙質が良かったり、素敵なペンだったり、それだけでもブランドの魅力は感じれるし、表現できます。

生み出すものの媒体を問わず、一貫性を持って幅広く体験をデザインできるように心がけましょう。そうすることでブランド力は上がりユーザー体験もより良くなるでしょう。