ナレッジ・ノウハウ

生成AIが作るプロトタイプは、本当にサービスづくりの近道になるのか?

生成AIの急速な普及によって、誰もが一定の専門性を備えたアウトプットを一瞬で作れる時代になりました。

サービス開発の現場も例外ではありません。今まで抽象的なコンセプトやニーズの探索から始まり、リサーチを重ねながら1〜3カ月かけて構想を具体化し、要件やデザインを作成していました。しかし今では、ほんの数十分で実際に操作できるプロトタイプまで作成できてしまいます。

極端に言うと、ユーザー像やサービスのコンセプトをあまり深く定義せずとも、気軽に思いついたアイデアを形にしたり、いきなりプロトタイプを作ってユーザーに見てもらったりすることができるのです。

でき上がったアウトプットが形になれば、新しい気付きが得られます。「こんなアイデアもあったのか」「こんな特徴のあるユーザーに使ってもらいやすいのかも」「まだ仮で作ったアウトプットだし、少し方向性を変えてみようか……」。そんなふうにプロトタイプを調整するうち、ふと気づけば誰の何を解決するサービスなのかが分からなくなっていってしまうことはないでしょうか。

グッドパッチのデザイナーは、クライアントワークとは別に、デザイナーが実務に生かすための探求的な取り組みを行っています。

今回はその活動の一つとして、3人のサービスデザイナーがチームを組み、あえて仮説を立てたりユーザーを細かく定義せずにアイデアベースで先にプロトタイプを作るというアプローチを行ってみることで、どこまでサービスの質に影響があるのか確かめてみました。

改めて感じる「コンセプト」の重要性

まずは、AIにサービスのプロトタイプを作ってもらうため、「休日に子どもと一緒にお出かけできるスポットを探せるアプリ」というテーマを決め、競合サービスや必要な技術要素を事前にリサーチして、機能要件をまとめた資料をAIに読み込ませました。すると、マップやイベント情報が一覧で見られるアプリのプロトタイプが出来上がりました。

しかし、AIのアウトプットを見たところ、世の中にすでにあるような一般的なお出かけアプリであり、このサービスならではの特徴はありませんでした。差別化を目指してAIと試行錯誤を重ねたものの、類似したアイデアばかりが出てしまい、決定打に欠ける状態が続きました。

そこで「そもそも、なぜお出かけアプリをお題にしたのか」というスタート地点の想いに立ち返りアプリを作り直しました。

このテーマを発案したのは、5歳の子どもを持つ母親です。毎週末のお出かけ先探しに苦労しており、それを解決したいという動機からでした。このニーズをさらに紐解いていくと、「ただ楽しめる場所を探したい」のではなく、「子どもの将来の習い事や成長につながるような、夢中になれる体験を探したい」という潜在的な想いが隠れていることに気付きました。

一般的なデザインプロセスでは、課題やニーズをさまざまな方法で深掘りして言語化するところからスタートします。プロトタイプが出来上がっても、そのブラッシュアップのためには、「誰に何をもたらすのか」というコンセプトを言語化することは変わらず必要であることを改めて感じました。

結局、AIによってデザインプロセスは何が変わるのか

生成AIを使っても、サービス開発に必要な要素そのものは変わりません。一方で、明確に変化を感じている点が2つあります。

1つ目は、プロトタイプの使い方が広がったことです。これまではリサーチを経てアイデアを固めた後に、検証や動作確認のためにプロトタイプを作っていました。しかし現在は、構想段階の浅い情報からでもすぐにプロトタイプを作成できます。

これにより、デスクリサーチや簡易ヒアリングを行うようなサービス検討の初期から、プロトタイプを使って世の中にどんな課題があるのかを探索・調査できるようになりました。

2つ目は、発散と収束を短時間で繰り返せるようになり、プロトタイプ以外の工程に時間を割きやすくなったことです。

例えば、デスクリサーチで得られる情報量が増えたことで筋の良い仮説を立てやすくなったり、実際のユーザーに触れてもらう前にAIを相手にした仮想リサーチが行えたりするようになりました。単なる作業の効率化にとどまらず、短時間かつ繰り返し実行できることで手に入る情報の質と量が上がりました。

一方で、こうした変化があるからこそ意識すべき点もあります。

情報やアイデアを簡単に増やせるぶん、それらを絞り込む「取捨選択」や「収束」の難易度が高まることです。アイデアを素早く具現化できる時代だからこそ、一度形にしたものを思い切って手放す判断も求められます。

先ほどのお出かけアプリの例で言えば、「子どもの習い事につながるスポットを探す」という目的に向けて、さまざまな機能が検討できます。将来の職業や趣味から探せる機能もあれば、シンプルに通える範囲のジャンルで絞り込む機能も考えられるでしょう。

明確なコンセプトがあれば、「ユーザーのゴールを最も達成できるアイデアはどれか」という判断軸が生まれます。しかし、目的があいまいなまま進めてしまうと収束が難しくなり、場当たり的なピボットを繰り返して無駄なコストを払うことにもなりかねません。

そうした事態を避けるためにも、以下の要素をあらかじめ仮説段階であっても言語化しておくことが、迷ったときに立ち返る重要な判断軸となります。

  • どんなユーザーに対して
  • どんな課題解決/価値を提供するサービスを作り
  • ユーザーと事業それぞれがサービスを通してどうなるのか

「仮説でも良い」というのは、数人のユーザーに触れてもらい、あるいは広く調査をして、初めて生のユーザー像や真の課題が見えてくるからです。最初に作った課題の捉え方やゴールは、検証を通じて概ねアップデートされていきます。

さらに、真の課題からこのアプローチが良いのか、本当にこの課題は大切なのか?と、そこからまた新たな問いが生まれます。

プロトタイプが素早く出来上がるからといって、いきなり大正解を作れるとは限りません。コンセプトのような抽象度でユーザーからの共感を得られるのか、具体的な機能で共感を得られるのかは全く別の話です。

コンセプトへの共感がある場合、サービスが刺さらないのはアイデアの方向性の違いです。達成するゴールは変えず、ゴールを達成するアプローチを見つめ直します。

しかし、コンセプトを検証せずにいきなりプロトタイプのアイデアを検証すると、サービスの改善ポイントが見えてきません。考えた機能が刺さらなかったのか、そもそもユーザーはその課題を抱えていないのか……。

プロトタイプ検証を短いスパンで実行できても、ユーザーとその周囲を取り巻く状況の把握は、今までもこれからも変わらず大切なこと。むしろ、そちらにより時間を割く形が主流になるのではないでしょうか。

UXデザインは「誰もができること」になるのか

しかし、前述したように表面的なニーズを一段深掘りし、サービスの軸となるコンセプトを見つけ出すには確かなスキルが必要です。ユーザーは単にお出かけ先を探しているのではなく、子どもの将来につながる体験ができる場所を求めている──そんな、本質的なニーズを見極める視点が欠かせません。

サービスの導線を作ることだけが「体験のデザイン」ではありません。サービスの軸とコンセプトを明確に定義し、それを実現するための状況を作ることがUXデザインだと考えています。AIの力も借りて、誰もがユーザーの体験を考え始めることができるようになりましたが、考え抜かれたUXデザインを生み出すことは決して容易ではないと思っています。

また、誰もがアイデアを体験として形にできるようになったからこそ、「その体験によってユーザーが本当に得られる価値は何か」を見極め、文脈や目的に応じて選択と集中を行う必要性が増しています。時には合理的な判断だけでなく、企画者の熱量や実験的な挑戦といった要素も発生します。そうしたステークホルダーの葛藤に寄り添ってプロジェクトをデザインするのもまたUXデザインであると思います。

どれほど素早くプロトタイプを作れるようになっても、目的やゴールの重要性が薄れることはありません。プロセスのスピードや細かさが変わっても、行うべきことの本質は変わらないでしょう。「簡単に作れるようになること」と「工程を省略すること」は別物です。デザイナーが最終的なアウトプットに責任を持ち、そのために思考を重ねる姿勢は、これからも変わりません。

個人・チームを問わず、AIによって個人の表現力や実行力が広がった今だからこそ、目的とプロセスの意味を見失わずにものづくりに向き合う。それこそが、AI時代におけるUXデザイナーの務めではないかと思います。

グッドパッチでは、常に移り変わる状況の中で、自分たちの手を動かしながら「デザインとは?」を模索し続けています。今回の気付きもその一つに過ぎず、これからも実践と失敗を重ねながら、サービスデザインの現場で得た知見を発信していく予定です。もし、同じ課題感を持っている方や、私たちの取り組みに興味を持ってくださった方がいれば、ぜひ一度お話ししませんか。お待ちしています!

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