mitaseru(ミタセル)
- Client
- 株式会社mitaseru JAPAN
- Expertise
- Business/Strategy Design
- Date
- Client
- 株式会社mitaseru JAPAN
- Expertise
- Business/Strategy Design
- Date
Overview
三井不動産グループが事業提案制度「MAG!C」を通じて立ち上げた新規事業「mitaseru(ミタセル)」。グッドパッチは、2021年10月から2カ月間、事業の提供価値を洗練させるPoC支援を提供。限られた期間でリサーチを通した顧客像の再構築やプロトタイプ制作を実施し、2024年4月の事業化に貢献しました。新規事業におけるPoCにおいて顧客理解がいかに重要なのか、本事例を通じてご紹介します。
Client
株式会社mitaseru JAPAN
株式会社mitaseru JAPANは、三井不動産グループが新規事業提案制度「MAG!C」を通じて立ち上げた企業です。「厳選された飲食店の味を食卓へ」をコンセプトに、急速凍結技術を活用したお取り寄せグルメサービス「mitaseru」を展開。食文化の新たな価値を提案し、国内外での事業拡大を目指しています。
Summary
ご支援前の課題
- 新規事業立ち上げや進め方のノウハウが不足していた
- 顧客像の明確化が不十分で、マーケティングや提供価値の方向性が不明確だった
- プロトタイプの具体性が不足し、アイディア先行の企画書頼りの進行となっていた
- エンドユーザーの課題仮説が仮説のまま検証されていなかった
グッドパッチの対応とご支援後の成果
- プロトタイプを用いた探索型・検証型の両面からのリサーチでサービス体験を検証
- 調査を通じて顧客像を正しく理解し、バイアスを排除
- 事業の方向性を確立し、役員の承認を促進するための資料を制作
- 短期間でのPoC支援により、事業化に貢献
きっかけは三井不動産グループの事業提案制度「MAG!C」

三井不動産グループでは、2018年より事業提案制度「MAG!C(マジック)」を創設。グループ社員から事業アイディアを募り、審査を通った事業アイディアについて提案者が事業責任者となり、自ら提案した事業を推進することを原則として、「不動産デベロッパー」の枠を超えた「産業デベロッパー」というプラットフォーマーを目指すことを趣旨に毎年開催されています。
グッドパッチでは、2019年度の「MAG!C」から複数チームのPoC支援をしており、今回の事例では2020年度のMAG!C審査を通過した直後の「ゴーストフローズンキッチン」(現「mitaseru(ミタセル)」)チームの事業提供価値のブラッシュアップを中心としたPoC(Proof of Concept:概念実証)支援を実施。
その後、約2年の検証期間を経て三井不動産社内の本格事業化の承認が下り、2024年4月にmitaseru JAPAN株式会社としての事業会社の設立をもって「mitaseru」は新たな一歩を踏み出しました。
課題は「顧客像の明確化」
グッドパッチにご依頼いただいた当初、mitaseruチームは「急速凍結技術により有名飲食店の料理を食卓へお届けする」という事業案を掲げていました。事業案はMAG!Cの審査を通過していましたが、本格的に事業化を進めるにあたり、審査員側から特に求められていたのは「顧客像の明確化」だったといいます。

株式会社mitaseru JAPAN 代表取締役 松本さん
「具体的にはどういった方々が商品を買うのか、どういうシーンで利用されるのか、どういったマーケティングを行うべきなのかといった点の具体化が課題でした。それまでも定量アンケートや定性インタビューを通してターゲットの見立ては立てていましたが、今振り返ると、大企業の中で企業向けにソリューションを提供する考え方に染まっていて、エンドユーザーを適切に捉えられていなかったと思います」(株式会社mitaseru JAPAN 代表取締役 松本さん)
PoCを進める上で、想定するユーザーの価値観や行動原理をリアルを知ることが非常に重要です。こうした状況から脱却するため、顧客視点の獲得が急務となっていました。
顧客の価値観や利用シーンを見つめ直す検証プロセス
グッドパッチは2カ月という限られた期間の中で必要な探索と検証を行うため、リサーチとサービスのプロトタイプ制作を同時に進めました。
これまでに実施された調査内容の再分析と、デスクトップリサーチを並行して実施。従前の調査では、冷凍食品に関する顧客の課題理解において「食べる」部分のみにフォーカスされていたことに着目し、新たな調査では、顧客が本当に求めている食体験を提供するために「献立を考えるところから片付けをするまでの、一連の行動を視野に入れて実施」することにしました。
具体的には、後述する対象者の価値観を見るための「日記調査」、プロトタイプを用いた「密着調査(観察調査)」、食に関する日常生活や価値観を理解するための「インタビュー調査」を中心にリサーチを通して想定ユーザーの理解を深め、最後に、定量調査で本サービスの市場規模の見込みなど、数値的なデータを分析することで事業の可能性を定性・定量両面で判断できるようプロジェクトを進めました。

日記調査でリサーチ対象者の価値感を深堀り
リサーチ対象者を通じた調査では、まず日記調査という手法で、ユーザーの価値観を理解していきました。
日記調査は、一定期間継続して対象者の方の生活行動や利用シーンの写真、商品利用の感想などを記録してもらう調査手法です。
今回はチャットツールを用いて、リサーチ対象者の方々に送っていただいた内容を基に、献立を考えるところからゴミの処理までの食事に関わる「見えない家事」を含め、どういった困りごとがあるのかなど理解を進め、価値観を深掘りしていきました。
食べるシーンだけでなく、準備や片付けなど「見えない家事」も含めた行動や感情を顧客自身の言葉で記録してもらうことで、ありのままの気持ちや価値観を知ることができました。

日記調査でいただいたリサーチ対象者からの実際のメッセージ
ECサイトやパッケージなどリアルなプロトタイプを制作
同時並行で実施したプロトタイプ制作では、ECサイトの制作から、商品となる冷凍食品のパッケージ、解凍手順などを記したチラシまで一貫して制作を行い、購入から商品を実際に味わうまでのリアルな体験を再現しました。
ローンチ後のサービスを模したプロトタイプを制作しリサーチ対象の方に体験していただくことで、次に続く密着調査の精度も上がり、短期間でもサービス設計の具体性を向上させることが可能となります。

ECサイトや同封のパッケージ・チラシについてもプロトタイプを制作し、商品が届くところからリアルな体験をしてもらう
密着調査(観察調査)とインタビューでサービスの価値を見直す
続いて行われた「密着調査(観察調査)」では、プロトタイプを用いて一連のサービスの流れを対象者の方に体験いただき、その様子をご自宅にお邪魔して観察しつつ、インタビューも実施いたしました。
こうした調査を通じて、例えば「ウェブサイト上の料理写真は平皿に乗せて薬味などが添えてあり美味しそうに見えたのに、調査先の方のご自宅で解凍した後にツルッとした白いお皿に乗せた途端全く違う印象になってしまう」といったことが分かるなど、サービス体験としてのどうすれば良くなるのか?といった新しい問いや改善ポイントを発見することにつながりました。

「実際の商品がお客様の手元に届いて、解凍して、食べるという一連のプロセスを完成度の高いプロトタイプで体験いただきました。その場でインタビューできる機会だったので、手間に感じた部分があったか、使い勝手はどうだったか、美味しいと感じたかなどリアルな声を聞けたことによって改めてサービスの提供価値の方向性を検証できました」(株式会社mitaseru JAPAN 取締役 佐々木さん)

株式会社mitaseru JAPAN 取締役 佐々木さん
バイアスから脱却し、真に求められる価値を探る
一般的に新規事業提案制度では、審査を突破するためにどうしても企画書先行で進みがちになり、顧客像に対しても事業に都合の良い、偏ったバイアスがかかる傾向が強くなります。
今回のプロジェクトでも、グッドパッチとしては「mitaseruのお二人の中で固まりつつあった顧客像を、調査を通じて一次情報に触れていただくことで一度壊したい」という意図がありました。
現場での調査やプロトタイプを使った検証プロセスによって既存の仮説に潜むバイアスを排除しながら、フラットな視点で新しい方向性を見出す。そしてユーザーの価値観に基づいて顧客像を解釈しながら、サービス設計を改めて根本から見直すことに注力しました。
今回は2カ月という短い期間でのプロジェクトでしたが、事業化までの約2年半にわたるPoCのうち、最初の2カ月間でグッドパッチと一緒にフラットにアイデアを考え直した経験が、現在まで続くマインドセットの土台になっているといいます。
「リサーチを通じて顧客が何を求めていて、どういった価値がUX的に刺さるのかという検証に集中できたのはとても価値がありました。グッドパッチさんと協業した2カ月間で、実際にユーザーの声を拾いながら突き詰めた顧客視点のサービスであると社内でも理解してもらえたところが、事業化へつながったポイントだと感じています」(松本さん)
新規事業立ち上げの困難と孤独感——情熱を持ってコミットするパートナーの価値
グッドパッチがプロジェクトを伴走する中で、どういった点で価値を感じていただけたのか、最後にmitaseruのお二人にお伺いしました。

「2カ月というプロジェクト期間中、グッドパッチのメンバーが最初から最後までフルコミットしてくれたことが衝撃的でした。常に一緒に動いてくれるだけでなく、僕ら以上に情熱を持ってくれている。そういった外部のパートナーの方は初めてでした。スピード感についても期待以上で、リサーチを含めた2カ月という短期間で実際のサービスに近いプロトタイプを制作してもらっただけではなく、役員説明に使用する提案資料なども定量データを踏まえて数値的にしっかり分析されたものを作成いただき、とても助かりました」(松本さん)
「基本的に事業について本気で考えるのは自分たちしかいない状況で、グッドパッチの皆さんが親身になってさまざまな気付きをもたらしてくださったことは、本当にありがたい時間でした」(佐々木さん)
新規事業立ち上げには特有の孤独感や難しさがあります。そんな中で自分ごとのようにサービスの事を考え、的確に伴走してくれるパートナーは貴重かもしれません。
お問い合わせや取材など含めて反響を得ているmitaseru。今後国内のECを中心とした販売を伸ばしつつ、海外販売も視野に入れながら、短期間での早期のスケールアップを目指しているそう。今後もmitaseruの成長が楽しみです。

▼サービスサイトはこちら
厳選お取り寄せグルメサービス「mitaseru(ミタセル)」
Interview
本プロジェクトの詳細は、こちらのインタビューからもご覧いただけます。
徹底的な顧客理解が事業化実現の鍵に——三井不動産グループの厳選お取り寄せグルメサービス「mitaseru(ミタセル)」のPoC支援
クレジット
デザインストラテジスト:小林 尚規
デザインリサーチャー:米田 真依
デザインリサーチャー:村上 まり子
グラフィックデザイナー:有末 海