失敗から学んだ、ユーザーインタビュー23の心得
サービスやプロダクトの開発プロセスにユーザー視点は不可欠です。しかし頭では理解していても、いざユーザー視点でものづくりを始めようとすると、最初のプロセスとしてなんとなく「ユーザーインタビュー」を採用してしまいがちです。
もしあなたがユーザーインタビューとは単純に「話を聞くこと」だと考えているとしたら、それは大きな間違いでしょう。目的設定も下準備も不十分な状態でのインタビューは、ものづくりの質の向上につながるユーザーインタビューにはなりえません。
ではユーザーインタビューには、どのような準備や心構えが必要なのでしょうか。今回は、筆者が失敗経験を元に学んだ23個の心得をご紹介します。
目次
下準備を始める前に、まずはバイアスを外す
ユーザーインタビューには下準備が必要だと前述しましたが、実はもっとも大切な準備が「バイアスに気づく」ことです。私たちは普段から、無意識のうちにあらゆる事柄を自分の価値観で捉え、極めて主観的に理解しています。「自分にとっては普通のことなのに、他の人にとっては普通じゃないの!?」なんて驚き体験はザラにありますよね。少なくとも私はしょっちゅうです。
では具体的に、どうやってバイアスに気づき、バイアスをなくす努力をすればいいのでしょう?ここからはインタビューをする人のことを「聞き手」、インタビューに応じてくれる人のことを「語り手」と呼んで、話を進めていきます。
聞き手が「知りたいこと」は「知りたいことの全て」ではない
バイアスに気づく…と言っても一人の人間である以上、完全にバイアスをなくすことは無理ですよね。とはいえ「自分の言葉には、自分にとっての当たり前が溢れている」と意識するだけで、事前に作る質問リストやインタビュー中の言葉遣いはかなり変わってくるはずです。
例えば、あなたは自分の「知りたいこと」が「知りたいことの全て」だと思って質問リストを考えていませんか?自分が把握できていない「知りたいこと」も本当はあって、もしかしあたらそれを語り手が語ってくれる可能性もあるわけです。以前こんなやりとりがありました。
聞き手:お昼休みに買い物する時の持ち物は?
語り手:お財布とスマホですね。
聞き手:どんな風にスマホで決済してるんですか?
語り手:両手でこんな感じで…(実際にスマホを触ってくださる)
聞き手:あれ?お財布はどうやって持ってるんですか?
語り手:サブバックの中ですね。
聞き手:…!
この時の聞き手は、語り手のお昼休みのスマホ決済について知りたいと思っていましたが、無意識に「持ち物はお財布とスマホだけ」だと思い込んでいたのです。そのため、それ以外のもの(ここで言うサブバック)が存在している可能性を考えもしませんでした。もし可能性を加味していれば
聞き手:「お財布とスマホ以外にありませんか?」
と尋ねられたでしょう。そしてこのやりとりには、語り手が「自分で把握できている『知っていること』」を語っていたことも表れています。サブバックは「自分でも把握できていない『知っていること』」で、当たり前すぎて言語化されなかったのです。
バイアスに事前に気づくには
聞き手が語り手の「自分でも把握できていない『知っていること』」を引き出すためには、自分にとっての当たり前を事前に認識し、その上で他の選択肢があることを知っておくと良いでしょう。例えば、
- 事前にフィールドワークを行い、どんな人がいるのか知見を広げる
「こんな人もいるんだ!」という新たな発見で溢れています。天気によっても違うかもしれません。 - インタビューの内容に、自分で答えてみる
あまりにもスラスラと答えられたら黄色信号です。あなたが答えやすい質問ばかり並んでいませんか? - インタビューに来る時の持ち物や状況を設定する
「コンビニに行くつもりで来てください」のように状況を設定することで、語り手の無意識の行動も観察することができます。
今後も続く関係性(信頼)を築くこと
ユーザーインタビューをすることは、聞き手が情報の搾取者になる危険性を常に孕んでいます。例え謝礼金があっても、語り手が親切な方でも「調査される迷惑」が発生する可能性は少なからずあります。時間制限に焦って、最後が一問一答のようになってしまったことはありませんか?話しづらいであろうことも、ユーザーインタビューだからとあっけらかんと聞いてしまってはいませんか?
無理にその1回のユーザーインタビューで聞かず、メールで後追いで聞いたり、2回目を設定することも選択肢としてはありえます。話し終わった後も「協力したいなぁ」と語り手に思っていただけるよう、聞き手は語り手を一緒に情報を探していく仲間と捉え、質問しながら信頼関係を築いていくことが大事なのではないでしょうか。
調査される迷惑や信頼関係に興味のある方は、こちらの本も参考にしてみてくださいね。
語り手の気持ちと、聞き手が気をつけたいこと
では、ここからは語り手の気持ちを想像しながら、ユーザーインタビューの心得について考えていきましょう。
語り手は不安を抱えている
よほどの著名人でユーザーインタビュー慣れしている方でなければ、語り手になる経験は初めてな方が圧倒的多数です。ユーザーインタビュー後、こんなやりとりがあったことはありませんか?
聞き手:今日はありがとうございました。
語り手:お話ししたことで良かったんでしょうか?大丈夫でしたか?
そんな語り手の不安を拭うために、聞き手としてできることは
- 言葉と表情で素直に感情を伝える
「自分の話は役に立っている」と語り手に感じていただくためにも、話の中で気になる部分があればわかりやすく反応します。 - パソコンを閉じ、目を見て話をきく
パソコンを見ながら質問していませんか?面接官のようにテストされている印象を受け、人によっては緊張してしまいます。あなたが向き合っているのはパソコンではなく、語り手です。 - 最初にどうでもいい話をする
例えば、朝改札で引っかかった話。聞き手は「どうでもいい話を許してくれる人」だと語り手に思っていただけると、語り手もユーザーインタビュー中に本人にとっては「どうでもいい話」をしてくれるようになります。実はどうでもいい話の中に良い情報が隠れていたりするわけです。 - しっかり自己紹介をする
最初、語り手にとって聞き手は新宿駅ですれ違う人とさほど変わりません。そんな人に自分の話をしたいと思うでしょうか? - 最後に何がどう自分にとって新鮮で、インタビュイーの話にどんな価値があったかはっきり伝える
語り手は自分の話が役にたったか少なからず気にしています。
インタビュアーとインタビュイーは同じ船の乗組員
ユーザーインタビューの流れがわかっている聞き手。それを知らず、次に何を聞かれるか不安を抱えながら答え続ける語り手。そこには意図せず上下関係が生まれてしまいがちです。両者にとって心地よい時間にするためにも、聞き手は語り手に目線を合わせる努力をする必要があります。
目線を合わせるためには、例えば
- ユーザーインタビューの目的をしっかりと伝える
聞き手として、語り手に何を期待しているのか伝えることで、一緒に目指すべき方向を共有できます。
- 分からないことは分からないと素直に認め、聞く
聞きなれない単語が語り手の口から出たら、正直に聞いてみましょう。ちなみに私は、アニメ系のインタビューをした時「痛バック」が分からず、途中まで何を話しているのか理解できていませんでした。
- 語り手の話しやすい環境でインタビューを行う
リラックスして話してもらいましょう、といろんな本に書いてありますが、場所の設定は忘れがちなポイントです。親子のユーザーインタビューは会議室でやるより、カフェの方が良さそうですよね。
- 物事の伝え方は人それぞれなので、白い紙とペン、検索できる端末を用意しておく
全員が全員、言葉で説明するのが得意なわけではありません。私自身もそうなのですが、言葉より絵や記号が先行する人もいることを覚えておいていただけると嬉しいです。 - 発話のスピードを合わせる
ユーザーインタビューを進めながら、語り手の話しやすいテンポを探してみましょう。
- 事前に語り手の下調べをする
テーマによっては、語り手のFacebookや語り手を知る人に事前に話を聞いておくと、質問リスト作成の参考になるでしょう。ただ、ユーザーインタビュー中に事前知識を語り手にひけらかしてはいけません。引かれます。警戒されます。
インタビューで探るのは「材料」と「ろ紙」
質問に対し、語り手はは最初にろ過した結果を話します。why? What?できっかけとなった出来事を聞くだけでなく、どうろ過しているのか、つまりろ紙の部分を探ることにも意味があります。当たり前っぽい話なのですが、賢い人ほど話を聞いているうちに『この人はこういうタイプ』と判断し、自分の仮説を裏付けるためにインタビューを進めしまったり、裏付ける発言しか耳に残らなくなってしまうことがあるのです。
ろ紙の部分を探るには、例えば
- 物事は常に裏表で対になっているので、もう片方を聞く
一つの「決断」を聞いたら、「諦めたこと」を聞きましょう。 - 「自分はこう思った」の話なら、「その時他の人はどう思ったでしょう?」と聞く
主観と客観を行き来することで、より状況をリアルに理解できます。 - 「良い」「難しい」などの形容詞が出てきたら、何と比べているのか判断基準を聞く
よく語り手の言葉から出てくる形容詞は特に要注意です。何がその人の基準になっているのか聞いてみましょう。 - 「効率的」などの常套句が出てきたら、類語や聞き手の考えを伝えてみる
「時間短縮ってことですか?」など言葉を聞き手が足すことで、語り手は聞き手の言葉を修正する機会を得ます。思わぬ価値観が見えてくるかもしれません。
聞き手が仕分けている情報は、先に語り手が仕分けた情報
話を聞いている時、「あー、この話が聞きたかった!」「んー、この話は余談だな」なんて考えたことはありませんか?ついつい語り手の言葉を選別することに思考が向かいがちですが、実は語り手も「この話はしても良さそう」「この話はいらないか」と考えながら話しています。もしかすると語り手が言葉にしなかった情報の中に、本当に重要な情報が隠れているかもしれません。
語り手が言葉にしなかった情報を知るには、例えば
- 1回目のユーザーインタビュー後、整理したら繋がりが見えずらかった部分を追加で質問してみる
語り手の言葉を文字起こしすると、より矛盾やストーリーの抜け落ちが見つけやすくなります。 - なぜ語り手がユーザーインタビューを引き受けてくださったのか聞いてみる
その人にとってユーザーインタビューで何をすることが重要で、何が重要でないと考えているのかを聞いてみましょう。特に謝礼が出ない場合、協力理由が意外なところにあったりします。 - 沈黙をつくる、言葉を待つ
沈黙はこわいことではありません。語り手が思考しているようなら、聞き手は言葉を重ねず忍耐強く待ちましょう。
- 最後に「話そびれたこと」「テーマに関係あるかないか関わらず、インタビュー中思ったこと、思い出したことはありますか?」と聞いてみる
Goodpatchのユーザーインタビューでは、最後の質問として「今日は何%話せましたか?」と聞いたりします。 - インタビュー後、お見送りできるところまでお見送りし、振り返りつつ話を聞く
録音機を切った後に良い話が聞けた!なんて経験はありませんか?語り手の役割がなくなることで緊張が解け、語り手の話す内容が変わることがあります。
まとめ
今回は質問リストの作り方や録音の作法など、基本的なところには特に触れませんでした。もしより興味がある方がいれば、インタビューをしている番組を見るのもオススメです。例えばTBS『A-Studio』、NHK『鶴瓶の家族に乾杯』、TBS『サワコの朝』あたりでしょうか。Goodpatch Blogにもいくつかユーザーインタビューに関する記事がアップされているので参考にして見てください。
いろいろと書きましたが、語り手の性格や状況によってフレキシブルに対応を変える必要があるのでユーザーインタビューは本当に難しいです。でもだからこそ面白いと感じています。インタビュー技法の本を読むと「知ってる情報も知らないふりをする」など細かいテクニック話もありますが、2年間いろんな人にインタビューさせていただいて思っていることは素直さが一番ということです。
心を開いて欲しいなら、まずこちらが心を開くこと。そして語り手の時間をどれだけ大切にできるかなんだろうなぁ、と思います。
長くなってしまいました。1mmでも有意義な情報があれば、何よりです…。