任天堂のUI/UXデザイナーが語るデザイン思想。UI Crunch #13 娯楽のUI【書き起こし前編】

私たちが利用するサービスやプロダクトには、毎日使う実用品もあれば、娯楽品もあります。目的は異なっても、どちらも生活に欠かせないものです。技術が進化し、新しいものが生まれ続ける現代において選ばれるサービスやプロダクトには、人に寄り添ったデザインが求められることは想像に難くないでしょう。では、娯楽品のデザインに潜むロジックや哲学はどのようなものなのでしょうか。

2018年4月27日、DeNAとGoodpatchが主催するUI Crunchは、任天堂株式会社さまをゲストに迎え「UI Crunch #13 娯楽のUI – by Nintendo –」を開催しました!告知開始直後からたくさんの反響をいただき、最終的には4200人以上の方々にご応募いただきました。伝説の回となったイベントの全貌をお伝えします。

ハッシュタグ「#uicrunch」のつぶやきのまとめは、こちらからご覧いただけます。

あそび心とUI|正木 義文さん

トップバッターのUI/UXデザインチーフの正木さんは、任天堂のデザイナーが大切にしている伝え方について、クイズ形式でお話ししました。

正木 義文 (MASAKI yoshifumi) |UI/UX デザイン チーフ

多摩美術大学でグラフィックデザインを学んだ後、2005年に任天堂入社。 UI/UXデザイナーとして多数のゲームソフトを開発しつつ、現在はUIデザイン開発チーフとしてゲームソフトのUIクオリティを統括している。 UIデザインのなかに、機能や実用性だけでなく楽しさやユーモアを盛り込むことを得意とする。
担当プロダクト:Nintendo Labo (Nintendo Switch, 2018)どうぶつの森 ハッピーホームデザイナー(ニンテンドー3DS, 2015)、とびだせ どうぶつの森(ニンテンドー3DS, 2012)、nintendogs +cats(ニンテンドー3DS, 2011)、New スーパーマリオブラザーズ Wii(Wii, 2009)、ニンテンドーDSi OSデザイン(ニンテンドーDSi, 2008)

正木さん:
まずはじめに、クイズをしたいと思います。UIとは、何の略でしょう?次の選択肢から5秒で回答してください。

答えは58番です!皆さん、正解できましたか?

UI Crunch 参加者の皆さんなら、全員正解かと思いましたが、正解できた人は少なかったと思います。実はこのクイズは、出題方法そのものに問題があるんです。

クイズとは、問題の内容に対して回答者の頭にハテナがつくのが正しいあり方です。しかし、このクイズにおいてのハテナは、内容よりも出題方法、つまり接点となるUIにありました。回答が分かっても、これだけたくさんの選択肢があっては、5秒で見つけることができませんよね。情報過多で、クイズとして適切ではありません。

また、回答が58番であることは確かです。しかし、回答者に必要なのは、番号よりも『User Interface』という単語ですよね。この回答では情報不足で、やはりUIとして成立しません。

正しいクイズとは、問題・回答・正解を上手にアプローチすることです。この考え方は、UIデザインにも共通しています。実はこのクイズは、任天堂で新人デザイナーを迎えるUIデザイン研修で話している内容です。

伝え方の心がけ

正木さん:
任天堂は、集団開発である以上「ものづくりは人づくり」という理念で、真心を込めてお伝えしています。では、このような伝え方を何故しているのか、心がけとして3つご紹介します。伝え方のお話なので、UI開発にも通じるポイントです。

教える事より体験してもらう事

ものづくりの現場では、たびたび「ユーザーの立場になって」という言葉を耳にします。UIデザインをする上で、ユーザーの立場になるためには、実際にユーザーになってみることがもっともユーザーへの理解を深められます。木が目の前になかったら「木登りに気をつけよう」と言われても、分かりませんよね。

はじめての体験は貴重

これは本当に重要だと思っています。例えば、新しい靴をはじめて履いた日は気分が高揚しますが、その気持ちは少しずつなくなっていくと思います。このように、新鮮さと飽きは表裏一体です。しかし、みなさんが新しい靴を履いた日の気分を想像して、共感できることであるならば、そこには価値があります。先ほどのUIクイズで、任天堂の新入社員が初めてUIに触れる体験などもそうです。初めての体験が、特別で価値のある時間になるように、伝える側はファーストインプレッションを大切にしています。最初にどのくらい関心を持てるかで、その後の関心度は変わります。

体験はやっぱりおもしろく

「おもしろい」とは、感情を動かすという意味です。喜怒哀楽の楽だけではありません。先ほどのUIクイズで思わず吹き出した方や、選択肢の多さにギョッとした方もいるでしょう。このように、伝え方によって人の感情は動き、動いた感情が次の行動を作り出します。想定しないことが起きると、感情は大きく動くものです。ユーザーが想像する一つ先の予想外のことを提供する準備は、とても重要です。

あそび心を伝える、娯楽のUI思考の原点

正木さん:
伝え方の心がけのポイントを押さえながら、実際の商品になぞって、あそび心を伝えるためのUIデザインについてお話しします。『Wii U スーパーマリオメーカー』は、マリオが駆け抜けるコースを自分で作って遊べるタイトルです。はじめて遊ぶ人でも楽しめる分かりやすさが必要ですし、タイトルの特徴である「コースを作る」というツールとしての役割もあるため、コース作成にこだわる高機能を生かすことも求められていました。

高機能に関しては『ハテナブロック』だけでもこれだけのことを考える必要がありました。

  • ハテナブロックを出す
  • ハテナブロックに入れるアイテムを選ぶ
  • ハテナブロックにアイテムを入れる
  • ハテナブロックからアイテムを出す

正木さん:
分かりやすさと高機能は相反する部分も多いので、UIデザイナーなら一度は頭を抱えたことがあるのではないでしょうか?トレードオフになりやすいですよね。この分かりやすさと高機能の両立について、少し深掘りしてみたいと思います。

マリオメーカーでは、アイテムを配置すると、何かしらレスポンスがあります。マリオメーカーは、高機能を前面に押し出して教えることはしていません。触っているうちに、機能が発見される構造にしていることがポイントです。高機能が持つ弱点を「発見」という遊びに転換して、分かりやすさを保ちつつ高機能を習得できるようにしています。覚えた高機能で、コースづくりが加速します。「こんなにたくさんの機能、覚えられないよ」という感情を「こんなこともできるんだ! すごい」という驚きに変換していることが分かりやすいタイトルだと思います。

画面に大きな手が出てきましたが、あれは商品そのままのゲーム画面です。Wii Uの特徴は、ゲームパッドとテレビ画面を組み合わせて遊べることでした。マリオメーカーでコースを作成しているときは、テレビ画面に大きな手が表示されます。「この手って本当に必要?」「邪魔で見えない」「かっこ悪い」という意見もありそうですよね。ここで配慮しているのはプレイヤー以外で、見て楽しめる画面にしているんです。「ユーザーとは誰か」という部分では、コースを作成する人以外にも、隣で見ている家族や友達のことも配慮しているデザインと言えます。

マリオメーカーの例になぞって、あそび心を伝えるUIデザインのお話を3つさせていただきます。

UI脳と娯楽脳の二人三脚

UI脳は、UIデザイナーが商品機能を満たす手段として当たり前に持つ思考であり、知識です。例えば「押せないボタンは存在感を薄くして、押せないように示す」「ピクトグラムは明快に意味を押さえる」などです。この知識は、業務効率を上げるための武器でもありますが、時にはアイデアに制限をかけてしまうこともあります。

先ほどのマリオメーカー動画の、クリボーとキノコ2つめの反応を思い出してください(0:34~0:44)。一度食べたキノコを、吐き出しましたね。UI脳だけでは「機能を受け付けないモノは事前に塞ぐ」という考えになると思います。この事例だと、クリボーがキノコを受け付けないよう、事前にバツをつけたり、薄く表示するという対応にとどまり、「食べて、吐き出す」という発想には行き着かなかったかもしれません。

娯楽脳は、あそび心を考え表現する脳です。娯楽脳を使って考えると「ピクトグラムは明快に意味を押さえる」という価値も「意味は伝わらない記号だけど、なんかカワイイ」「操作後に意味がわかる」という発想に行き着くことができるかもしれません。

あそび心を伝えるためには、UI脳で娯楽脳を支え、娯楽脳でUI脳を加速させることが大切です。

短所を「娯楽脳」で長所に変える

マリオメーカーには機能がたくさんあり、覚えることが大変という弱点がありました。そこで、弱点を、遊びというフィルターを通すことで強みに変えているんです。娯楽と認識されない面倒な行為や、つまらない行為は、発想の転換で娯楽に変わることが十分にあります。例えば、僕が子供と一緒にいるときに、トイレに行きたくなったとします。でも、子供はゆっくり歩きますよね。そんなとき「あっちまで競争だ!」と言うことで、楽しく走ってくれるんですよね。しかも僕は「息子もこんなに早く走れるようになったんだな」と幸せで、すべての機能を果たしています。発想の転換で、面倒やつまらない行為を娯楽に変えましょう。よく検討せずに「これは娯楽とは関係ないことだ」と片付けてしまうのは、勿体無いことだと考えています。

将棋3席、麻雀5席

これ、意味わかりますか?将棋と麻雀の、プレイ人数を想像してみてください。将棋は2人、麻雀は4人ですよね。では、なぜ1席ずつ多いのでしょうか?

娯楽の世界にビデオゲームが出てくる前は、すごろくや福笑いなどが娯楽品でした。遊んでいる人だけではなく、見ている人も楽しいという価値がありました。テレビという存在が娯楽文化に関わり始めてからも、娯楽の共有という価値は今も昔も変わりません。娯楽品に触れる人のみが楽しいのではなく、娯楽品を取り巻く体験全てが娯楽です。席をひとつ、準備しましょう。

正木さんからのお話は、ユニークなクイズに始まり、任天堂さんの娯楽のUIデザイン思想についてでした。デザイナーがデザインする対象は、プロダクトの内側に閉じてはならず、プロダクトを取り巻く環境すべて、つまりサービス全体だということを改めて理解できるセッションでした。実用品のデザインにおいても共通する点でもありますね。

Splatoon UIの狙い|橘 磨理子さん

UI/UXデザイナーの橘さんは、『Splatoon(スプラトゥーン)』のビジュアルデザインのアプローチについて語りました。Splatoonは、2015年5月28日に任天堂さんから発売され、2015年6月24日には世界累計台数100万本を突破している大人気タイトルです。確固たる世界観を持つSplatoonのUIは、どんな思考プロセスでデザインされたのでしょうか。Splatoonファンは垂涎の内容です!

橘 磨理子 (TACHIBANA mariko)|UI/UXデザイナー

多摩美術大学でグラフィックデザインを学んだ後、2012年に任天堂入社。 UIデザイナーとして、『Splatoon 2(スプラトゥーン2)』『Splatoon(スプラトゥーン)』『ピクミン3』のUIデザインに関わる。 華やかなグラフィックと綿密に計算された機能の共存を得意とする。
担当プロダクト:Splatoon 2(Nintendo Switch, 2017)、Splatoon(Wii U, 2015)、ピクミン3(Wii U, 2013)

Splatoonが企画された背景

橘さん:
Splatoonは、任天堂の「マリオ」や「ゼルダ」という定番タイトルに対して、新しいタイトルとして企画されました。私は、Splatoonをデザインするまで、UIにもっとも大切なのは分かりやすさなので、目立ってはいけないと考えていました。しかし、Splatoonチームに合流した時にアートディレクターから「パッと見てSplatoonと分かる、新鮮なデザインにしてほしい」とオーダーがあったのです。

そこで、SplatoonのUIデザインではわかりやすさと新鮮さのバランスを狙う事に挑戦しました。

新鮮さの追求

橘さん:
新鮮さという要素は、UIにとっては危険でもあります。新鮮さを追求しすぎると、馴染みのないUIが出来上がり、ユーザーは「わかりにくい」という拒否反応を持つことがあるためです。そこで、自社の有名シリーズのUIデザインと比較しながら、デザインをしました。完成されたデザインとの比較は、新規性やクオリティの指標になります。比較したのは、例えばマリオですね。常に横に並べて作業することで、Splatoonらしさを発見しやすかったと思います。

フォントについて

フォント作成時のラフスケッチ

フォントの選定をする中で、ゲームの世界観に合うフォントがなかったため、何を思ったか自分で作ってしまいました(笑)。

お見せするのは恥ずかしいくらいラフな部分もありますが、最初の勢いを大事に、なるべく早く書き出すことを意識していました。多少ぼんやりしたイメージでも、方向性が合っているかをアートディレクターや他のデザイナーと早めに共有することが、限られたスケジュールでものを作る上で大事なことだと思います。

文字の太さはスポーツブランドを意識して、どっしりと骨太なフォントにしています。そこに液体のような、流れる有機的なラインを足しました。新鮮さだけを意識しているのではなく、最低限の可読性も気にしており、読みづらいと指摘があった文字は、最後まで修正を重ねていました。

UIの下地と組み合わせて、フォントのデザインを詰めていきました。今は『イカフォント』と呼ばれていますが、この頃はインクリング(注:Splatoonの主人公)のキャラクターデザインがウサギだったので『ウサギフォント』が正しいのかもしれません(笑)。

こちらは、フォント作成ソフトのキャプチャ画面です。文字のパスデータを、フォントデータ化しています。文字幅やカーニングなどの細かい調整も結構しています。漢字以外の必要な文字は、すべて作成しました。

このように、マリオフォントで組んだ文章と、イカフォントが並ぶと、それぞれの世界観がすぐ伝わるフォントになっていることが、お分かりいただけると思います。

形について

カーソルやボタンなど形のデザインは、言語化から始まっています。まず「イカ」と「スポーツ」という言葉から、連想されるイメージを書き出してみました。次に、連想された言葉のイメージを形にしてみます。左側にプレーンな形を置いていますが、右側はSplatoonらしい有機的な形をしていませんか?

このように、色がなくてもSplatoonらしさを感じるくらい、特徴的なデザインになったと思っています。

配色について

Splatoonでは、配色でも「らしさ」を追求するためのルールがあります。マリオのアイコンは、自然なライティングで撮影されているので、影の色の明度が暗くなっています。Splatoonでは、鮮やかな印象を持ってもらうために、色相からずらした色を考えました。黄色の影にはオレンジ色を、ピンク色の影には紫色を使ったりしています。

こちらは『ギアパワー』と呼ばれる能力アップのアイコンです。左側は初期のラフスケッチで、右側が製品版です。言葉で説明すると長くなってしまうものを、可能な限り簡潔に表現しようとした試行錯誤の一部ですね。こうして比べると、ラフスケッチからかなり変わったものもありますが、ほぼそのまま製品化されたアイコンもあります。

パターンについて

パターンにも、Splatoonらしさを込めていました。イカは三角、タコは丸というイメージから、矢印や円弧のパターンも作成されました。すべてSplatoonらしい鮮やかなパターン素材になっていると思います。

わかりやすさの追求

橘さん:
デザインにSplatoonらしさを込める事で新鮮な印象にしたのですが、尖った色や形を使うことで、画面がごちゃごちゃになってしまわないか心配ですよね。そこで、わかりやすさも追求していきました。

明度・彩度の調整

まず、UIの明度と彩度の調整をしました。見やすい画面になっているかどうかは、画面を白黒にすることで確認できます。黒は沈みやすく、白は目立ちやすい色です。なので、テキストやアイコンは白くなり、背景などはグレーのトーンに落ち着いていると、見やすい画面になっていると言えます。

画面を白黒にする以外にも「目を細めて画面を見る」という手法もよく使われます。目を細めて画面を見たとき、白い部分は浮き上がってきます。

アイコンの彩度にも、分かりやすさを意識した配色にしていました。目立たせたいアイコンは彩度を高く、それ以外の部分は彩度を低くしています。ショップのテーマカラーのオレンジ色をスポイトで抽出すると、オレンジではなく茶色が使われているのが分かります。

UIと3Dのバランス

SplatoonのUIは、3Dモデルの上に表示されているので、分かりやすさはUIデザイナーだけで調整はできません。『壁のポスターを剥がしてください』『もう少し背景をぼかしてください』など、3Dのデザイナーにお願いすることが色々あります。ポスターを外すだけでも、それは背景のデザイナーが一生懸命作ってくれたものなので、言いにくいことでもあります。しかし、チームのデザイナーがUIの重要性を理解していたので、そんなお願いもしやすかったな、と思います。

もちろん、UIが常に目立てばいいわけではありません。例えば、バトル画面では、キャラクターや背景がもっとも目立って見える必要があります。Splatoonは地面をインクで塗るゲームなので、UIが地面を隠さないように気をつけています。さらに、2色のインクが目立つように、下地の色は黒で統一しています。ゲーム中のUIは、他のシーンと比べてもスッキリとしたUIです。このように、シーンによって情報の優先度が変わるので、UIと3Dのバランスは常に意識しています。こういったUIと3DデザイナーのやりとりはゲームUIならではの難しいところで、おもしろいところでもあります。

わかりやすさと新鮮さを追求した結果

橘さん:
Splatoon UIの狙いである「UIとして わかりやすく、アートとして 新鮮に!」を実現した結果、どうなったかをご紹介します。

新規タイトルとして一定の認知度を得る

Splatoonが新規タイトルとして、一定の認知度を得ることに貢献できました。Splatoonと分かるアイキャッチな要素を世の中に出すことができたと思います。

イカフォントが認知される

フォントは『イカフォント』『スプラトゥーンフォント』と呼ばれ、認知されるようになりました。

関連記事:世の中にないフォントを作る – 任天堂株式会社 採用情報

UIがグッズ化されて発売

Splatoonは、グッズも発売されました。ゲームのキャラクターがグッズ化されることは多いですが、SplatoonはUIもグッズになりました。

ユーザーにストレスを与えない為の配慮に徹し、存在が薄くなりがちなUIですが、UIデザインでユーザーを楽しませる事も出来ます。

会場には、Splatoonで遊んだことがある方も多かったようで、スライドを撮影したり、メモをとる方が目立ちました!橘さんのお話は、ブランドづくりにおいても役立つ内容でした。また、チームでデザインする際の心がけも多く提示されていました。フォントやアイコンのラフスケッチが何度か登場しましたが、それをチームに共有している点がポイントだと思います。途中でも人に見せて、フィードバックをもらうこと。そして「この段階で見せてもいいんだ」と思ってもらえるような環境づくりも、デザイナーがものづくりに集中するために重要なのではないでしょうか。

みまもり Switchは誰のもの?|藤野洋右さん

UI/UXデザイナーの藤野さんは『Nintendo みまもり Switch』のコンセプト設計と、UIデザインについて話しました。

藤野 洋右 (FUJINO yosuke) |UI/UXデザイナー

京都市立芸術大学で彫刻を学んだ後、2008年任天堂入社。 『ニンテンドーeショップ』のUI/UX設計、Switch をより便利に使うためのスマートデバイスアプリ『Nintendo みまもり Switch』『Nintendo Switch Online』など、オンラインサービス分野でもUI/UX設計を手がけている。 多くの関係者の意見や複雑な導線を、丹念なヒアリングで整理しUIとして構築することを得意とする。
担当プロダクト:Nintendo みまもり Switch(iOS/Android, 2017)、Nintendo Switch Online(iOS/Android, 2017)、ニンテンドーeショップ (Nintendo Switch/ニンテンドー3DS/Wii U)

藤野さん:
先ほど、橘からお話があったように、娯楽品は楽しんで遊んでもらえるように丹念に作られています。でも、「お子さんが楽しんでくれました!めでたしめでたし」では終わらないのが、娯楽品の難しいところです。娯楽品には夢中になってしまうという特性があります。つい夢中になって、宿題を忘れてた!なんてこともあるかもしれません。保護者の方からすると「楽しんでほしい」と買ってあげたゲームで悩みが増えてしまっては、本末転倒です。

ゲームに対して、保護者の方が気にしていることは他にもあります。

そこで、お子さんに「安心」して渡すことができるゲーム機というコンセプトが設けられました。本日は、『Nintendo Switch』のコンセプトを元に作られたスマートフォンアプリ『Nintendo みまもり Switch』のコンセプト設計と、UIについてお話しさせていだきます。

みまもり Switchは、ネットワーク経由でNintendo Switchのプレイ時間や、機能の制限ができるようになっています。また、Nintendo Switchでお子さんが遊んだプレイ記録をスマートフォンで閲覧できるようになっています。主な機能は、Nintendo Switchのプレイ時間に関する設定と、ソフトの起動や機能の制限です。今回は、プレイ時間にまつわるお話をさせていただきます。

正直に言いますと、最初は制限機能をスマートフォンへ移せばいいんじゃないかと考えていました。監視、制限、強制終了があればそれでいいよね、と。

当初想定していたUIは、こんなイメージです。「強制終了」という赤いボタンが、しっかりあります。

でも、「あれ?」と思いました。

これではなんだか、悲しい気持ちになりそうです。

スマートフォンからの制限、監視機能は、保護者の方の悩みは解決できます。けれど、お子さんの娯楽体験を下げてしまい、親子関係に亀裂が入ってしまうかもしれません。新たな問題が生まれてしまいました。

親子と娯楽品の「悶々体験」

藤野さん:
突然ですが、僕が子供のころのお話をします。母親に、量販店で並んで買ってもらったスーパーファミコンがあり、夢中で遊んでいました。ある日、スーパーファミコンのACアダプタがなくなりました。やることもせずに遊び続けていたので、母親がとうとう強硬手段に出たのでした。

正木さん:
量販店で並んでくれた人と、隠した人は、一緒なんですよね(笑)?

藤野さん:
そうですね。影武者の存在は確認できていないので、同一人物です。子供の僕としても、やりきれない気持ちになったことを覚えています。親子ともに、悶々としました。

皆さんは、いかがでしょうか。「そういう体験あったな」「時と場合によるでしょ」「いやいや、そんなこと一度もないよ」など思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

家族のあり方は様々です。どんな家庭で、どんな状況で「悶々体験」が起こってしまうのか。そこで、ユーザーの可視化や、ユーザーの行動分析、家族それぞれのタイムラインの見える化といった、サービスデザイン思考を重ね、チーム内の合意を大事にしながら、サービスそのものを設計していきました。

結果、保護者の方は子供の状況やゲームについて「分からない」「知れない」ことが原因で、ついつい一方通行の制限をしてしまうことが分かりました。本当は、お子さんの状況が気になったときは、こんな会話が生まれるのが自然です。

ですが、保護者の方も「分からない」ものについてどう話して、どう接していいか分かりませんよね。まずは、親子間の会話のきっかけを保護者の方に提供したいと考えました。そのために、一方通行の制限や監視という機能のUIではなく、ゲームにまつわる親子間の関係を「みまもり」としてデザインしていきました。

会話のきっかけを生み出すUI

藤野さん:
親子間の会話のきっかけを生み出すために、UIで気をつけたことを3つ紹介します。

一瞬で把握できるように

これは、お子さんの遊んだ時間を確認できる画面です。保護者の方の欲求に答えるなら、遊んだ時間を情報として優先するべき画面ですが、お子さんが直近で遊んだゲームのアイコンがまず目に飛び込んでくるようにしています。

ゲームに興味がない保護者の方にも「おもしろいキャラクターだな」と思ってもらうことで、お子さんとの会話のきっかけが生まれるようにしています。

ゲームのパッケージイラストは、パッと見てゲームの内容が端的にわかるので、その力を借りています。

また、検討中と製品版の画面では、違いがありました。検討中の画面では、日付けを表示しています。ですが、製品版では曜日を表示しています。なぜでしょう?

もうお分かりでしょうか。学校の時間割を想像してもらうと、分かりやすいと思います!

「◯曜は塾じゃないの?」「今日は土曜だし、ちょっと長く遊んでも許してあげよう」など、親子間では曜日で会話が行われていますよね。このように、スムーズに会話しやすくするために、曜日を選んで表示しています。

「良い・悪い」を押し付けない

こちらも、遊んだ時間の検討中と製品版の画面です。検討中の画面では、日ごとに「よかった」「残念」のマークが表示されています。このマークは「遊びすぎた」や「遊びすぎていない」の評価なのですが、保護者の方に意図しない先入観が生まれてしまいます。

例えば、赤ワクで囲っている「残念」のマークです。

この日は実は、お父さんとお子さんが楽しくゲームを遊んで「もうちょっとやるか」となっていただけかもしれません。アプリの機械的な評価は、親子間の会話の誤解やノイズになるので、削除しています。

また、このような管理系のアプリでよくあるグラフ表現も、プレイ時間の表現には使用していません。会話に大事な「何を遊んでいたか」が情報として入ってきませんよね。数値の比較だけでは、遊んだ時間のみに意識がいきがちになります。保護者の方が、ゲームのことを知る機会は、どんどんなくなってしまいます。

アラームと中断モード

みまもり Switchには、保護者の方によって設定できるゲームのやめどき方法が、ふたつあります。アラームモードは、設定された時間に「時間ですよ」とお知らせする方法です。中断モードは、設定された時間になると「もうできません」と強制スリープするものです。

中断モードのオン・オフのUIは、奥の方に設置しています。

約束を破ったお子さんに対して、保護者の方がいきなり中断するのではなく、お子さんのことを想像して「一度話してみる」というきっかけを生み出したいためです。保護者の方の欲求に反する設計ですが、親子の関係を考えて、このようにしています。

今あげた例は一部の事例ですが、みまもり SwitchのUIは、会話のきっかけを提供するために、ゲームと保護者の接点だけではなく、その先にある親子の接点も設計しています。

こうしてできたのが、みまもり Switchです。Nintendo Switchの発売と共に、スマートフォンアプリとして、世界66ヶ国で同時にリリースされました。

みまもり Switchユーザーの評価とは?

藤野さん:
次に、お客様からいただいた評価に関してです。アプリをリリースして約1年半になりますが、App StoreやGoogle Play ストア、各種SNSに寄せられたご意見から、みまもり Switchを評価いただけているように実感しています。

開発チームの思いがうまく伝わり、嬉しさと醍醐味を感じています。冒頭でのNintendo Switchのコンセプトにあった「お子さんに安心して渡せるゲーム機」の安心は、制限や監視でしょうか?

親子にとっての「安心」とは、笑顔でいられることです。Nintendo Switchがあることで、家族みんなが笑顔になる。このアプリの一番大事な体験の軸は、アプリの中ではなく、アプリの外にあります。この光景が、Nintendo Switchで考えた、娯楽の体験です。

まとめ

任天堂さんの様々な事例を元に、デザインに込めた狙いや思想をお話しいただきました。娯楽品のUIは、娯楽を取り巻く外側の体験を意識してデザインされていることが印象的でしたね。正木さんの「伝え方の心がけ」や、橘さんが行ったラフスケッチ段階から共有すること、 藤野さんのユーザーへの思いやりなどは、ぜひ実践してみたいですね。

5月29日公開予定の後編では、任天堂さんのUI/UXデザイナーが5つの質問に答えます!

  • UIデザインをするときにインスピレーションにしているものは?
  • 幅広い層に受け入れられるものを作るためには?
  • ゲームのUIデザインをするために一番大切にしていることは?

など、お申し込みいただいた皆さんの質問に答えました。ゲーム系UIデザイナーと、サービス系UIデザイナーの役割や、任天堂さんのゲーム作りのプロセスなどをたっぷり伺っています。後編もお楽しみに!

※本記事内1〜4,6〜7枚目の写真は、カメラスポンサーのラブグラフCEO 駒下さんに撮影いただいたものを、許諾を得たうえで掲載しています。お力添えいただき、ありがとうございました!

ABOUTこの記事をかいた人

Kaori Sugimoto

エディターをしています。デザインをもっと身近に感じてもらえるように、色々なコンテンツをお届けします!
  • Goodpatch Blog