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Client
日本テレビ放送網株式会社
Expertise
Digital Product & Service Design
Date

Overview

日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)が提供する地上波テレビCMの新しい運用手段である「スグリー」は、テレビCMにおいてタイムリーな広告枠の購入や管理運用を実現できるサービスです。グッドパッチは、「スグリー」の企画段階からUX調査、デザイン、実装、運用・保守までをデザインパートナーとして並走。担当者が個別に対応していた従来の属人的な取引とはまったく異なる、オンライン発注・リアルタイムレポートまで一貫したデジタル体験を実現しました。

インプレッション課金と実績請求の導入により、透明性の高い広告取引を可能にした業界初の取り組み。その開発エピソードをご紹介します。

Client

日本テレビ放送網株式会社

Nippon Television Network Corporation
日本テレビ放送網株式会社は、1953年に開局した全国にネットワークを展開する日本初の民間放送テレビ局です。主力事業は放送事業、放送番組・映像コンテンツの制作・販売、動画配信事業、映画事業、イベント事業、海外ビジネス事業、メディア事業、ライツビジネス事業など多岐にわたり、近年は国内だけでなく海外へもコンテンツビジネスの展開を広げています。

Summary

ご支援前の課題

  • デジタル化のステップを明確にしたい:伝統的な商流をどのようにデジタル体験として設計すればよいか、ユーザーインサイトや具体的なアプローチの知見が必要
  • UI/UXの専門家が必要:複雑な業界の知識をもとに、一般ユーザーにも分かりやすく伝えるUI/UX設計のノウハウをプロダクトに取り入れたい
  • デザインと開発をつなぐ体制を構築したい:企画からリリース後の継続改善まで、一貫してサポートをできるパートナーと協業したい

グッドパッチの対応とご支援後の成果

  • 専門用語に頼らないUI/UX設計:専門性が高いテレビ広告の商材を直感的に理解できる「迷わせないUI」を実現
  • ペルソナ設計を見直し、プロダクトの根本的な目的から再設計:これまでテレビ広告の取り扱い経験がない事業者の方でも使いやすいユーザー体験を構築
  • プロダクトリリース後、短期間での市場浸透を実現:リリース3ヶ月で約400社、約2,000アカウントの申し込みを達成
  • 運用・保守までコミットしてデザインの一貫性を担保:リリース後もデザインパートナーとして伴走し、市場ニーズに応じた継続的なUI/UX改善を実現

地上波テレビ広告市場の構造と課題

地上波テレビ広告市場は長い間、伝統的な取引のスタイルを維持してきました。CM放送の1-2ヶ月前から担当者間で電話やメールでの調整が多く発生し、同時にCMクリエイティブの制作や納品業務を行う必要があります。また成長する広告市場において、デジタル広告の成長率と比較するとテレビ広告は劣っている状況でした。

日本テレビは、テレビ広告の価値を高めてマーケット全体を活性化させるため、デジタルの運用性を取り入れたサービスの開発を決断しました。

そして、デザインから開発まで一貫して並走するデザインパートナーとして、グッドパッチにお声がけいただきました。

業界変革への挑戦

プロジェクト推進にあたっては、「仕組みを変える必要があるのか」「既存顧客が離れるのではないか」といった懸念の声も上がりました。

しかし、デジタル広告の成長が明確である以上、テレビ広告の変革は避けられない課題でした。現場の密なコミュニケーションにより社内外の協力体制を構築。単なるオンライン化ではなく、体験フローそのものを見直し、新たな価値を創出するためのプロジェクトへと発展していきました。

業界初のデジタル体験を実現

スグリーは、地上波テレビ広告の発注からレポート確認まで、すべてをオンラインで実現できる業界初のWebサービスです。

主要機能

  • シミュレーション:在庫状況をもとにあらゆる条件での発注シミュレーションができるできる
  • インプレッション予約商品:設定した条件を満たしつつ、発注時のインプレッション数を満たす商品。ターゲットへの効果的なリーチが可能
  • 自動入札オークション商品:予算や入札インプレッション単価、その他条件等を設定しCM枠のオークションに入札する商品。CM放送数分前の入札も可能
  • レポート:放送15分後には速報インプレッション、翌営業日には性別・年代別のリーチや確定インプレッションなどをオンライン上で確認可能

発注した広告グループの運用進捗や獲得インプレッション、リーチなどをすべてオンライン上で確認できるため、広告会社をはじめ広告主の担当者の方もリアルタイムで状況を把握できるようになりました。また、GRPではなく、実績インプレッションを取引通貨とすることで、デジタル広告と同様の透明性と納得感のある取引を実現しました。

長年の知見を次世代へ──属人化された営業プロセスを再構築した変革のプロセス

最大の挑戦は、長年の経験と知に基づく属人的な営業プロセスを、デジタライゼーションを通じて再構築することでした。ここからはプロジェクトに参画したGoodpatch Anywhereのメンバーが行った施策をご紹介していきます。

業界理解からのスタート

まずは、プロジェクトのチーム全体で広告業界の専門知識を深く学ぶことから始まりました。専門書籍の学習や業界関係者への密なヒアリングを通じて、一般には公開されていない商流や取引慣行を理解し、それをデジタル化するためのアプローチを検討しました。

ペルソナの見直しとUIUX方針

ユーザーインタビューを通じてペルソナの前提を根本的に見直しました。テレビ広告の出稿取り扱い経験のある方だけではなく、テレビ広告未経験のデジタル広告会社や広告主の方にも使いやすいUXの実現を目指し、専門用語を排除した共通言語での分かりやすい体験設計に注力しました。「迷わせないUI」を最重要視し、専門用語を可能な限り排除。テレビ広告の複雑な商材や情報の紐付けを、直感的に理解できるインターフェースとして設計しました。

デザインを段階的に進化させる

プロジェクト開始から1年ほどで基本的なUXの形が見えてきましたが、その後も商材の複雑さや情報の紐付け要件により、理想のUIを模索する日々は続きました。リリース時には必要最小限の機能に絞り込み、その後の継続的改善で段階的に機能を拡張していく方針を決定しました。これにより、クイックなリリースと、市場のニーズに合わせた柔軟な対応が可能になりました。

技術とデザインの両立

基幹システムとの連携、リアルタイムデータ処理、セキュリティ確保など、放送業界特有の技術的要件を満たしながら、使いやすいUIを両立させるため、2年半の開発期間を要しました。理想的な体験よりも、まずは確実な基本機能の実現を目指して開発を進めました。

デザインチーム体制の強化

リリース後は、チームにデザイナーを2名追加。現状のUI/UXを改善し、今後増加するユーザーに対応するための体制を強化しました。ローンチはゴールではなく、真のユーザビリティ向上はこれからのフェーズであると位置付けています。

プロジェクト成功の裏にあった、クライアントとのチームづくり

日本テレビDX推進局の山浦さんは、プロジェクトのキックオフで語られた、ダニエル・キムの「成功の循環モデル」の話が印象的だったと言います。

山浦 洋司さん:日本テレビ放送網株式会社 DX推進局 ICTエンジニアリング部

「最初のプロジェクトキックオフの際に、チームの関係の質についてみんなで話しました。関係性の質を高めることで思考の質が向上し、最終的により良い結果につながる、と。基本的にリモートでの開発体制でしたが、言いたいことを言える環境だったと思います」(山浦さん)

お互いを尊重し合える関係性を構築したことで、コミュニケーションのコストが下がり、複雑な情報を精度高くやりとりすることが可能になりました。また、関係性の質を保つことで、ボトルネックをつくらず、スピード感のある開発を推進することができました。

日本テレビ営業局の柳田さんは、「最初から言いたいことを言える環境だったと思う」と語ってくれました。

柳田 貴裕さん:日本テレビ放送網株式会社 営業局 営業戦略センター アドリーチマックス部

「要件を伝えてそれを実現してくれるだけじゃなくて、もっと一歩上の提案を返してくれるし、それをするための動きを常日頃からしていただいているので、ありがたいなと思っています」(柳田さん)

リリース3ヶ月で2,000アカウント突破、業界の構造変革と新たな市場創出を実現

プロジェクトスタートから約2年半、2025年3月に「スグリー」がリリースされました。スグリーの反響は凄まじく、わずか3カ月で、約400社から利用申込をいただき、アカウント登録数は約2,000を達成しました。これまで日本テレビとのお取引がなかった事業者の方にも多くご利用開始していただいています。

さらに、インプレッション取引と実績請求の導入により、これまでにはない形でのテレビ広告取引が実現しました。業界全体の変革に寄与すべく、サービスの拡張と改善を続けていきます。

これからの展望:機能拡張とネットワークを広げ、マーケット全体の活性化につなげたい

これからは、人物・天気指定によるターゲティング機能、TVerなどの配信サービス在庫との連携、全国ネットワーク枠の取り扱い開始など、大規模な機能拡張を計画しています。

また、現在は日本テレビの関東ローカル枠のみの取り扱いですが、系列局などとの連携により、地上波テレビ広告マーケット全体の活性化を目指しています。

今後もますます進化していくスグリー。今回実現した業界変革の成果を活用し、より多くの広告主や広告会社にとって使いやすいプラットフォームへと成長していきます。

クレジット

QM / PM:須貝 美智子
PM / UIデザイナー:中島 慎治
UIデザイナー:木山 圭太、林 静芝
リードエンジニア:大畠 康佑
フロントエンジニア:宮谷 めぐみ、明神 学

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