Goodpatch closed its Berlin office. We will continue to help businesses through Tokyo HQ.

Client
一般財団法人あしなが育英会
Expertise
Digital Product & Service Design, Brand Experience Design
Date

Overview

あしなが育英会は“すべての遺児に教育の機会と心のケアを”という理念のもとに、国内外の、病気・災害・自死などにより親を亡くしたり、親が障がいを負っている経済的に苦しい家庭の子どもたちを対象に、奨学金や心のケアプログラムなど物心両面で支援を行っている民間の非営利団体です。「あしながさん」と呼ばれる数多くの個人や企業、団体等からのご支援によって、約50年間に11万人の遺児が進学の夢を果たしています。

今回Goodpatch Anywhereは、あしなが育英会の活動を幅広い世代の方に認知いただき、オンラインツールの充実によって、国内だけでなく海外に対しても支援の輪を拡げるとともに、今後さらにグローバルな支援活動を行う基盤を作るために、ブランドの再定義を含むサイトリニューアルをお手伝いしました。

プロジェクトスタートのきっかけ

以前より、代表の土屋と面識があったという、本プロジェクト担当責任者であるあしなが育英会理事兼マーケティング部長の佐藤さん。Goodpatchはただ綺麗なサイトを作るのではなく、ストラテジーを作るところから伴走すると聞き、いつかサイト制作をお願いしたいと思っていたそうです。今回ようやくタッグを組むことができました。

“日本のあしなが”から“世界のAshinaga”へ 様々な課題

プロジェクト開始前、あしなが育英会には以下のような課題がありました。
・オフラインに比べて、オンラインからの寄付はまだ浸透しておらず、幅広い年齢層に支援の輪を広げたい
・情報発信や更新スピードを速め、デジタルマーケティング施策を活発化させたい
・“日本のあしなが”から“世界のAshinaga”へ、今後さらにグローバルに支援活動を広げていくため、国内外統一のブランディングを行いたい

昨今は、SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))に関心があるという若者も増えてきていることから、それを入口にあしなが育英会が取り組む社会課題と活動内容についても関心を持っていただき、さらには寄付文化の発展へとつなげていきたいと考えておられました。そのため、あしなが育英会への寄付を呼びかけるだけでなく、"世の中にはこんな課題があるのか"と、サイトを訪問したユーザーに知ってもらい、何か学びが得られるコンテンツも作ろうということになりました。

国籍や文化を超えたOne Ashinagaブランドを体現するためのプロセス

日本をはじめ、アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米と世界各地に事務所を持つあしなが育英会。様々な国籍や文化を背景に、多言語でのコミュニケーションが行われる多様性にあふれた環境の中で「One Ashinaga」を体現するサイトを構築していくことは非常にチャレンジングです。
また社員全員がサイトやデザインに精通しているわけではないため、個人の感覚や趣向に捉われずに皆の納得感と合意を作りあげるには、相応のロジック、データなど意思決定の拠り所となるものが重要となります。
今回のプロジェクトでは、どのようなプロセスを経て出来たデザイン案なのか、そこにたどり着くまでの経緯を社内に対して丁寧に説明することを重要視しました。
議論の経過や理由、根拠などをまとめた資料を作成し、中間報告会をたびたび開催することで社員の思いをできるだけ採り入れるなど、「担当部署だけでなく、全社一体となってサイト制作に取り組むのだ」という雰囲気作りを大切にしました。

社内全体に向けて道筋を共有する資料を作成

佐藤さんより、このようなお声をいただいています。

今回のサイトリニューアルを通して実現したいことのイメージは当初より頭の中にはありましたが、このプロジェクトに関わる全メンバーが共通のイメージを持てるように言語化、可視化することにつとめました。
社内だけでなくサイトリニューアルの目的をAnywhereメンバーに伝えていく中で、私の頭の中にあるイメージがより一層まとまり、輪郭がクリアになっていきました。また、デジタルマーケティング施策を活性化するには、担当者だけでなく、社員全員に「自分ごと化」してもらうことが大切です。今回Anywhereメンバーと一緒に作った社内説明資料をベースに説明会を開催したことで、社員がサイトに対して感じていた課題意識や、これからどうしたいのかというアイデアを聞く機会になったこともありがたかったです。
このように、デザインに入るまでの前工程がとても大切で、そこにAnywhereのバリューがあると思いました。

あしなが育英会理事兼マーケティング部長の佐藤さん

Anywhere は“デザインが得意なストラテジックパートナー”

“社内説明用資料”の主な内容は、リニューアルの目的・ご要望をもとに行った様々なリサーチとコンセプト設計のアウトプットです。
これまで多くのサイト制作会社とお仕事をされてきたという佐藤さんですが、プロジェクト初期の段階で、Anywhereがまとめた競合情報やヒントになりそうなサイト情報を多数まとめたリサーチレポートを見て驚いたといいます。

私たちは、競合調査においては同じ業界だけではなく、営利・非営利関係なく他業界も含めてリサーチを行いました。あしなが育英会の歴史や思想、取り巻く環境やどういった形で運営しているのかも含め、双方理解を深めながら始まったプロジェクト初期を佐藤さんはこう振り返ります。

まるでコンサルティング会社と会話しているようだと最初のオリエンテーションから感じていました。あしなが育英会のビジョンや、マーケティング部が目指しているものをまとめたシートをはじめにお送りしたら、それをしっかり読んで理解してくれていたのもうれしかったです。コンサルティングの仕事は、とても地道で膨大な調査に裏付けられたロジカルな提案だと思うのですが、サイトリニューアルのためにここまで調査して、提案してくれることに驚き、そのことでプロジェクトの早期に信頼することができました。Anywhereを一言で表すなら、“デザインが得意なストラテジックパートナー”という感じですね。

迷った時に立ち返るモノサシとなる“設計思想”の作成

新しいコーポレートサイトのコンセプトの構築や、ターゲットユーザー層の解像度をあげるために、オンラインホワイトボードを使ってワークショップを行いました。その後、Figma(ブラウザ上で簡単にデザインやイメージ共有ができるツール)でサイトイメージをすり合わせていきました。

特に、新しいサイトの顔ともいえるTOPページについては、数多くのバリエーションを制作して検討しました。
サイトを構築する上で何度も迷ったり、議論することもありましたが、その都度はじめに作成した”コンセプト”や“ターゲット像”に立ち返り、誰に見てほしいか、どんな行動をしてほしいかを基準に最適解を探していきました。
直感や好みで決めるのではなく、立ち返るための基準として”モノサシとなる設計思想”を定め、ぶれることなくプロジェクト進行をしていくことができました。

サイト内のコンバージョンポイントである寄付導線の検討には、特に多くの時間を費やしました。以前は必要な情報にたどり着くまでわかりづらい箇所がありましたが、ページの名前を整理したり、サイト内に回遊リンクをおいたり、メニューの探しやすさを軸に情報整理をしていきました。
また、今までのサイトの課題であった情報更新の頻度・スピードを改善するために、エンジニアを介さずに各部署でスピーディなコンテンツの更新が可能なCMSを構築。独自テンプレートの導入でエンジニア以外でもページの構築や情報更新が可能になるなど、運用面も考慮にいれた開発を行いました。リリースの前には社内勉強会を行うなどオペレーション面も含めて入念な準備を行いました。

新たなチャレンジを恐れずに。様々な層から応援してもらえるサイトが完成

歴史の長いあしなが育英会は、シニア層にはある程度の知名度と絶大なご支持を頂いています。一方で若者からはなじみが薄く、オンライン上での存在感も低い状況でした。そのため、既存支援者からの支持を維持しながら、新たに若い支援者を獲得する施策が必要でした。

佐藤さんはサイトリニューアルプロジェクトへの思いをこのように語ってくれました。

いくら若年層の認知度と支援を獲得したいからといっても、あしなが育英会には長期にわたってご寄付を継続してくださっている方もたくさんいらっしゃいます。あまり若者に寄せすぎたコミュニケーションをして、長くあしなが育英会を支えてくださっている方々を置いて行ってはいけない。シニア層にとってもわかりやすく、さらに若年層からも受け入れられるバランス感が求められます。それがとても難しいテーマでしたね。
今回、Anywhereのメンバーはこの難しいテーマを絶妙なバランスでUI/UXデザインに落とし込んでくれたと思います。

リニューアル後、オンライン寄付やアクセスなど主要なKPIが大幅に改善

一般的に、TOPのメインビジュアルには、大きな画像や動画を配置することが多いですが、今回のサイトの軸は積極的な情報発信と更新性の高い変化のあるサイトを際立たせる観点から、大きなビジュアルを配した魅力的な記事コンテンツをファーストビューとして採用いただきました。

あしなが育英会のテーマカラー「緑色」を基調に優しいイメージのサイトになるように、カラーデザインを行いました。
また、アフリカ支援事業にも力をいれており、インターナショナルサイトまで含めたデザインの統一感も重視されていました。

あしなが育英会マーケティング部マネージャーで、グローバルサイトの担当責任者であるGabrieleさんは、このように話されています。

あしなが育英会が定めたブランドガイドがあるため、デザイナーにとっては自由度が制限され、難しかったのではないかと思います。
また、アフリカ諸国ではネットワーク環境が整っていないことも多く、重たいサイトだと表示できない場合があります。そういった細かな部分も調整が必要でした。今回のリニューアルは、グローバルな統一ブランディングの第一歩になっていると思います。

佐藤さんは社内担当者にサイトの話をする際、「せっかく素敵なおうちを建てて引っ越したのだから、これからもみんなで掃除をしてきれいに使って、長く愛していこうね」と声をかけているそうです。
これまではなかなかタイムリーにコンテンツが更新できず、古い情報が掲載されたままということもありましたが、リニューアル後は、各部署ごとに更新記事数をランキング化して社内共有することで、社内全体が記事更新に対して積極的に取り組むようになりました。

さらに、サイトリニューアルとともに公式SNSも本格的にスタート。良い記事を書けばサイトトップページに掲載され、公式SNSでも取り上げられ、広く拡散されることでたくさんの支援者の目に触れ、読まれます。
さらに、自分の情報発信がダイレクトに寄付につながるという体験によって、スタッフのモチベーションが向上、コンテンツ制作に自発的に取り組むようになったという嬉しい報告もいただきました。

今回のサイトリニューアルの大きな目的の一つである、オンライン寄付に関わる数値も以下のような効果が現れています。

そのほか、あしなが育英会のプロジェクトメンバー大島さんより、既存支援者の方からも「サイトが見やすくなりましたね」と声をかけられるなど、多くの高評価をいただいているとお伺いしています。

“すべての遺児に教育の機会と心のケアを”という理念と共に。あしなが育英会と目指す未来

「今回のサイトリニューアル、また今後控える様々な取り組みを通して、国内外の方々にもっと寄付を身近に感じてもらいたい、そのためにもあしなが育英会の活動をオープンにし、支援の実感を感じられる情報をお届けしていきたい」という、あしなが育英会のメンバーの思いが込められた本プロジェクト。
プロジェクトスタート時、子どもたちを取り巻く厳しい環境や、悲痛な現実を教えていただく機会があり、携わるメンバーそれぞれが真剣に受け止め、「どうしたらデザインが力になれるのか?」と悩みました。
単に“つらく、悲しい思い”だけをユーザーに伝えたいわけではありません。可哀想な子ども達がいるということを発信するのではなく、彼らが前向きに頑張っている姿を見てほしい。そして、応援してほしい。そういった思いも大切にしながらサイト制作に取り組みました。
このように、わたしたちは、あしなが育英会メンバーからの熱い思いを受けて共感し、プロジェクトに携われることを誇りに思っています。

海外在住者を対象としたあしなが育英会インターナショナルサイトもリニューアルしたので、積極的な情報発信を通してあしなが育英会のアフリカ支援活動の認知を高め、この活動に関心の高い海外の方からの支援をさらに拡大したいと考えています。
これからも、あしなが育英会の理念である“すべての遺児に教育の機会と心のケアを”提供することを目指し、あしなが育英会のデザインパートナーとしてプロジェクトに取り組んでまいります。

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