規模や内容を問わず、プロジェクト運営においてメンバー間の「コンフリクト(意見の衝突)」の発生は避けられないものです。

多くのプロジェクトでは、スコープ・スケジュール・コストなどの制約条件がある中で、成果物の品質を同時に求められます。また、様々な職種を横断して結成されたプロジェクトの場合、異なる作業スタイルを持つメンバーと協働する必要があります。

このようなプロジェクトで必ず発生するコンフリクト(意見の衝突)を、適切にマネジメントする方法を整理してお伝えしたいと思います。

コンフリクトの予防策

コンフリクトは、プロジェクトの事前設計によって減らすことができます。まずは、コンフリクトの予防策を5つご紹介します。

① タックマンモデルを理解する

タックマンモデルとは、アメリカの心理学者であるタックマン(Bruce Wayne Tuckman)が提唱した、チーム育成理論です。タックマンモデルでは、チームが発展する過程を以下の5つのフェーズで表しています。

プロジェクトメンバーのチームワークは一朝一夕で形成されるものではなく、このような過程を経てできあがるものである、という認識を持っておくことはとても重要です。
各フェーズに応じたコミュニケーションをプロジェクトメンバーが意識することで、必要以上のコンフリクトを予防することができます。

② プロジェクトの目的を明確にする

プロジェクトの目的は、プロジェクト内における全ての行動の指針となります。目的が不明確な状態でプロジェクトを進行すると、次のような問題が発生します。

  • プロジェクトにおいて、優先するべきこと・切り捨てるべきことが判断できない
  • 何のためにプロジェクトを行なっているのかが曖昧になり、メンバーのモチベーション低下を引き起こす

このような状態にあると、メンバー間のコンフリクトを招きやすくなります。プロジェクトを開始する際は、なるべく早期に目的を明確にし、メンバー間での共通認識を得るようにしましょう。

③ メンバーの役割・責任範囲を明確にする

プロジェクトメンバーの役割や責任範囲が不明確なプロジェクトは、タスクの遅延や責任転嫁、主体性の低下を引き起こします。
役割や責任範囲を明確化する方法は様々ありますが、ここでは1つのフレームワークをご紹介します。

RACIチャートの優れている点は、プロジェクトにおける重要なアクティビティごとに、プロジェクトメンバー全員の役割・責任範囲を明確にできることです。メンバーは全アクティビティに対して、自分の役割・責任範囲を自覚できるため、それに応じた適切なコミュニケーションを取りやすくなります。

④ 行動規範を明確にする

行動規範とは、プロジェクトにおいて守るべきルール・望ましい行動をまとめた指針のことです。
1つの例として、Googleが定める行動規範の一部をご紹介します。

  • 1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
  • 遅いより速いほうがいい。
  • 「すばらしい」では足りない。

【参照元】Google が掲げる 10 の事実

特に、異なる職種のメンバーが存在するプロジェクトにおいては、このような行動規範を定めることで、良い行動と悪い行動の認識のズレから起きるコンフリクトを予防することができます。

⑤ 定期的にフィードバックを実施しあう

コンフリクトの予防策の最後の1つは、フィードバックの定期実施です。

ここまでの4つの予防策を講じたとしても、コンフリクトが発生する予兆はそこかしこに身を潜めています。気になる発言や行動が見受けられた際は、なるべく早期にその旨を伝えることが望ましいです。

フィードバックの方法は様々ありますが、定期的な1on1ミーティングや、KPTなどの手法を用いた振り返りMTGなどを実施すると、漏れが生じにくく、また双方向にフィードバックを実施しやすくなります。

コンフリクト発生時の対応策

それでもコンフリクトが発生してしまった場合は、どうすれば良いでしょうか。

プロジェクトマネジメントのナレッジがまとめられた「PMBOK」では、次の5つの対応策が示されています。

① 撤退・回避

発生しているコンフリクト状態から身を引き、対応する準備が整うまで、または他の誰かが解消するまで課題を先送りにする。

② 鎮静・適応

意見の異なる部分ではなく、同意できる部分を強調し、相手のニーズに対して立場を認め、調和と関係を維持する。

③ 妥協・和解

関係者全員がある程度は納得できる解決策を模索し、コンフリクトを一時的または部分的に解消する。

④ 強制・指示

相手を犠牲にして自分の観点を押し付ける。単に自分が勝ち、相手が負ける (win-lose)という解決策であり、通常は権力のある地位を利用して緊急事態を解決する。

⑤ 協力・問題解決

異なる観点から複数の視点や洞察を取り込む。一般にコンセンサスとコミットメントにつながる協調性のある姿勢とオープンな対話が求められる。

ここからわかる通り、コンフリクトそのものを「解消する」ことだけが対応策ではありません。
場合によっては、問題を先送りをしたり、関係性の調和をはかることも、円滑なプロジェクト運営には必要です。また、先に紹介したタックマンモデルが示している通り、プロジェクトの経過に伴い時間が解決してくれるケースもあります。

とはいえ、コンフリクトをはらんだ状態でのプロジェクト運営はリスクが伴うため、十分な予防策をとりつつ、発生したコンフリクトに対しては、粘り強く解消に向けて対応してい行くことが望ましいと考えます。

さいごに

プロジェクトという形式だけでなく、複数人で物事を進めていく中で、メンバー間のコンフリクトにストレスを抱えた経験は誰にでもあると思います。

ただ、コンフリクトは思わぬアイディアを創出したり、成果物のクオリティを高めるキッカケとなることがあります。意見の衝突を恐れて、当たり障りのないプロジェクトとなっては本末転倒になりかねません。

コンフリクトを前向きに捉え、正しくマネジメントできることは、素晴らしい価値を創造することに繋がるはずです。コンフリクトで悩んだ際は、ぜひ本記事を参考にしてください。