今回インタビューしたのは、GoodpatchのCreative Design Unitでデザインリードを務める野崎 駿。制作会社で働いていた彼がGoodpatchと出会い、どのようにデザイナーとしてキャリアを作っていったのか。また、デザインリードとして実践するリーダーシップについて、今後取り組みたいデザインについてお話を聞きました。

「デザインされているものが少ない」という違和感

母親が画家、父親がインテリアの販売会社をやっている環境で育ち、振り返るとものづくりが身近にありました。そのせいか昔から身の回りにはデザインされているものが少ないと感じていて、「もっとこうしたら使う人に優しいのにな」と思うことが多かったですね。

大学進学時は美術大学と総合大学を受けたのですが、当時の僕にとってはデザイナー=ビジュアルを作る人という認識があって、自分は絵が得意なわけではないからと総合大学に入学しました。経済学部に進んでからは、マーケティング戦略やファイナンスを学びながら「将来はMBAを取得して、コンサルティングファームに入ろうかな」とぼんやり考えてました。

そんな時、大学の授業で佐藤可士和さんのインタビュー動画を見る機会があったんです。「デザイナー=絵を描く人」という認識が「課題解決をする人」へと大きく変わり、再びデザイナーという職業に対して興味を持つようになりました。元々物事の課題解決をするときにロジックをしっかり立てて解決策を考えていくタイプだったので、自分の特性的にもやりたかったこととしてもフィットしているように感じました。

課題解決型のデザインに興味を持ちはじめてからは、経済学部に通いながら、趣味でイベントの企画などを行っていました。他にクリエイティブを作れる人がいなかったので、独学でフライヤーやフリーペーパー、名刺といった紙媒体のデザインや、イベントページなどのWebデザイン・コーディングをしていたのですが、どうしても納得いくものが作れなくて。「もう少し体系的にデザインを学びたい」と思い、デザインの専門学校へ通い始めました。

1年時にエディトリアルや広告、パッケージデザインなど、いわゆる紙媒体のデザインを学び、2年時にWeb科を選んでからは、インターネットにどっぷり浸る日々が始まりました。インターネットは自分が作ったものがすぐ世の中に出せることがすごく魅力的に感じたんですよね。例えば絵を描いたり、工業製品をデザインするとなると時間がかかりますが、インターネット上ではワンクリックですぐに多くの人の目に触れるようにアップロードできることに強く惹かれ、そのままWebデザインの世界に飛び込みました。

同じ思想を持つ人が集まる環境との出会い

専門学校を卒業して働き始めてから、2社目の話を少ししますね。そこは8人くらいの小さな制作会社で、僕の当時の肩書きはデザイナーでしたが、営業時のヒアリングからWebサイトの実装、企画までとかなり幅広い経験をさせてもらいました。特にエンジニアとのコミュニケーション経験は、今でも活きていると思える経験です。実装コストのかからないインターフェイスの作り方や、Webサイトのパフォーマンスの上げるとどのようなメリットがあるのか、そのためにデザイナーは何ができるのかなどを学びました。

こうして今振り返るといろんな経験ができていたと思えますが、正直、この頃は迷走期でした。実は、僕は高校生の時に発売されたiPhone 3Gに出会って以来Appleが大好きで、プライベートではiOSのアプリケーションをたくさんダウンロードして、インターフェースやアプリアイコンを模写したりしていたんです。当時自分の周りでそんなことに興味を示す人は少なかったのですが、そんな時にたまたまGoodpatch BlogやPodpatchに出会って、衝撃を受けました。デザインに対して本質的に向き合っている人、インターフェイスのデザインが好きな人がこれだけたくさんいるということに感動しましたし、「この会社には自分と近い思想を持った人がたくさんいる」と感じました。

今でも覚えているのは、2013年に出ているDribbbleでフォローしたい、世界トップレベルのUIデザイナー14人という記事です。19才でAppleに入社し、iPhoneやiPad、MacのOS XなどのUIを手がけたMike Matasというデザイナーについて最後に触れていたのを読んで、今まで身の回りには彼のことを知ってる人がいなかったので、かなり驚きました。

同じ思想を持った人たちと一緒に働いてみたいとは思いながらも、当時はWebデザインをメインにやっていてアプリケーションのデザイン経験は少なかったし、僕にとってGoodpatchは輝かしい存在だったので、半ば諦め半分で応募して、面接に行きました。「もし受かったら、修行しよう」という覚悟も持っていましたね。それが2015年のことです。

共創を経験して見えた、ものづくりを支えるチームの形

覚悟を決めて臨んだ面接では、デザイナーやデベロッパー、そして代表の土屋と、ひたすら好きなものについて話しました(笑)。例えば、Tweetbotなどのアプリケーションを作っているTapbotsというチームの話や、MailboxやInstagramのデザインしたTim Van Damme、macOS・iOSアプリの開発をしているPanicという会社について語り合ったことをよく覚えています。Goodpatchのどのメンバーに会うときも「こういう会話ができる人いるんだ」とテンションが上がりましたし、ここに絶対に入りたいという気持ちが強くなりましたね。

実際にGoodpatchに入社してからは、入社して初めて担当したプロジェクトのメンバーもみんなスキルが豊富だったので、自分のスキルがまだ足りてないことが悔しくて、最初はつらい思いもしました。それでも「良いプロダクトを作りたい」という意識は共通していたので、フィードバックも素直に受け止めることができました。

入社してからこれまで、僕はデベロッパーと仕事する機会に恵まれてきました。デベロッパーのみんなと頻繁にコミュニケーションをしていたことで、エンジニアリングを理解した上でインターフェイスを作ることができるようになり、かなり成長できたと思います。Goodpatchの強みのひとつは、デザイナーとデベロッパーが理想と現実の中間に歩み寄ろうとしていることだと思っています。僕もプレイヤーとして手を動かしていたときは、実装コストを意識したUIと、デザイナーのエゴの塊のようなUIの2軸でパターンを出すようにしていて、そこからデベロッパーと一緒にちょうどいい落とし所を探っていました。当時のメンバーやデベロッパーからは、そんな風に理想と現実を行き来することの重要性を教えてもらえたと思います。

印象的だったプロジェクトは二つあります。ひとつは、事業会社に半年ほど常駐していたときのことです。毎日のようにデータを見ながら定量分析をしつつ、ユーザーインタビューやエスノグラフィーで調査で定性分析をしていました。定量・定性の両軸を考慮した上で、どうすればデザインをビジネスとして成り立たせることができるのかに向き合いました。

もうひとつは、0→1でデザイナーとデベロッパーが有志でコンペに出たことがきっかけで始まったプロジェクトでした。UI/UXデザイン、iOS/Android開発、ロゴデザインに加えて、これまでGoodpatchであまり担当することがなかったグロースフェーズまでお手伝いさせてもらい、デザイナーもデベロッパーもPMも、クライアントと意見を交わしながら全員でプロダクトに向き合いました。

チーム間のコミュニケーションの例で言うと、工数×事業インパクトの2軸でエンジニア、PMと一緒にデザイン実装の判断をしたり、Web/iOS/Androidの各プラットフォームにおけるアンチUIパターンの共有をしていました。チーム内に共通言語を多く持つことで、すごく良い共創を生み出せたチームだったと思います。当時のチームとプロセスについては登壇する機会もいただき、チームメンバーでエンジニアリングマネージャーの中谷と「DXEL.4 エンジニアとデザイナーの「協働力」を最大化するには」でもお話しさせてもらいました。

デザインリードとして実践するリーダーシップ

最初にリードになる話を聞いたときは、自分はマネジメント向きのキャラクターではないと思っていたし、正直どうしようかなと思いました。それで少し考える時間をもらって、これまでのGoodpatchでの経験を振り返ってみたんです。

考えてみたら、Goodpatchや世の中には自分が持っていないようなスキルを持った人たちがたくさんいます。自分一人でその人たちに頑張って追いつこうとするよりも、強いスキルを持った個を組み合わせて、パフォーマンスを発揮できる場を用意してあげた方が、良いプロダクトに早くたどり着けるし合理的だと思ったんです。僕自身がデザイナーになってからずっと変わらない軸として、「良いプロダクトを作りたい」ということだけが絶対ブレないものだったので、その手段の1つとしてリードになることを決めました。

Takramさんの「BTCモデル」という考え方があるように、プロダクトを作る際にはビジネス、テクノロジー、クリエイティブという三つの要素がどれも欠かせません。でもそれを全て一人で行うことは難しいはずです。だからこそチームでプロダクト開発を行う際には、専門性を持つメンバーとの共通言語を持つことが重要です。リードになってからも、特定の分野の知識だけではなく、いろんな業界に対して知的好奇心を持ち、様々なインプットをすることを心がけています。インプットの幅が広い分だけ、いろんな観点からプロダクトに切り込むことができると思うので、業界や領域は問わず自分の知識はアップデートし続けています。

僕はクリエイティブディレクターの難波がデザインディレクターを務めるCreative Design Unitで、IA(アーキテクト)チームのデザインリードをしているのですが、僕がリードになったばかりの頃は、まだチームに一体感はありませんでした。それをきっかけにマネジメントの方法に向き合い、従来の一人が全員を引っ張るようなリーダーシップだけではなく、サーバントリーダーシップを実践しています。

サーバントリーダーシップとは簡単に言うと、「まずリーダーが尽くす」形のリーダーシップです。どれだけコミュニケーションを円滑にできるか、どのようにモチベーションをあげるか、メンバーのキャリアパスに沿った環境はどのようなものかなど、リーダーがメンバーの話をしっかり傾聴して引き出してこそ、チーム内のコミュニケーションを活性化し、メンバーのポテンシャルを見抜いて成長を促したり、課題を早期発見することができるのだと思います。

そんなサーバント型を基本として持ちつつ、意思決定が必要なときは自分が前に出て素早くリーダーシップを発揮する使い分けを大切にしています。最終的に何かを決断する、意思決定をするためにも、日頃のインプットやメンバーとのコミュニケーション量と質が判断材料になっているように感じていますね。その後、半年でエンゲージメントスコアが20近く上がったことには僕も驚きましたが、それに甘えず、地道に続けていきたいです。

マネジメントで悩んだときは難波にも相談しますが、全く違う視点からも意見を取り入れられたいので、別のチームのマネージャーにも意見を求めるなど、マネージャー同士の連携も強いことも心強いです。

才能ではなく、チームで成功する

僕たちはチームで働くことをとても大切にしています。今、僕が新しく人を採用するときに重要視していることは「人柄」です。具体的には、今のデザインチームに溶け込めるか、他のメンバーと親和性がありそうか、などです。もちろんスキルセットも大切ですが、「才能」には終わりがありません。成長するチームの中にいて思うのは、どれだけ一緒にいてお互いを理解しパフォーマンスを高め合える仲間かどうか、ということです。それは時には才能よりも重要なことなのではないかと思います。

Goodpatchには「偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる」という言葉があります。一人が引っ張っていくだけではなく、それぞれの個性やスキルがうまくかみ合っているチームの方が、良いプロダクトを作ることができると信じています。

文化とプロダクト両軸で社会にアプローチする

今後はGoodpatchで、より幅広い領域のデザインに取り組めるプロジェクトを増やしていきたいです。
アプリケーションやWebだけではなく、空間やハードウェアなどの新しい領域にも取り組んでいきたいと思っています。最近ではOOUIの思想を体験するワークショップや、デザイン組織の構築支援なども初めているところです。

Goodpatchが取り組んでいるデザインを文化として醸成したり、越境して良いプロダクトを作ることで、多くの人にとって住みやすく、より良い社会をデザインしていけると思っています。


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