なぜ今、FinTechにUXデザインが求められているのか?

Goodpatchでは4月よりFinTech領域へのUX/UIデザインの技術提供を強化しており、多くの期待の声が寄せられています。
また、海外では次々とデザイナーが金融業界へキャリアチェンジをしたり、金融業界がデザインファームを買収したりと、業界がこぞってデザインに関心を持ち始めています。

この記事ではこれらの動向を踏まえ、「なぜ今、金融業界にデザインが求められているのか」を私なりに解明します。優れたデザインを取り入れたことで、市場価値が飛躍的に増したプロダクトを事例にしています。日本の金融業界でこれからイノベーションを起こそうとしている人々に、よりデザインの価値を伝えることができたら幸いです。

金融業界にデザインが必要な理由

なぜ今、金融業界にデザインが求められているのでしょうか?
私の総論は機能だけはなく、付加価値への欲求が高まっているからです。

金融業界は、自ずと知れた伝統的法案に基づいたサービスを提供している業界の1つです。しかしここ数年、かつてないほどに他業種の技術の進展に圧をかけられ、金融業界は自社ウェブサイトやATM、モバイルアプリのUXをIoTや生体認証を取り入れながら磨きはじめました。

また機能面や表層的なデザインだけではなく、これまでにも増して「優れたUX」をユーザーに提供することが重要視されています。優れたUXとは、ユーザーが気持ちよく目的を達成できるように誘導する状態のことを指します。

テキサス州のデザインファームFrog Design Inc.のクリエイティブディレクターであるDrew Miller氏は、「ユーザーは決して長いスプレッドシートで今までの履歴を知りたいわけではありません。彼らは誰かがその見づらいデータを『見る価値のあるもの』に変えてくれることを願っているのです」と言いました。

このように、特に欧米の金融業界ではすでに金融サービスは「決済手段や資産管理としての役割を果たすだけでは物足りないモノ」となっているのです。お金という生活する上で欠かせないモノの使い方を決める際に、良質なUXデザインでユーザーの意思決定をサポートすることは非常に重要とされています。

(参考記事:Why Design Matters More than Ever in Digital Banking

具体例

デザインが優れている、海外のFinTechサービス5選(欧米編)でも取り上げたいくつかのサービスを例に、それらがどのようにデザインを強化し、金融サービスのUXを向上しているのか見ていきましょう。

Monese

英国発のオンラインバンキングMoneseでは、2016年6月にプロダクトをリニューアルするにあたり、ロゴやトンマナの制作に幾度もプロトタイピングを重ねています。
初めはモバイルオンリーバンクとしてユーザーに最新の体験を提供しようと試みていたものの、ユーザーからのフィードバックをもとに分析したMoneseの問題点は以下のようなものでした。

<リニューアル前のデザイン>
・ロゴが少し子供っぽいので信頼性に欠ける
・フォントが他のスタートアップ事業も多用しているもので独自性に欠ける
・四角と角丸が入り混じった統一性に欠けるデザイン
・コントラストである赤色を多用しているためエラーメッセージを認識できないデザイン

 

これらに対する対策を打つために、Moneseのデザインチームは真摯に問題に向き合いました。彼らのミッションは、Moneseのブランドを固有化させ、ユーザーとより強い結びつきを築き上げることでした。

具体的に何をしたかというと、彼らはまずストーリーボードに今達成されていることとこれから目指すべきことを全て書き出しました。目的は「Moneseがどれほどユーザーの生活を豊かにしているか」を解析し、Moneseのバリューを探ることでした。

地道なデザインスプリントを重ね、信頼性を磨いたロゴからよりフレンドリーに感じるカラーパレットまで、デザインを長きに渡り一新しました。そして、ユーザーへ歩み寄ったUXを実現したのです。

<現在のデザイン>
・信頼性があり、ダイナミックなロゴ。角を丸くすることでより人間らしいデザインに。
・2013年に作られた比較的新しいフォントでコンテンポラリーな印象を演出。
・他の金融サービスと差別化できる鮮やかな青、緑、黄色を使ったカラーパレット。
・よりライブリーでフレンドリーにリデザインされたアニメーションとアイコン。

結果、ユーザーは半年(2016年6月から2017年1月)で2万人も伸び、多くのユーザーから喜びの声を聞くことができたそうです。

 

Simple

Simpleは米国発の個人向け資産運用アプリです。自分で設定したゴールに対し、自動でご褒美の貯金ができます。例えば、「雨が降ったら10円貯めて」とAIにお願いすると、次に雨が降った日から自動で10円ずつアプリ内に貯金されていくという仕組みです。

Simpleはもともと、その可愛らしさと簡潔で使いやすいデザインがユーザーから高い評価を得ていました。今回私が着目したのは、彼らが自社ブログで他の金融サービスとは違ったブランディングをしている点です。

Simpleのブログでは、ユーザーがSimpleを利用して得た体験だけでなく、お金の大切さを表した多様なストーリーが発信されています。

ブログに掲載されているストーリーの中から1つ選んでご紹介します。

How Caroline and Vincent Share Money with Simple

CarolineさんとVincentさんは一緒に暮らし始める前からSimpleを使って貯金を始めていました。同棲後は貯めたお金でディナーを楽しんだり、ホームデコレーションをしたり。
Carolineさんは、「同棲をする前から貯金を簡単にできたのはSimpleのおかげ。Simpleで好きなのはSafe-to-Spendという機能。セットしたゴールに対し、常にワンタッチでどのぐらい貯金できているかを確認できるの。自分の目標に対して責任を持てているように感じられるし、全てがプランされている気持ちになれるわ」と話しました。
(参考記事:How Caroline and Vincent Share Money with Simple


他にも、「アイルランドで休暇を過ごすこと」や「私の家を使って稼いだお金で世界を旅すること」など多様な貯金・資産運用にまつわるストーリーが掲載されていました。

こういったストーリーを紹介することで、Simpleがどのようにユーザーに使われているのかを伝えるだけでなく、同じような目的を持ったユーザーの共感を呼び、ユーザー数を増やしています。彼らは顧客へただ製品を届けるのではなく、製品とともに日々のインスピレーションとなるような価値を届けているのですね。

このようにデザインの重要性を認識している金融企業では、製品のUXデザインを多様な面から磨くことで、よりユーザーに気持ちよく目的を達成できる体験を提供しています。

おわりに

金融業界ではここ数年を機に、ユーザーファースト視点で開発されるプロダクトの重要性が増して、今日ではUXはFinTechにとって欠かせないものとなっています。先に述べたように、UXを大切に考えてデザインされたプロダクトは、今日のユーザーが抱える「付加価値への欲求」を満たします。

日本の金融業界にも、UXを提唱する会社が増えつつありますが、未だ多くの可能性が潜んでいるように感じます。今回ご紹介したMoneseやSimpleの戦略は、国内でも十分活かせるものなので、今後このような施策を取り入れることで、日本のFinTech業界がユーザーの共感を呼び起こす、世界で戦っていけるプロダクトを生み出すことを期待しています。

ABOUTこの記事をかいた人

keika

'94年生まれ。中国と日本のハーフで、1歳から18歳までを中国・上海で過ごす。2016年にロンドンで写真・デザインを学ぶ。グッドパッチが注力しているFintechと、国外のデザイン組織情報を中心に発信。
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