私たちは世界に何を残せるのか──そんな問いを背景にグッドパッチでは「MAKE A MARK」というコンセプトをグループ総会で掲げました。

グッドパッチで働くデザイナーたちは、なぜグッドパッチに集い、これから何を残していきたいのか。MAKE A MARKというコンセプトに沿って、各々が胸に秘めた思いに迫るインタビュー企画。第8回はソフトウェアデザイナーの金谷が登場。

学生時代からデザインを探求対象に定めた金谷。グッドパッチではソフトウェアデザイナーとしてデザインシステム浸透や開発並走を数多く経験。最近では生成AI技術に触発された彼女が、それでもなおグラフィックデザインにこだわる理由とは。グラフィックデザインを学び続ける先に残していきたいものを聞きました。

果てなく探求し続けられるのがデザインだった

私は新卒でGoodpatchに入社しています。

もともと、小さい頃からものづくりが好きで。とはいえ、何をやっても人並みな上に情熱を捧げることもありませんでした。小学生の頃に挑戦した漫画も小説も詩も、初めてにしてはうまいね、というレベル。どれもこれも、クラスには既に自分よりも熱量があってうまい人がいたんですよね。入魂できるものが見つからなかった。

大学1年の冬ごろ、転機がありました。あることをきっかけに、Webサイトのコンテンツづくり・コーディング・デザインをまるっとやる機会があったんです。毎晩貪るように勉強しながら、ありのままの衝動でつくるよろこび。小学生の頃からインターネットが大好きだったこともあり、その世界の作る側に回るようなワクワクもありました。そしていざリリースしてみたら周囲からも想像以上に褒めてもらえ、驚くと同時に「デザイン」なら入魂できるのかもしれない、と感じました。

それから大学2、3年生のうちにとにかく経験を積みました。当時は「私は美大ではないがきっとデザイナーになったら人生が楽しくなる、それを叶えるためには手を動かすしかない」ということを考えていたと思います。焦りと危機感も原動力の一つでした。その後の就活では、広告代理店やメーカー、事業会社など「デザイン」「ものづくり」に関わる場所を幅広く見ました。

思い返せば、就活中は自分の思う「意義あるものづくり」の輪郭を捉えたいとどこかで考えていました。ネガティブな言い方をすると、自分が違和感を覚えるものづくりとはなんだろう?というアンテナを張っていましたね。幅広く様々なインターンに参加するうち、その輪郭がぼんやりと見えてきて。情報過多な消費社会の中でも必要なのは、じんわりとまろやかに人々の生活をよくするものづくりだ、と考えがまとまりました。

そんな時、WantedlyでGoodpatchを見つけます。説明会に参加してみると、ビジュアルの細部にもこだわる職人気質な印象を受けました。それでありながらバランス感覚がある不思議な感じ。一番の魅力は、デザイナーに限らずデザインが好きな人がとにかく多いと感じたことでした。

デザインが好きな人がたくさん所属しているということは、果てのないデザインという領域を多方向から探索する人々がいるということ。だから「ここじゃん!」って。Goodpatchよりもビビッとくるところはなかったですね。

あとはオフィスに飾ってあるバリューポスターにも惹かれました。文化も大事にしていることが伝わって。素晴らしいビジュアルをつくるプロフェッショナルたちが、クオリティの高いポスターをデザインし飾っているのがすごくいいなと思ったんです。

入社後は、10周年の全社総会で受賞者に贈る賞状のデザインも自ら手を上げて担当しました。賞に込めるコンセプトや、グラフィックデザイン、印刷方法などもやらせてもらいました。実はこれ、銀色のざらりとした紙にゆらめく青の炎を印刷し、その上に白い不透明インクをつるりとした質感で重ねることで、光が溢れ出ているような奥行きを表現しているんです。ざらつきのバランスや印刷のテストなど、試行錯誤を重ねながら自分の理想を追求する作業は本当に楽しい楽しい日々でした。

青の炎が照らす次の10年へ!Goodpatchの10周年社員総会レポート|Goodpatch Blog グッドパッチブログ

作り手である自分もステークホルダーのひとつ

普段は、デザインパートナー事業でデザイナーをしています。デザインの対象は、UIやソフトウェアをはじめ、プロダクト、グラフィック、組織など様々です。

ようやく最近、自分が大事にする価値観が言語化できてきました。クライアントに寄り添って共感することは不可欠。と同時に、作り手である自分自身もステークホルダーのひとつだと捉えるということです。

自分の中に、このプロダクトに触れたユーザーがこんな状態になったらそれは前進なのではないか、と思うビジョンがあるんです。それを実現したいし、世の中に届けてユーザーに触ってほしい。利己的に思えるかもしれません。

これまで自分が自分がと言ってきましたが、もちろん一人だけでソフトウェアを作り上げることはできません。デザイナーだけでは当たり前にリリースはできませんし、同じデザイナーという肩書きでもメンバーごとに強みが異なってくる。話は少し逸れますが、会社という単位でも一社で大規模なものを作り上げるのはなかなか難しい。

メンバーごとの特質が活きる状態がうれしいので、メンバー個人にも強い興味があります。そのためにチームで動く上で、チームを俯瞰する客観・自分がこうしたいという主観の行き来をしていると思いますね。チーム全体を俯瞰で見てから、より良いプロダクトに向けた自分の動きを決めます。

一人では、世の中を前進させるようなものごとを為せない。歴史に爪痕が残らない。

私はソフトウェアデザインのスペシャリティを期待されていますが、「それしかやらない」というスタンスではありません。チームやプロジェクトがなめらかに前進しそうなことを見つけて、自分にできるのであればやる。整った環境でなかったり大きな不確実性を抱えていても、楽しみ方や乗りこなし方を考えて改善を試みるのは私の長所かなと思っています。

そして、ソフトウェアデザインのスペシャリティを活かす自分自身をも俯瞰で見ています。スペシャリストならばこうである必要がある、というプレッシャーを自分にかけている。何だか大変そうですが、これが私らしさでもあるなと思います。

納得するものを作り続けるために、最新鋭の技術から古来からある原則や歴史まで、知恵を蓄えてアウトプットしていきたいですね。

生成AIとの「向き合い方」が決まった1年

去年は自分にとって大きな出来事がありました。それは Config 2023に現地参加できたこと。Config は、Figma が主催するデザインカンファレンスで、サンフランシスコで2日間にわたって開催され、業界のプロフェッショナルとの交流や機能発表が実施されます。

体験したことのないクオリティのKeynote、日本から来た他社の方との交流、CPOとの会話、どれも素晴らしい経験でした。その切符を自分のトライによって獲得し、現地でも学び尽くし、後日振り返りの登壇 までやり切れたことは大きな成功体験になりました。

そしてこれは、生成AIについて学ぶひとつの大きなきっかけになりました。生成AIにはビジネスと創造性を前進させる力がある。私が追いかけるテーマの一つになりました。Config の振り返り登壇にも生成AIをトピックに選んだり、社内で小さな勉強会を開いたり、デザインパートナー事業においても生成AI技術を活用したソフトウェアデザインに関わらせてもらいました。

【Config 2023】生成AIセッション振り返り いちデザイナーの危機感と実践|カナタニ

結果、最近は自分のスタンスが落ち着きつつあります。自分が納得するプロダクトを世に出すために最新技術を活用させてもらおう、その中の一つとして生成AIがあるのだ、と。生成AIにできることを学び続け、使いこなせるようにしておく。その上で、ある目的を達成するために生成AIが使えるんじゃない?といった提案をしていきたい。その順番の方がユーザーにとっても嬉しいと考えています。

自分が“よい”と確信できるグラフィックデザインをつくりたい

会社に入ってから特別悔しかったことが3回あって。それらはすべて、自分として“よい”と思って作ったグラフィックデザインが、他人からの言葉で“よくない”と気づかせてもらった時でした。「しょうもない素人デザインだった」と気づいた瞬間の悔しさ。

私は、美大ではなく一般の大学を卒業しています。心のどこかでデザイン教育を受けていないコンプレックスがあり、これが自分にとって都合の良い言い訳になっているのだと最近気づきました。これではいけない。だから今、もっとグラフィックデザインを学びたい。

モフさん」と呼んでいる先輩がいるんですけど、彼女をすごく尊敬していて。グラフィックデザインからモーション、イラストもどれもかっこいいんです。

グラフィックデザインは最新技術ではないし、これまでの歴史がある。ずっと完璧にやれる日は来ないと思うんです。ひとくちにグラフィックデザインと言っても、らしさの言語化、コンセプト策定、思い描くものをつくる力、印刷技術…が必要。だからこそ、コツコツと生涯やり続けられる。こんなこと言いつつ全然まだまだなんですけどね。でも、今の私には健康な体があって、家族も健康。帰ると安心する暖かい家もある。なのに、なぜやらないのか。やらない理由はないですよね。

グラフィックデザインが大好きになったきっかけの一つに、亀倉雄策というデザイナーがいます。私は大学では美学美術史を学んでいたのですが、亀倉氏の論文を執筆して卒業しました。

巨匠なので私が語るのは厚かましいんですが、東京五輪のロゴマークやポスター、NTTのロゴマークなど。現代でも多くの人が知っているものを作り出しました。

亀倉雄策|NPO法人建築思考プラットホームPLAT|プラット

去年のDesignship 2023では、亀倉氏にまつわるLTを行う機会をいただきました。

ソフトウェアデザイン史のこれからをつくる | 戦後日本グラフィックデザイン史をヒントに

亀倉氏が生きた時代には、それまで一般的でなく重視されていなかったグラフィックデザイナーという職種が社会で認められるようになりました。彼の作ったグラフィックが戦後のこの国を前進させたし、企業を前進させたし、人々を鼓舞した。そんな時代に彼は晩年、充分歴史に爪痕を残してきたにもかかわらず、ものづくりをし続けたんですよ。そんなところも含めて尊敬しています。

グラフィックのポジティブな力は素晴らしい、と私は信じています。と同時に、グラフィックだけではワークしない状況もダークな側面ももちろんあると理解しています。もしかしたら、じんわりとまろやかに人々の生活をよくするのは、グラフィックよりもソフトウェアなのかもしれません。でも、ビジュアル要素がソフトウェアに対して、良い効果をもたらすことも必ずあるはず。

まだまだ実力不足ですが諦めずに鍛錬し、“よい”と確信できるグラフィックをつくりたいです。グラフィックデザインの力を信じているから。