昨今、ほとんどの企業でテーマとなっている「DX」。業務にデジタル技術を生かしたり、新たなサービスや事業を考えたり。取り組みたいのは山々だけど、推進する人材がいない──そんな悩みを抱える企業は少なくないでしょう。

グッドパッチでは、顧客の視点に立った事業企画を学び、サービス企画の知識の習得と実践が行える「DX人材育成プログラム」を、体験型のワークショップとしてさまざまな企業で行っています。

先日、グッドパッチのファシリテーション&コーチングチーム「Marble」が、東急不動産ホールディングス様に対し、3日間でDX人材育成プログラムを実施しました。グループ会社の垣根を超えてワークショップに参加いただいた4社4名にワークショップを通じて、どういったことが学べたのかをお話しいただきました。

DXを学ぶだけでなく、社内の人のつながりも育む

東急不動産ホールディングス株式会社様では、デジタルの知見をビジネスに生かし、プロジェクトを主体的に推進する「ブリッジパーソン」を、DX推進人財のモデルとして定義されています。

このブリッジパーソンには、データやデジタルツールを扱えるだけでなく、場合によってはグループを横断した形で「顧客志向でのサービス」を生み出すことが期待されています。

ブリッジパーソンの定義(出典:東急不動産ホールディングス 2023 DXレポート

本研修では、グループ各社の現場の最前線にいるメンバーが、顧客を意識した「サービスデザイン」を実践できるように、「デザイン」のプロセスやマインドセットを仲間と共に学ぶワークショップの場として設計が必要となりました。

これまでもデザイン思考の研修は実践されていたそうですが、主に知識のインプットが多く体験型のプログラムは少なかったとのこと。手と頭を動かし、仲間との対話を通じてアウトプットをしていく中で、頭の中だけの理解を超えた気付きや学びが得られるよう意識しています。研修は、以下の3つのワークをそれぞれ1日で実施する計3日間での活動となりました。

Day1:デザインプロセスWS

  • デザイン思考やデザインのプロセス全体に触れる
  • UX視点を取り入れ、実行のイメージを掴む(持ち帰る)

Day2:プロジェクトデザインWS

  • プロジェクト設計・推進のポイントを掴む
  • プロジェクトの推進に役立つ観点や示唆を得る

Day3:リサーチWS

  • 現場における課題やニーズの発見と深堀りのポイントを掴む
  • 自身が向き合うプロジェクトや、現場での活用イメージを掴む

研修の様子

3日間の「グループ横断PJに携わるブリッジパーソンの育成プロジェクト」として、特に意識していたことは「つながりを作る」こと。事業領域が多岐にわたる参加者同士をどう繋げるか、研修でできた良い関係をどのように今後も続くものにしていくか、これが設計・ファシリテーションのポイントとなりました。

参加者の皆様には、グループ各社の多様なメンバーとの協働を通じて、他社の情報を知るだけでなく、継続的に助け合える「関係性(仲間)をつくる対話の活動」として実践いただきました。

ワークショップ後の座談会に参加いただいたのは、会社も年次も異なる4人。3日間の研修を通じてどのようなことが学べたのか。参加メンバーに集まっていただき、ワークショップに参加した感想などを伺いました。

<話し手(写真左から)>
東急リゾーツ&ステイ ステイ企画統括部 事業開発部 原啓太郎さん
東急不動産 都市事業ユニット 渋谷開発本部 プロジェクト推進部 清水良香さん
イーウェル DX推進本部 田中沙紀さん
東急コミュニティー ビル事業本部 増田佑樹さん

研修を受けてから、仕事が楽しくなった

──今回の研修に参加して、印象に残ったことや、学びになったことを教えて下さい。

東急コミュニティー 増田さん:
「サービスで感動を与える」という言葉が印象に残っています。昨年度推進してきた施策の課題ですが、当社の人手不足という背景から、ビル管理の現場業務を効率化し、現場に常駐する要員を少なくして運用するトライアルを実施した際、現場の方々が施策を前向きに捉えてくれず、うまく進まなかったことがありました。

現場の従業員にとって、年休が取りやすくなるなど、働きやすさが上がるというプラス面もありましたが、マイナスに捉えられる部分が多く見えてしまっていたのではないかと反省しています。研修を通じて、何かを変えるときには、感動を与えたり、やってもらうきっかけを作ったりすることが必要なのだと思いました。

──なるほど。自分たちの仕事がなくなってしまうのではないか、と捉えられる可能性もありそうですね。

東急コミュニティー 増田さん:
現場の仕事をなくすことが目的ではないのですが、良くない雰囲気が出てしまっていたと反省しています。私としても「会社のプロジェクトだから」と進めた部分もあったので。しかし、それでは周りの方は協力してくれません。

研修で「ペルソナ作り」を行いましたが、研修の後も現場に入りながら、実際にそれぞれの関係者と会い、話を聞くようにしています。そのおかげもあって、今は本当にいい雰囲気でプロジェクトを進められています。今楽しく仕事ができているのは、Goodpatchさんの研修がきっかけですね。

東急コミュニティー ビル事業本部 増田さん

東急コミュニティー ビル事業本部 増田佑樹さん

──プロジェクトにはどんな影響があったのでしょうか。

東急コミュニティー 増田さん:
例えば、施策の名称自体を変えました。もともとは社内に施策内容が伝わるように、内向きの名称にしていましたが、それを、社外にも内容が伝わりやすい名称にし、施策の中に従業員やビルのユーザーにとってのメリットも明記しました。

人手不足の解消を目指している点は変わりませんが、メンバーが前向きに取り組める雰囲気が生まれてきたと思っています。

普段使わない部分の頭をフル回転したワークショップ

──行ったワークで印象に残っているものはありますか?

東急コミュニティー 増田さん:
インタビューですね。「家族向けのサービスを作るときにどんなことを求められているのか」という設定でワークを行いました。「こういう家族には、どんなコンテンツが刺さるのか」といったことをインタビューしながら、内容を深掘りしていき、その結果を基にサービスを作り上げていったので印象に残っています。

──実際にこういったワークは、仕事にも生きてくるものなのでしょうか。

東急コミュニティー 増田さん:
そうですね。プロジェクトで現場の方たちを巻き込むにあたって、巻き込み方が大事だということも学びました。さまざまな方に話を聞く中で、「この人を巻き込んだら進みやすい」というポイントがある。

今まではみんな同じやり方でやっていたものを、「この人にはこういう進め方がいいかな」「あの人にはこういう内容を話せばよさそうだ」など、人や組織を知ることで、プロジェクトが進みやすくなることがあることを学べたのも大きかったです。

東急不動産 清水さん:
私もインタビューの経験がこれまで一度もなくて、「どうしたら話をうまく引き出せるか」という観点がなかったんです。

聞き方にも、答えの導き方にも種類があり、相手を見て判断することは非常に勉強になりました。今まで「相手の目線に立つ」という言葉は知っていたんですが、全然できていなかったんだなと。ワークでも質問する場面があったのですが、うまく答えを引き出す聞き方はまだまだでした。

東急不動産 プロジェクト推進室 清水さん

東急不動産 都市事業ユニット渋谷開発本部プロジェクト推進部 清水良香さん

──プロジェクトメンバーとの関わり方も変わりそうですね。

東急不動産 清水さん:
そうですね。「プロジェクトマネジメント」のワークも心に残っています。チームメンバーとどうプロジェクトを進めていくか、原点に立ち返るようなワークが非常に多くて。

例えば、チームで「これだけは守ろう」という決めごとを作ること。相手の意見を否定しないとか、挨拶は絶対しようとか、感謝を絶対しようみたいな。当たり前のことなんですけれども、勤続年数が長くなっていくと、当たり前のことを忘れがちで。そういった原点に立ち返れたのも良かったです。

東急リゾーツ&ステイ 原さん:
普段使わない部分の頭をフル回転させた印象が強いですね。スピード感もそうですし、出される課題も普段考えてこなかったところが多かったと思います。ロジカルに進める順番やステップというか、そういった考え方を学べたいい機会でした。

東急リゾーツ&ステイ ステイ企画統括部 事業開発部 原さん

東急リゾーツ&ステイ ステイ企画統括部 事業開発部 原啓太郎さん

──普段使わない部分の頭を使ったというのは、具体的にどんなところなんでしょう?

東急リゾーツ&ステイ 原さん:
例えば「アプリを作る」なんて考えたこともなかったですし、頭でっかちに考えていたんだなと思いました。「DX」を難しく考えすぎていたんです。表現が適切か分かりませんが、今までエベレストぐらいに遠い存在だったものが、富士山ぐらいには下がったかなと(笑)。

東急不動産 清水さん:
私もDXに何となく苦手意識がありました。アプリを作るワークは印象的で、作りたいアプリの構成を紙に書き、それらをスマートフォンで読み込むと、実際に構成が反映された簡易版(もしくは疑似)アプリを作ることができるアプリを教えていただきました。実際にアプリを作って皆さんにプレゼンする機会があって、「こんなに簡単にアプリってできるんだ!」と非常に衝撃を受けました。おかげでDXへの苦手意識がぐっと減ったんです。

圧倒的なアウトプットがあるから、実務につながる

──他にも会社で研修を受けられる機会はあると思いますが、ここが違ったというポイントがあったら教えてください。

東急不動産 清水さん:
圧倒的にアウトプットの量が違いました。研修プログラム自体が、情報のインプット後に、思考とアウトプットを繰り返す構成でしたし、今までの研修は東急不動産ホールディングス内の同期や、近しい年次の社員などとやることが多かったので、既に知ったメンバーとの最低限の会話しかなかったんです。今回は同じホールディングスとはいえ、社外の「はじめまして」の人との研修だったので、コミュニケーション量も増えました。

それから、これまでは受動的に何かを教えてもらうインプット重視のものが多かったのですが、Goodpatchの研修はとにかく発表が多かったです。初めて会った人たちと時間内に成果物を作ってプレゼンしてフィードバックをいただいて。それでどんどん議論が進んでいったので。すごく能動的な研修でしたし、密度が濃かったです。

イーウェル 田中さん:
最近はオンラインでのセミナーばかりだったので、完全にインプットだけで終わっていたんです。清水さんの言う通り、今回はとにかくアウトプットが多かったですね。

あと、Goodpatchの皆さんが圧倒的に明るかったことも印象的でした。部屋に入った瞬間の雰囲気がまず違うんです。テーブルにお菓子が置いてあるし。フランクな空間なんだなと感じて、研修にすごく入りやすかったですし、アイスブレイクで緊張もほぐれました。

イーウェル DX推進本部 田中さん

イーウェル DX推進本部 田中沙紀さん

東急リゾーツ&ステイ 原さん:
正直インプットだけの研修は途中で眠くなったりとか、だらけてしまう部分もあるかと思うのですが、今回の研修はとにかく限られた時間の中で目一杯考え、頭をフル回転させていました。いざ終わってみると心地いい疲れを感じました。

東急コミュニティー 増田さん:
研修後に自分の仕事に生かせる内容がすごく多かった、というのが一番感じていることです。今までの研修ってインプットしてもすぐには使えなかったり、いつの間にか忘れちゃったりみたいなことが多かったんですけど、 今回の研修はすぐに実践してみようって思えるようなものが多かったです。

DXに対する苦手意識を克服し、身近なものに

──皆さん、他にもどんな変化がありましたか?

イーウェル 田中さん:
先ほども話題に挙がりましたが、「DXってこういうふうに進めればいいんだ」と具体的なイメージがついたので、身近に感じられるようになりました。今までは、平社員だし、「自分なんかがやるものじゃない」という思いもあったのですが、1人の社員として、自由に意見を出すのもいいんだなと考えが変わりました。

東急リゾーツ&ステイ 原さん:
グループディスカッションでいろんな意見が出ても、否定はしなくなったことですね。これまで会議などで、自分に都合がいい方向に話を持っていくようなことをした経験もあったので、反省しました。やはり、ポジティブな進め方にした方が、お互いにとっていい結論が出せるんだと。建設的な話をすることを目標にするようになりました。

東急不動産 清水さん:
私の仕事だと、いきなりDXで何かをやるとか、業務の中に落とし込むというのは難しいのですが、私が今できることとして、DX推進部から案内があるような「ChatGPT」のトライアルだとか、会議の文字起こしソフト導入といった募集に参加しようと思っています。デジタル技術の活用に抵抗がなくなったのが大きいですね。

イーウェル 田中さん:
私もDX関連の研修に、以前より積極的に参加してみようと思うようになりました。

──ありがとうございました。もし、同僚の方にこの研修を勧めるとしたら、どういう点をアピールしますか?

イーウェル 田中さん:
めちゃくちゃ頭を使って、新しい気付きが得られることを伝えたいですね。グループワークをする量も多いんですけど、用意された講義資料も、すごくきちんと作りこまれていて。それを実践してみようっていうバランスが良かったと思います。後から資料を見返して、実際の業務に生かせるというのがありがたいです。

東急不動産 清水さん:
ホールディングスのグループ会社の皆さんと研修内でコミュニケーションを取る中で、各社間の情報交換を行い、新たなコネクションを開拓できるのは推したいポイントです。

また、今回の研修は、就職活動のグループディスカッションを思い出すほどにとにかくアウトプットの多い場でした。初めてのメンバーと、初めての内容に触れ、限られた短い時間の中で頭をフル活用しながら、ひたむきにアウトプットを繰り返す機会ってなかなかないので良い経験だと思います。

東急コミュニティー 増田さん:
普段、お客さんとそこまで深くコミュニケーションする機会がないので、オーナーさんが建物をどうしていきたいのか、われわれは建物をどうしていきたいのかがすれ違ってしまう場面もあります。なので、この研修を例えばオーナーさんだったり、テナントさんだったりと一緒に受けることで、どういった建物サービスにしていこうか、どうしたら利便性が上がっていくのか一緒に作り上げることができたら、楽しいだろうなと思いました。

研修で講師を務めた、田中拓也(写真左下)と島田賢一(写真右下)

高いコンテンツ力に満足、実務と接続する「アフターフォロー」も推進したい

参加者の評判が上々だったDX人材育成プログラムですが、研修を企画する「事務局」からはどのように見えていたのでしょうか。東急不動産ホールディングスグループ DX推進部 DX推進グループの木下さんと井上さんにお話を伺いました。

──今回、「DX人材育成プログラム」を東急不動産ホールディングスの研修に導入しようと考えた経緯を教えていただけますか?

東急不動産ホールディングス 木下さん:
DXというとデジタルに注目が集まりがちですが、デジタルやITというのはあくまで手段に過ぎません。「変革」の要素が重要です。今後は、顧客視点でビジネスを変革する力が求められるでしょう。グッドパッチのプログラムは、その観点で私たちのニーズに合致していました。

東急不動産ホールディングス 井上さん:
他社の研修プログラムとも比較しましたが、「サービスデザイン」という分野についてはグッドパッチは実績が多く、コンテンツ力については期待がありました。私たち不動産業の人間にも、分かりやすい形で学べるのではないかと。また、決まったパッケージではなく、ニーズや状況に合わせて体制やプログラムを変えていただける柔軟性についても、選定の際のポイントになりました。

──研修の全日程が終わりましたが、DX人材育成プログラムに対し、どのような印象を抱かれましたか?

東急不動産ホールディングス 井上さん:
コンテンツのクオリティについては、想定通りで満足していますし、個人的には「ファシリテーション」の力に驚きました。ワークショップの雰囲気はよく、終始盛り上がっていましたし、3日間ハードなスケジュールだったにも関わらず、誰も置いていかれることなく楽しんでいたのは印象的でした。

東急不動産ホールディングス 木下さん:
座談会でも話題に上がりましたが、アンケートでも「学んだ内容を業務に生かそう」という前向きな意見が多かったのは、うれしかったですね。他の研修ではそういう意見はそこまで多くはないので。

ワークショップの様子

──「実践的な内容で、業務との親和性が高かった」という意見はありましたね。

東急不動産ホールディングス 木下さん:
業務とのつながりという点では、OJTなど個別化した研修内容にすれば、ある程度担保はできますが、そうすると今度は、広く生かせるスキルなどが学べずに、研修として効果が薄くなってしまう面もある。このトレードオフは悩ましいです。

その点では、研修後に希望者が「アフターフォロー」を受けられるシステムはありがたかったですね。業務での活用にうまく接続してくれた感覚です。

東急不動産ホールディングス 井上さん:
本当はそこまで私たちができるのが理想的なのですが、伴走となるとどうしてもリソースが足りなくなってしまう。その点は今後の課題ですね。

──今回の研修に限らず、今後、DXをテーマとした研修をどのように展開していくか、構想はありますか?

東急不動産ホールディングス 木下さん:
私たちが目標である「ブリッジパーソン」の数を増やすという点は、引き続き取り組んでいきたいと思っています。とはいえ、人数だけが増えてもダメで、最終的には、デジタルを活用した新たな取り組みが増えていかなくてはなりません。他社に遅れないためにも、先ほど触れた通り、今後は実践の機会を支援することに注力していきたいと考えています。

Marbleについて

グッドパッチのファシリテーション&コーチングチーム「Marble」は、ワークショップやコーチングなどを通じて、組織や人の育成・変革を支援しています。

今回のプロジェクトのようなDX人材育成以外にも、新規事業創出支援やチームビルディング(組織活性化)といった個別の課題に対して、フィットするプログラムをご提案いたします。詳しい内容やお問い合わせはこちらからどうぞ。

プロジェクトメンバー

プロジェクトメンバー

※肩書きは2024年3月末日時点となります