仕事や生活の万が一のリスクに備える「保険」。クレジットカード付帯の保険など「実は入っている」保険も多いため、何の保険にも入っていないという方は少ないのではないでしょうか。

一方で、利用者のニーズに合わせて保険商品の複雑化も進んでおり、支払い・請求漏れは年間1.6兆円にも上ると推定されています。

今回、Goodpatchがリニューアルを支援したスマートフォンアプリ「保険簿」は、保険会社や共済の保険を一括管理し、請求漏れを防ぐサービスの一つです。この記事では、本アプリのリニューアルプロジェクトがどのように進んだのかを、事例としてご紹介します。

「保険」の複雑性を理解し、情報を整理──制約の中でユーザー体験を追求

「保険簿」は、株式会社IBが提供するアプリ。保険を適切に管理・把握することで、請求漏れを防げることが特徴です。同社は、保険の請求漏れが年間1.6兆円に上ると推定しており、保険に関する課題解決のためにサービスの開発と改修を続けてきました。

今回のリニューアルプロジェクトは、IBのパートナーである保険会社が、保険の契約者に対してサービスを勧めやすいようにする、という目的の下でスタートしました。

同社は保険簿を「使いやすく、分かりやすい」プロダクトへと成長させるため、以下の観点でパートナーを探しており、Goodpatch Anywhereにお声がけいただきました。

  • デザインに対して表面的なアドバイスをするのではなく、並走してくれる存在であること
  • 自分たちだけでは見えない視点を取り入れながら進めていけること

「保険簿」リニューアルの難しさは、扱う情報の「複雑さ」にあります。本アプリが担うのは、単純な保険管理ではありません。複数の保険会社の情報を取りまとめた上で、請求漏れを防ぐことが目的です。そのためにも、複層的な情報を整理し、デザインに落とし込んでいくという難度の高い作業が必要でした。

また、サービス独自の背景も存在します。例えば、アプリを使い始めてから必要となる(=保険が適用され請求できるようになる)までに時間差が生まれやすいこと。そして、家族をはじめとするメインのユーザー以外が利用するシーンが出てくること。このように、保険というサービスの特性に合わせた情報設計や体験が求められます。

ユーザー自身の情報だけではなく、ユーザーの家族に関する情報など、届けるべき情報も一通りではありません。登録したユーザーだけでなく、その家族など、誰がいつ見ても分かりやすいと感じられるように体験を再構築していきました。

ユーザーの家族など、保険に関係する人は多い一方で、見せるべき情報は細かく異なる

さらに、保険商品に関する情報提示には厳格なガイドラインが定められています。直感的に分かりやすい表現であっても、ガイドラインに抵触するために使用できないというケースも多くあります。正確さ・公正さを遵守しつつ、制約の中でユーザー体験を最大限を追求するための試行錯誤を行いました。

制約が多い中でもユーザー体験を損なわないよう、ていねいな設計を行った

サステナブルなデザインシステムの構築

今回のリニューアルでは、総合的にデザインの完成度を上げるだけでなく、クライアントが自走可能なデザインシステムを開発することも目指しました。

保険簿は複数の保険会社と関わりを持つサービスです。そのため、デザインのトーン&マナーでも「中立的」であることを表現することが重要でした。パートナーである保険会社のブランドイメージと被らないよう配慮しつつ、アクセシビリティにも対応。「保険簿らしさ」を追求しています。

複数の保険会社と関わりがあるため、中立的なトーン&マナーを重視した

コンポーネント単位でデザインシステムを構築したことで、機能追加時などの実装の負荷を減らすことができました。エンジニアとしてプロジェクトに参加された佐伯さんからは、以下のようなコメントをいただいています。

これまで、「保険簿」におけるUIの精度を上げていくことに難しさを感じていました。膨大な情報がある中で、必要なことを簡潔に伝えるにはどうしたらいいのかと悩むことも多かったです。

今回のリニューアルではカラーや要素の定義が明確になったことで、開発チームとの細かいコミュニケーションが取りやすくなったと思います。また、コンポーネントを作り込んでもらったことで、フロントエンド側でも似たようなものを作って進められるようになりました。視認性や操作性も向上したと感じます。

完成したデザインが素晴らしかったので、開発するのは楽しく、やりがいを感じられる時間になりました。

株式会社IB エンジニア 佐伯政男さま

株式会社IB エンジニア 佐伯政男さま

いざという時に使えるサービスへ

保険という商材特有の問題を深く理解し、正確さを大切にしながら理想のUI/UXを追求していく。「正確」なだけでも「分かりやすい」だけでもないデザインに着地できたのは、プロジェクトを並走型で進めていけたことが要因でした。

株式会社IBのCOOであり、「保険簿」のプロダクト責任者でもある原さんは、以下のようにお話しいただいています。

「保険簿」の内部メンバーは強い思いを持って長く関わってきたからこそ、固定観念や思い込みを持っていることもありました。そんな中、自分たちだけでは見えない視点を取り入れながらプロダクトをよくしていきたい、可能性を広げていきたいという思いから今回のプロジェクトがスタートしました。

保険会社の規格は各社で揃っているわけではないので、ソリューションを考える難度は高かったと思います。

プロジェクトでは、密にコミュニケーションを取りながら、社内チームと一緒にやっているような感覚で進められました。そのおかげで、改修プロジェクトが終わった後も開発チームが機能改善に関わることができる仕組みができました。

2024年に入ってすぐに大規模な震災がありましたが、保険は「加入して終わり」ではなく、いつ必要になるか分からない存在です。大変な状況の中で請求漏れが起きないよう、たくさんの人に使ってもらえるアプリにしていきたいと思います。

株式会社IB COO 原沙央梨さま

株式会社IB COO 原沙央梨さま