私たちは世界に何を残せるのか──そんな問いを背景にGoodpatchでは「MAKE A MARK」というコンセプトをグループ総会で掲げました。

グッドパッチで働くデザイナーたちは、なぜグッドパッチに集い、これから何を残していきたいのか。MAKE A MARKというコンセプトに沿って、各々が胸に秘めた思いに迫るインタビュー企画。今回はファシリテーション&コーチングチーム「Marble」でワークショップデザイナー/デザインストラテジストとして働く田中拓也が登場。

NHN Japan(現LINE)でUXデザインに出会い、以来10年以上UXデザイナーとしてキャリアを積んできた田中。そんな彼は現在、ワークショップデザイナーとして「人やチームの可能性」を広げることに向き合っています。

「今の自分を表すとしたら、Awareness(アウェアネス)デザイナー」

彼が考える「アウェアネスデザイナー」とは一体どのような概念なのか。なぜ、その考えに至ったのか。Marbleでの取り組みとともに聞きました。

社会人歴25年、7社を渡り歩いた古豪デザイナーのキャリア

キャリアの話をすると長くなるのですが、1999年に芸術大学を卒業してから、現在のGoodpatchで7社目になります。新卒で入社したのが、大日本印刷の関連会社でした。ウェブディレクターとして、大手企業のウェブサイトを担当していたのですが、窓口としてクライアントの意向をデザイナーやエンジニアに伝えることが段々と大変になってきて。「自分で作れたほうが早いかもしれない」と思い、ウェブデザイナーにジョブチェンジをしました。

その後、アニメーションを作るソフト「Adobe Flash」を扱うフラッシャーとしても仕事をするようになり、クライアントとの折衝から、ものづくりまで一貫して行えるデザイナーになっていきました。

ただ、BtoBの仕事だとなかなかエンドユーザーの顔が見えなかったんですよね。クライアントは満足してくれて、売上にも貢献できていましたが、やっぱりエンドユーザーのためのものづくりがしたいと思って。それで、現在のLINE(当時のNHN Japan)のゲーム事業部にウェブデザイナーとして転職しました。

当時のNHN Japanは「ユーザーではなくお客様」という文化の中でものづくりが行われていたので、お客様がどういう状態になれば喜んでくれるのかをみんなで考えながらサービスを育てていました。

フラッシュチームやフロントエンドチームのリーダーを歴任しているうちに、当時のウェブデザイン室長が韓国の親会社に出向することになり、僕に白羽の矢が立ったんです。そのころは、室長の上に(現在のC Channel代表取締役の)森川亮さんや、(Goodpatchの取締役だった)松岡毅さんがいるような、贅沢な環境で経験を積むことができました。

「黎明期」に出会ったUXデザイン、僕の自信が崩れ去った

それからしばらくした2005年頃に、韓国でUXデザインの重要性が持ち上がり、日本でもUXデザインチームを作る流れになりました。当時日本では、まだ「UXデザイン」という言葉が浸透しておらず、僕自身も「UXデザインとは何か」がよく分かっていませんでした。それで、室長を降りてUXチームに入ることを決めたんです。

正直、その頃の僕は自分が作ったものにすごく自信があったんです。言うなれば「天狗」だったんですね。経験もあったし、デザインのセオリーも理解しているので、ユーザーのこともちゃんと分かっていると思っていた。でも、僕のアウトプットをUXリサーチすると、自分が思い描いていた行動とは、全く違う動きをユーザーがしていることが分かって。

教科書に書いてある論理ではなく、ユーザーの声を聞いて、そこからどういう体験があるべきかを設計する。向き合っているのは「人」なので、本に書いてあること通りに作ってもダメなんだと、衝撃を受けたことでUXデザインにのめり込んでいきました。最終的には、デザイン室長とUXデザインチームの兼務でさまざまなサービスを手掛けました。

そんな矢先に、東日本大震災が起こって。ちょうど娘が生まれた年だったこともあり、自分の娘を主語にして「どうすれば幸せな状態を作れるのか」を考えるきっかけになりました。そこで、オイシックスのデザイン戦略に転職を決めました。その後、グリー、リクルート、mixiを経てGoodpatchに。

Goodpatchに声をかけてもらったときは、正直全然興味がなかったんです。でも、土屋さんと話をしたことがなかったので、本当にカジュアルにただ話をする機会をセッティングしてもらいました。そこで土屋さんから「デザインに真摯に向き合っていますか?」と聞かれて。デザインにとことん向き合う世界を体験してみたいと思ったのが、Goodpatchを選んだ理由です。

自分の役割から染み出すことを厭わない文化がGoodpatchの良さ

Goodpatchは今年で4年目です。はじめはデザインストラテジストとして入社しました。最初の案件で、GoodpatchのUXデザインのやり方を見たときには素直に驚きました。

インハウスデザイナーとして多くの場合、早くアウトプットが見たいという上流の人に対して、「UXとは何か」「なぜUXリサーチが必要なのか」というところから丁寧に伝え、組織を変えるようなことをやってきたので、リサーチからコミットすることを前提にプロジェクトが始まるのを目の当たりにして、いい意味でびっくりしたんです。それはクライアントのGoodpatchに対する信頼の表れなんだと気づけたこともいい経験でした。

そのプロジェクトを通して、Goodpatchのチームの良さも感じることができました。デザインストラテジスト、UXデザイナー、UIデザイナー、エンジニア……とチームメンバーそれぞれが自分たちのセオリーの中で仕事をしていますが、各々のセオリーが組み合わさって、化学反応を起こすのがすごくうまいんです。

もちろんうまくいかない瞬間もありますが、そのたびにちゃんと対話ができる。みんなデザインに対して持っている真摯な思いは共通しているので、ぶつかることがあっても対話で解決ができるんです。自分の役割だけに閉じずに、染み出すことを躊躇しない価値観はGoodpatchの良さだと思いますね。

ワークショップを通して、人や組織の可能性を広げる

現在は、クライアントの「人や組織の課題」に寄り添うファシリテーション&コーチングチーム「Marble」に所属しています。ワークショップデザインやファシリテーションを専門スキルと捉え、ワークショップを通して人や組織の可能性を広げることがミッションです。

Marbleでの仕事は、BtoBtoCの感覚があります。僕たちがいて、発注してくださる組織の“事務局”があり、ワークショップの参加者がいる。参加者の方の行動変容をどう促すのかを考え、ワークショップの後に現場がどう変化し、ビジネスに貢献できるのかまでを設計できる面白さがあります。

Goodpatchは「偉大なプロダクトは、偉大なチームから生まれる」という標語が浸透しているので、チームを作るMarbleは、偉大なプロダクトを作るための「文化」を作っていると考えています。「チームというものはなぜ存在するのか」 「なぜ対話が必要なのか」「なぜ多様性が必要なのか」など、当たり前のことを改めて問い直す作業を、パートナーと一緒にやっている感じですね。

当たり前を疑うことって、普段はあまりしないじゃないですか。でも、デザイナーって本質的にはいろんなものに対して「この体験って本当にユーザーのためなのかな」「このデザインが最高なのかな」と、あえて哲学的に疑って、それを基に対話できることがすごく重要だと思います。そうやって頭を使うことが「ものづくりの面白さ」の実感に繋がっていくんじゃないでしょうか。AIの時代に求められるのは、「人間だからこそ感じられる面白さ」だと思うので。

人の行動を変える、「気づき」のデザイナーになりたい

Marbleの意味は、いろんな色が混ざっているけれど、混ざりきっていない状態をイメージしています。参加者の方それぞれの価値観や思いが混ざりきるのではなく、染み出して波紋のように広がっていく。その偶然性を楽しんでほしいという願いをこめています。

僕はMarbleをスタートアップだと思っているんです。僕たちだからこそ届けられる価値を考え、Marbleで提供した体験をきっかけにパートナー企業が変わっていくためにはなんでもやりたいと考えています。なので、ワークショップだけにとどまるつもりはないですね。

“スタートアップ”なので、もちろん数字は重要です。売上が立たないと事業は継続できませんから。ただそれは、お客様のことを考え抜いた先にあるものだと思います。(Marbleのワークショップを)「やってよかった」「こんな体験したことがなかった」というような楽しさ、そして面白さをとことん追求する。売上はその後についてくるんじゃないかと。

ウェブデザイナー、UXデザイナー、デザインストラテジストと、その時々で肩書きが変化してきましたが、今自分を表すとしたら「Awareness(アウェアネス)デザイナー」だと思っています。文字通り「Awareness(気づき)」をデザインする人です。

その「気づき」がワークショップであれ、デザインであれ、プロダクトであれ、何でも良くて、人々の気づきを作り、その気づきを掛け合わせることで、可能性の扉を開くことにとことん挑戦してみたいと思っています。

最終的に人の行動変容を促すためには、まずは「気づくこと」が重要です。その気づきは必ずしも大きなものでなくていい。気づきが連鎖することで、人の行動が変わり、チームや組織の文化が変わっていく。僕にとってのデザインは「Awareness」なんです。