私たちは世界に何を残せるのか──そんな問いを背景にGoodpatchでは「MAKE A MARK」というコンセプトをグループ総会で掲げました。

グッドパッチで働くデザイナーたちは、なぜグッドパッチに集い、これから何を残していきたいのか。MAKE A MARKというコンセプトに沿って、各々が胸に秘めた思いに迫るインタビュー企画。今回はクライアントワーク部門を統括する、執行役員の大山翼が登場。

映像プロダクションの現場で感じた違和感や、実家の塗装業を通じて感じた「良い作り手にきちんと還元される仕組み」の重要さ。「デザインの力を証明する」ために、高いクオリティとそれに対する正当な対価を守ることが自分の仕事だと語る大山が、次の10年に成し遂げたいこととは。

一筋縄ではいかない、手探りのキャリア

新卒でUSEN-NEXT HOLDINGSに入社したのは、もう20年も前の話ですね。毎日店舗向けの有線放送の営業や、大型マンションに導入された個人宅向けのブロードバンド回線の営業をするところからキャリアが始まりました。

平日も土日も飛び込み営業をし続ける日々で、半年が経った頃にふと「本当にやりたかった仕事ってなんだろう」と考えて。元々、映像・映画制作の仕事がしたかったこともあり、ポストプロダクションのオムニバスジャパンに転職をしました。CMや映画の編集・MA・VFX業務の営業からプロデュースをメインで行い、多数のCM・映画・PV等の制作に関わる仕事をしていました。

そういった映像クリエイティブの仕事を3年ほど続けていくうちに、キャリアを積み上げていく難しさを感じるようになったんです。当時の映像業界はどうしても映像業界の中でしかキャリアが描きにくいケースが多く、キャリアの幅が限られることに疑問を感じていました。それで、チャンスが多くありそうなデジタル業界に目を向け、ウェブ制作会社に転職しました。

ウェブ制作の仕事を通じてインターネットサービスやデジタルプロダクトに関心が強くなっていったのですが、子どもが生まれたことが転機になりました。仕事中心の生活から、ちゃんと家族との時間も大切にする働き方にしたいと思ったんです。デジタルのサービスを手がけつつ、「生活」もきちんと整えられる環境をはどこだろうと考えた結果、前職であるリクルートに辿り着きました。

家族との時間を大切にしたいと思う大山のインタビュー

リクルートでは広告領域やポイントサービスの新規事業開発、人材事業におけるサービス/プロダクト開発、自分自身での新規事業起案/開発などさまざまなことを経験させてもらいました。そんなとき、グッドパッチからスカウトをもらったんです。「試しに会ってみよう」くらいの感覚で面談に行ったら、そのままとんとん拍子に話が進んで気付いたら入社していました(笑)。

良いもの作りをする人が報われる世界を作りたい

一時期自分がWebデザインをやっていたこともありましたが、得意だという意識は正直ありません。だからこそデザインの重要性を強く感じていました。サービスやプロダクト開発時に、デザイナーやエンジニアと一緒に仕事をする中で、いいデザインであればあるほどそのサービスが多くの人に使ってもらえる実感もあったので、デザインへの興味はずっと持っていたと思います。

ただグッドパッチに入社を決めた理由は別にあるんです。プロダクションに在籍していた当時、制作に携わる方たちの働く環境は過酷でした。長時間労働だけど賃金は低く、また働く人がライフイベントとキャリアを両立させることも難しい環境。それでみんな結局、事業会社などに転職していく。

確かな技術を持ち、いいものを作れるのに経済が回っていない。そういう人たちの社会的な地位や環境を意識的に改善していかないと、日本全体の幸せの総量が増えないんじゃないかと思って。土屋さんも似たような問題意識を持っていることは知っていましたし、グッドパッチならデザインの領域から社会を変えていくことができるのではないかと思ったことが入社の理由です。

入社後しばらくはクライアントワークに入って実際にプロジェクトを動かしていましたが、事業全体を見たときに自分の能力を会社のために最大限活かし、最短で成果を出せるのはマネジメントの仕事だと思い、マネジメントとしてキャリアを築いていく決断をしました。

事業が成長するために必要なものは「型」と「揺らぎ」

現在はクライアントワークの事業マネジメントを担っています。短期的な成果も追いながら、事業や組織が向かう方向の舵取りをすることが仕事です。プロジェクトの最前線から離れたぶん現場の感覚は薄れてしまいましたが、その代わりにメンバーひとりひとりの働きがいや、未来への期待感に寄与できることが今の仕事のやりがいの一つだと思います。

グッドパッチにはいいものを作る人、高い品質でデザインできる人はたくさんいるので、自分の役割はグッドパッチが有する提供価値を社会に対して最大化すること。そのためにはグッドパッチの事を知っていただくこと、ご理解いただくことはもちろんですが、関係を深めることが必要だと考えています。

それは「御用聞き」になるという意味ではなく、自分たちの価値をクライアントに適切に理解してもらいクライアントのビジネスに対して貢献をすることで、その対価をきちんといただくということです。

社会に必要なものと認識されて、なくてはならないものになっていくためには、事業としての成功も必要。そのことを僕は家業から学びました。僕の実家は東京都大田区で塗装業を経営しています。社長である父と従業員の職人さんたちという中小企業であり、トップが仕事を取ってきて仕事で成果を出して、「あの会社は腕が良い」という評価を生み出していかないと、事業が成立しない構造でした。

つくり手の人生と生活を、より豊かに。|Tsubasa Ohyama

幸いうちの実家は技術力を高く評価していただいていたようで、有名な商業ビルやハイブランドの店舗の塗装なども手がけていました。小さな会社だけど、技術力をきちんと売ることで職人さんたちにお給料で還元でき、そうすると優秀な人が集まってくる。その光景を見てきたことは、今の価値観に影響が大きいと思います。

グッドパッチに入社して6年が経ち、デザインを取り巻く環境は大きく変わりました。会社も上場しましたし、規模の大きな企業からのご相談も増え、グッドパッチに求められるものも変化してきている実感があります。

われわれにしか作れないようなデザイン、クリエイティビティを期待してのご依頼ももちろんありますが、それ以上にお客様自身が抱えている事業・組織の課題を解決してくれる、という期待を持って相談をいただくケースが増えてきました。それはグッドパッチの提供するソリューションの先が顧客のビジネスへの貢献を目的としていることの表れだと思っています。

成功確度を高めるという意味で、私たちが提供するのは0から作り上げる「オートクチュール」のようなソリューションだけでなく、「プレタポルテ(高級な既成服)」のようなアプローチも必要だと思っています。「型」がなければ再現性もないし、ビジネスとしてスケールしませんから。

ただ、すべてのプロジェクトが型にはまったものではいけないとも考えています。組織の中には「揺れ幅」が必要なんです。溜まったナレッジを型化して足場を固めつつ、そうじゃない領域を意図的に作っていく。チャレンジできる余白をいかに作れるかが、組織を硬直させないために必要なことだと考えています。

だから、特に新しい領域にはどんどんチャレンジしてほしいなと思います。成功確度が低い物事に取り組んだ経験は必ず生きてくるので。「難しいことを選ぶ意思」が人間らしさかなと思うんです。

組織や社会の「幸せの総量」を増やすことが、僕の仕事

僕、アメフトが大好きなんですよね。よくNFLのドキュメンタリーなどを見ているのですが、選手を見ていると、みんな自身に課す「基準」が本当に高い。これぞプロだなあ……と。

クライアントワークをやっていると、期待値を一定超えられるところに設定してきちんと着地させることが目的になりがちです。でも、僕たちがやるべきことはお客様の期待を大きく超えていくこと。それが高水準なものだったとしても。

そういう「高い目線」を組織全体で持てることが理想だと考えています。人は自分で決めたことしか達成できないので、僕がやるべきことは、メンバーひとりひとりが高い水準で物事を決められるようにアシストすること。そのために日々頭をフル回転させている感じです。

僕自身、マネージャーから執行役員とタイトルが変わっても、根底の部分は変わりません。自分より優秀なメンバーと働きたいと思っていますし、今のポジションに自分よりも適任な人がいればいつでも交代する気持ちでいます。自分だけが幸せになるよりも、組織や社会の幸せの総量が増えるほうが嬉しいじゃないですか。

創業から10年が経って実績も会社のストーリーもできてきた今、それらを土台となるような歴史や伝統にして受け継いでいきながら、新たな発展を作っていけると良いなと思っています。例えば、義務教育にデザインの授業が組み込まれるとか、そういう未来が訪れたときにグッドパッチが先導する存在でいるためには、やっぱり歴史や伝統が必要だと思うんです。

そのために、常にトップを目指す意識が持てる組織でいたいですね。実際に一番になれるかどうかより、「トップを目指し続けるための意識」が高いクオリティや新しいアイデアを生み出すので、その視点を組織に根付かせるためにこれからも奮闘したいと思います。