年が明けて2024年。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?東京でも雪が降るなど寒さが深まり、社内でも体調を崩す方が増えています。読者の皆さまも体調にはお気をつけください。

今年もGoodpatchで話題になったサービスやトレンドをご紹介していきますので、よろしくお願いいたします。今月はAI絡みのテーマを中心に8つのトピックがそろいました。

サービス

個人向け本の要約サービス「Summary ONLINE」がリリース

本の要約サービス、Summary ONLINEのアプリロゴと3種類のアプリ画面

https://www.summary-s.online/

2024年1月1日、Summary社より個人向けの本の要約サービス「Summary ONLINE」がリリースされました。

Summary ONLINEは、ビジネスや自己啓発、テクノロジーや小説まで、さまざまなジャンルの本を1冊あたり約5分で読むことができるサービスです。取り扱われている本は全て、著者及び出版社の許諾を取っており、要約者もちゃんと本を読んだ上で要約をしているそうです。

従来の要約サービスは、企業の福利厚生として導入されているケースが主流で、個人で契約するには高額なものが多くありました。しかし、Summary ONLINEは月額500円で冊数制限もなく個人向けに提供されています。

ユーザーは、要約を読むことによって自身のニーズとのミスマッチを防ぎ、もっと詳しく読みたい場合に本を購入するという購買体験が可能になります。確かに、タイトルや目次を見て購入したものの、「思っていたのと違う」といった印象を受けることはよくありますし、書店で長時間手に取ってみるのも疲れるもの。気になっていた本の要約を購入前に読むことができれば、積読を防ぐことにもつながりそうです。

現在は、300冊以上の本の要約が収録されており、今後も毎月10冊以上が追加収録されるそうです。今後、出版社や著者が本を出版する前に要約を公開し、販促につなげる動きなどが出てくると面白いですね。今後の動向に期待です。

Apple Music Classical、日本での提供開始

3名のバイオリニストが演奏している赤い背景の画像にApple Music Classicalのロゴ

https://support.apple.com/ja-jp/HT213415

2024年1月24日、Apple社は新たな音楽アプリである「Apple Music Classical」の提供を日本でも開始しました。

Apple Music Classicalとは、クラシック曲に特化したサブスクリプション音楽配信アプリで、既存のApple Musicの利用者であれば追加費用なしで利用できます。北米では2023年3月28日に既にリリースされており、Appleが2021年にクラシック音楽配信サービスのPrimephoniを買収して生まれたサービスと言われています。

本アプリの特徴は、豊富な楽曲数、プレイリスト数とクラシックを聴くためにチューニングされたオーディオにあります。楽曲は500万タイトルほどが収録されており、作曲家に関する情報や最適化された検索機能で音楽体験を向上させることも可能です。

多くの音楽配信アプリが、プレイリストや楽曲数、特化ジャンル、レコメンドの精度などで競合優位性を築く中で、クラシック好きというターゲットを絞ったサービスを提供することで付加価値を生み出すApple Music Classical。本サービスをApple Music内の機能としてではなく、アプリとしてリリースすることで、ターゲットへの最適なユーザー体験の提供が実現されています。

既存の音楽配信アプリであるApple Musicの加入者にどのような影響があるのかが非常に気になりますが、もしかしたら今後、ヒップホップ好きやロック好きなど、ターゲットを絞った形で最適な音楽体験を提供することが主流になるかもしれません。

AI

ゲーム配信プラットフォーム最大手Steamが生成AIを素材としたゲームの販売を解禁

STEAMのロゴ

https://steamcommunity.com/groups/steamworks/announcements/detail/3862463747997849619

2024年1月10日、ゲーム配信プラットフォーム最大手のSteamを運営するValve Corporation(以下、Valve)はSteamにおけるAIコンテンツの指針を変更し、あらゆる生成AIコンテンツの使用を認めることを発表しました。

それまでSteamでは生成されたAIコンテンツを使用するゲームは利用できず、2023年6月に発表された声明では「著作権、ポリシーの問題が整理できておらず、ゲームの審査においても生成AIコンテンツを取り扱うことを前提としていないため」とされていました。

今回の指針の変更においては、「数カ月にわたるリサーチの結果、AI技術を利用するゲームの取り扱い方針を変更することになった」としている一方で、「この件に関してはさらに検討が必要だと考えている。実際に提出されるゲームや法整備の環境によっても今回の決定を再検討する可能性がある」とも表明しており、生成AIといういまだにその実態が掴みづらい技術に対して、柔軟に対応していく姿勢を見せています。

Steamはインディーゲームの取り扱い本数が非常に多く、開発環境に限りがある個人のパブリッシャーにとっては今回のニュースは吉報である一方で、いつそのゲームがSteamから削除されてもおかしくないという不安も付きまとっている状態です。

実際に生成AIの法整備に関しては、生成AIの技術を社会に還元していこうとする人たちにとっては大きな関心ごとでありながらも、なかなか議論が着地しない状態にありました。今回のような、規制の緩和と強化の繰り返しの中で実態を掴んでいくような形で少しずつ前進する事案なのだろうと考えさせられます。今後の展開に期待です。

自作チャットAIのGPTsを共有する「GPT Store」が公開 

GPT StoreのPC版とスマホ版のアプリのスクリーンショット

https://openai.com/blog/introducing-the-gpt-store

2024年1月10日、OpenAI社が「GPT Store」を公開しました。GPT Storeとは、自身で作成したチャットAIのGPTsをオープンに公開することができるプラットフォームで、今までX(旧Twitter)などのSNS上でやり取りされていたGPTsをGPT Storeを利用することで、簡単に探し、共有することができるようになりました。

現在、GPT Storeは「ChatGPT Plus」に加入している人が利用できるサービスとなっています。ChatGPT Plusとは、GPT-4が利用できたり、最新のWeb検索情報に基づく回答を作成できたりする有料プラン(月額20ドル)のことで、自身でChatGPTをカスタマイズするGPTsの利用も本プランへの加入が必要になります。

GPT Storeでは、検索の他にリーダーボードがあり、カテゴリ別にランキング化されたGPTsが紹介されています。リーダーボードのカテゴリは、Featured/ Trending/DALL-E(画像生成)/Writing/Productivity/Reseach & Analysis/Programming/Education/Lifestyleがあり、さまざまなカテゴリ別にランキングを見てGPTsを探すことができます。

GPT Storeが公開されたことで、APIを活用して複数のGPTsを組み合わせ、容易にサービスを作れるようになりました。従来は、必要なGPTsを自分でリサーチして得るか、自分でファインチューニングなどを行いGPTを作成する必要がありましたが、GPT Storeの検索機能で他の人が作成したGPTを活用できるようになったことで、GPTの育成コストが大きく下がりました。

生成AIが話題になってからしばらく経ちますが、人々の日常に浸透するサービスやプロダクトでは、生成AIを全面的に活用したものはまだ多くはありません。そうしたサービスでは、ユーザー体験とAIの技術的制約のバランスが非常に重要になってくるため、今後、AIを活用したデザイナーの活躍にも期待ができると考えています。

プロダクト

iPhoneケース一体型の物理キーボード「Clicks for iPhone」発表

黒い服の人がClicks for iPhoneを装着したiPhoneを手前に差し出しているような画像

https://www.clicks.tech/

Clicks Technology社がiPhoneケース一体型の物理キーボード「Clicks for iPhone」を発表しました。Clicks for iPhoneはケース内部にLightningまたはUSB Type-Cの凸端子がついており、iPhoneと接続してキー入力を行うことができます。

スマートフォン画面のキーボードは、言語やキー配列を自由に設定できる一方、キーボードによって画面の領域を狭めてしまったり、ボタンを押す物理的な触覚フィードバックがないため誤タップが発生しやすくなったりといった問題があります。

Clicks for iPhoneによって画面からキーボードの占有範囲が消え、画面を広く使える上、指の感覚によって押す位置を把握できるため、画面を見ずに文字を入力することも可能です。「机の下でケータイを触る高校生」にもなれます。

数カ月にわたって何度も修正を繰り返したどり着いた形とのことで、夜間はバックライトが点灯しキーボードを照らしてくれたり、底部のパススルーポートでケースの上から充電できたり、キーボード裏にレザーのグリップがついていたりと細かい配慮がなされていて、とても使いやすそう。

ガラパゴスケータイからスマートフォンの移行によって消えてしまった「物理キーボードの入力体験」を享受する、新たな選択肢になる予感がしますね!

アプリ不要のモバイルAI端末「rabbit r1」発表

正面からみたオレンジ色のrabbit r1とロゴ

https://www.rabbit.tech/

rabbit inc.は、モバイルAI端末「rabbit r1」を発表しました。rabbit r1は、声で指示を出すことでタスクをこなしてくれるポケットサイズのAIデバイスです。

このデバイスの最大の特徴は「シンプルさ」。トランシーバーのように、ボタンを押してマイクに語りかけるだけでアプリに接続してくれます。スマートフォンとは異なり、適切なアプリを探して選択して操作するという手間は要りません。

体験のシンプルさに加え、見た目も小さな画面といくつかのボタンとカメラがあるだけという洗練されたデザインも特徴です。しかし、オレンジの色味やスクロールホイールからはレトロさと手触り感をも感じます。

このような、声で指示を出すというシンプルな体験と親しみやすい手触り感やレトロな印象は、AIによるアシスタントと親和性が高いように思います。会話をするように発した言葉に、AIが友人のように応答してくれる、こういったインタラクションを体験とビジュアル両面から体現することで、SF作品で出てくるバーチャル上の友人や使用人のような存在になるのではないかと、ワクワクしますね。

現在はアプリとの連携は手動での設定が必要ですが、今後、よりシームレスでシンプルな体験に洗練されていくことが期待されます。

イベント

「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」開催中

蜷川実花の作品

https://tokyonode.jp/sp/eim/

「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」が、2023年12月5日から2024年2月25日までの期間、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーにて開催されています。

写真家、映画監督として活躍する蜷川実花氏が撮り下ろした映像や写真を中心とした展示で、蜷川氏が慶應大学医学部教授でありデータサイエンティストの宮田裕章氏らと結成したクリエイティブチームEiMが立体彫刻や音響を制作し、合計11もの空間作品が「日常の中にある儚い美しさを永遠の存在として昇華する」という蜷川氏の制作姿勢を表現しています。

筆者も足を運び作品を体験しましたが、日常で目を凝らすと見えてくる、耳をすませば聞こえてくるような風景が、どれも美しく色鮮やかに感じられ、何気ない現実も彩りがあることを再認識させてくれました。

特にドーム型の空間いっぱいに映像が映し出される作品、「Flashing before our eyes」はその没入体験が圧巻で、思わず息を呑んでしまいました。こういった視覚や聴覚を利用した没入型の作品やアトラクション、施設などはトレンドにもなっており、アミューズメントパークを中心に活発に取り入れられています。

五感に訴える点でアートや芸術とも親和性が高く、芸術家や作家にとって表現の幅を広げるツールにもなり得ると考えられます。今後、どのように五感に訴える表現や作品が展開されていくのか、注目です。

DESIGN MUSEUM JAPAN フォーラム 2023が開催

様々な形や色の紙をコラージュしたような円形のDESIGN MUSEUM JAPANのロゴ

https://designmuseum.jp/topics/2024/01/05/121 

2024年1月14日と21日に、「DESIGN MUSEUM JAPAN フォーラム 2023」が開催されました。このフォーラムはVol.1とVol.2の2回にわたって、全国各地を訪れたクリエーターが、縄文時代から独自の生活文化を育んできた日本のデザインや、デザインミュージアムの可能性について語るイベントです。

イベントを主催した「DESIGN MUSEUM JAPAN」は、「日本のデザインミュージアム」の実現を目指して展覧会やトークショーなどを展開しているプロジェクトで、NHKの番組「DESIGN MUSEUM JAPAN」でも日本のデザインの宝物をつなげる活動が放送されています。

古くから続いている日常のくらしの中の道具や仕組み、生活習慣に隠れている優れたデザインを発見し、再解釈することで、現在の世界が抱える問題の解決につながるヒントを見つけ出せるかもしれません。日本全体をひとつの大きなミュージアムとして捉えて、その中に潜むデザインを収集しているこのプロジェクトによって、デザインに対する意識も変わっていくのではないでしょうか。

番組は「NHKラーニング」のサイトから視聴できますので、ぜひ一度、デザインの宝物に出会うクリエイターたちの軌跡を観てみてください。