プロトタイピングは、ユーザーに届ける価値をすばやく探求するうえで非常に重要な役割を果たすものです。不確実性の高いプロジェクトにおいて、的確にユーザーのニーズを探り当てるには、プロトタイプによる検証が大きな価値を発揮します。

Goodpatchでは、新規サービスの立ち上げやサービス・プロダクトの改善のご相談も受けております。
【資料ダウンロード】3つのプロトタイプ活用事例を公開中!「事業を加速するプロトタイプガイドブック」

プロトタイピングとは

プロトタイピングとは「試作」を意味する言葉です。

プロトタイピングでは、実際にプロダクト開発を始める前にプロトタイプを作り、機能や操作性、デザインに加えてアイデアの価値を検証していきます。通常、プロダクトの開発前にユーザーに対して完成イメージを伝えるのは困難ですが、プロトタイプを作成すればユーザーにプロダクトのコンセプトや利用イメージを体験を通じて伝えられるのが利点です。

プロトタイプを用いてユーザーから得たフィードバックをもとに、追加すべき機能や改善点を検討しプロダクトに反映できるため、よりユーザーにとって価値のあるかたちへとブラッシュアップすることができます。

ゼロイチ開発における不確実性という課題

無からプロダクトを生み出す、いわゆる新規開発において問題となるのが、それがユーザーにとって価値のあるものかどうかをユーザーに届けるまでは証明しきれないという点です。もしも、ユーザーの抱える課題に対し、プロダクトコンセプトの根底にあるアイデアや仮説が合致していない場合はどうでしょうか。

プロダクト開発は、要件定義、仕様策定、実装、テストと複数のステップを経て進めていくことが一般的です。こうした工程が進めば進むほど、その手戻りのコストは肥大化していきます。仕様策定フェーズであれば、それまでの検討内容を見直したり、実装フェーズであれば修正対応が可能な範囲も限定されるかもしれません。そのためプロジェクトの早い段階で、根底にある不確実性を解消することが重要です。

プロトタイピングを取り入れれば、早いうちにアイデアを体験したり、検証に活用したりできます。このようにして分かったことや検証から得られた結果を積み重ねていくことで、プロダクト開発の推進に生かすことができます。

プロトタイピングのポイント

プロトタイピングを意義あるものにするには、注意すべきいくつかのポイントがあります。

目的を明確にする

プロトタイピングはあくまで検証のために作るものです。プロジェクトを次のステップに進めるためには何を知る必要があるのか、そのためにプロトタイプを用いて何が知りたいのか、こうしたことが曖昧なままではプロトタイピングを実施する意味は薄れるでしょう。前提となる検証目的を明確にし、チーム内でもその意識を共有することが大切です。

小さく失敗する

検証対象のアイデアや機能にボリュームがある場合、それを一度にすべて検証しきろうとしてはスピード感のある検証ができません。これでは、プロトタイピングの試作という本来の側面が失われてしまいます。

このような場合は、価値の確かさに確信が持てない部分、体験のコアにあたる部分だけを切り出して、小さくプロトタイプを作成し、検証することをおすすめします。検証から新たに得られた洞察や、発見した課題を再度プロトタイプに反映し、検証サイクルをすばやく回せるようになります。

時間をかけすぎない

もちろん、小さく失敗するためには時間をかけすぎないことが重要です。小さく切り出したスコープをすばやく作り上げ、必要以上に検証に時間をかけすぎないことはもちろん重要ですし、検証から得た知見を次のアクションに繋げるスピード感も大切です。

代表的なプロトタイプの3つの種類

プロトタイプには複数の種類があります。検証したい内容に合わせてプロトタイプの種類を正しく選択することによって、得られる価値を最大化することができます。

  • ペーパープロトタイプ(スケッチ):画面を紙とペンで描き出したプロトタイプ
  • モックアップ:ProttやFigmaといったプロトタイピングツールを用いて、機能や画面を表す静止画をつなぎ合わせて作成したプロトタイプ
  • テクニカルプロトタイプ:コーディングにより実装して作成し、実際に操作することができるプロトタイプ

ペーパープロトタイプやモックアップといった静的なプロトタイプは、すばやくアイデアをかたちにしてフィードバックへと繋げられることに価値があります。

テクニカルプロトタイプが活用できるシーン

テクニカルプロトタイプは、アイデアをコーディングして実装することで、実際に機能する点が特徴です。紙に描いたものや静止画をつなぎ合わせたモックアップと比較すると、アイデアをもっとも忠実度高く再現することができ、他のプロトタイプでは得られない新たな示唆を得ることができます。

一方で、実装が必要なことから、静的なプロトタイプに比べると時間を要する傾向にあります。

では、テクニカルプロトタイプはどんな場合に使うことができるのでしょうか?
私は静的なプロトタイプでの検証に限界がある場合に有効だと考えています。

サービスの価値が動的な技術要素と関連する場合

アイデアの性質によっては、紙に描いたスケッチやモックアップで検証できない場合があります。例えば以下のようなアイデアです。

  • ユーザー間のリアルタイムなコミュニケーションを扱う
  • 大量のコンテンツをユーザーに提示する
  • GPSや歩数機能など端末のセンサーを活かす

こうした機能は、静的な絵や画像の組み合わせで再現することが難しいものです。テクニカルプロトタイプとして実装することで忠実にアイデアを具現化し、実現性を検証することができます。

日常的にプロトタイプを使い、アイデアの価値を検証したい場合

テクニカルプロトタイプは実際の機能を実現できるため、日常的に利用することが可能です。これにより「机上のモックアップ検証では好印象だったのに、実際にリリースしてみたらまったく違うユーザーの反応が届いた」というケースを避けることができます。

テクニカルプロトタイプを日常的に検証することで「実は生活するなかでアプリを想起する機会がない」「使う気持ちになれない環境要因がある」など、ユーザーの日常に踏み込んだ気づきを得られます。

さらに、静的なプロトタイプでは実現できなかったリアルなコンテンツやコミュニケーションから、よりリアルな行動や感情をユーザーから引き出すこともできます。

テクニカルプロトタイプを取り入れるためのポイント

検証を小さく短く回すために、テクニカルプロトタイプではエンジニアがデザイナーと密に連携することが不可欠です。検証のスコープをどの範囲とするか、実現にかかる時間と検証効果とのバランスについて議論したり、仕様や実現方法をデザイナーとエンジニアの両側面からアイデアを出し合います。

一般的なプロダクト開発のように、作るものが決まってから実装する工程にこだわる必要もありません。時には作れるところから実装し、並走してデザインを検討する、といったことすらあり得ます。なぜなら、プロトタイプはあくまで試作品なので、実装のきれいさや正しさを必要以上に求めるよりも、アイデアの価値や不確実性をすばやく検証して事実に変え、プロジェクトを前進させることに意義があるためです。

こうしたエンジニアとデザイナーが密に連携し、共創できることにテクニカルプロトタイプのひとつの醍醐味があると考えます。

アプリ開発にテクニカルプロトタイプを用いた事例

ここでひとつ実例を挙げます。

あるプロジェクトで「日々簡単に取り組むことができるタスク提示型アプリ」というアイデアが出ました。

アプリを意図通りに毎日使ってもらうことができれば、ユーザーの課題をうまく解決できそうだという手応えがあるアイデアでしたが「そんなに意図した通りに受け入れてもらえるだろうか」という懸念もありました。

  • ユーザーが日常でアプリを思い出す機会があるのか
  • 毎日アプリを起動してくれるのか

Goodpatchでは、こうした懸念を検証するためにテクニカルプロトタイプとして実装することを思いつきました。

静止画の機能イメージをつなぎ合わせ、ユーザーに触ってもらう検証方法も考えられましたが、モックアップは実際には機能しないため、日々の生活へ持ち出せないという制限がありました。そこで、元々知りたい「日常の中で思い浮かべるか」「毎日使うか」を検証するために、ひと工夫としてテクニカルプロトタイプを取り入れてみることにしたのです。

検証期間はテクニカルプロトタイプをチームメンバーが生活の中で使い、実際に「思い浮かべるか」「毎日使うか」を身を持って検証してみました。

そして実際に試みた結果、

  • タスク完了のためにアプリを時々は思い出すが、休日は忘れがち
  • アプリの起動頻度は1日のうち夜に1度

といった、静的な画面イメージだけでは想起できない、リアルな気づきを得ることができました。
テクニカルプロトタイピングで得た気づきをもとに開発したアプリは、結果的にユーザーに受け入れられ、高い継続率を得ることができました。

このように「日常生活のなかで使うこと」に価値があるアイデアは、テクニカルプロトタイプという手法をとることで、仮説に対する解像度をより高め、プロジェクトを次のステップに推し進める洞察を得ることができるのです。

まとめ

プロトタイピングはアイデアをかたちにすることで、アイデアの価値検証を効果的に行う手法です。さらに実装することでアイデアをより具体化したテクニカルプロトタイプによって、より踏み込んだ価値検証が可能となります。

グッドパッチはプロトタイピングを通じ、課題解決や価値の探索を積極的に行い、不確実性の高い課題に対しても着実にソリューションへと導くデザインプロセスとエンジニアリングを提供します。
実現可能性、拡張性を考慮したサービス、ソフトウェアづくりをしたい方はぜひお声がけください。

また、Goodpatch Tech Blogでは、私たちエンジニアが試してみた技術や、トレンドについて発信しています。こちらもよろしければご覧ください。

Goodpatchでは、新規サービスの立ち上げやサービス・プロダクトの改善のご相談も受けております。
【資料ダウンロード】3つのプロトタイプ活用事例を公開中!「事業を加速するプロトタイプガイドブック」