1年3ヶ月描き続けて考えるグラフィックレコーディングのこと

こんにちは!UIデザイナー/グラフィックレコーダーの香林です。
グラフィックレコーディング(以下グラレコ)を始めて1年3ヶ月経ちました。
約60週間で、練習含めて描いた数は600枚以上。日で割ると1日1枚以上描いたことになります。

グッドパッチのUIデザイナーは、日常的にサービス設計の上流工程に関わります。チームメンバーと共に良いプロダクトを生み出すため、創意工夫しながら前に進んでいます。私の場合、そのための武器がグラレコになりました。まったくのゼロから無我夢中でグラフィックレコーダー(以下レコーダー)と名乗るに至った結果、果たして何を得られたのか?それをこの記事で改めて振り返ってみたいと思います。

グラレコとの出会い|始めたのは自分のため

会議がいっこうに進まない、声の大きい人に引っ張られる、参加者のモチベーションが低い…議論の場におけるこのような課題は国内外問わず存在するようです。円滑に会議を行うために、合意形成を促し議論を活性化するファシリテーションの技術が取り入れられてきました。
グラレコとは、そんなファシリテーションの目的を「情報の可視化」によって達成するための手法です。

一方で私がグラレコを始めた理由は「自分が参加している議論を深く理解するため」という、参加者視点の個人的なものでした。グッドパッチ入社当時、会議で飛び交う情報の整理が追いつかず、「このままではいけない!」と思ったのをきっかけに、勉強会に参加したのがはじまりでした。(こっそりデザインの基礎力向上にも期待しつつ)

グラレコは大体の場合、壁に貼った模造紙やホワイトボードを使って描きます。壁面に設置することで参加者の視界に入りやすいようにするためです。自分が理解する為には本来そこまでする必要はないのですが、グラレコとはそういうものだと思ってとりあえず始めてみた、というのが正直なところです。

描き始めてみたら予想以上の手応えだった

自分のために描き始めたにもかかわらず、得られたのは完全に期待以上のものでした。

グラレコを行う際に注力するのは、情報の構造化によって議論を整理することです。とはいえ、聞きながら人の手で描ける量には限界があります。情報の構造化とは、一言一句漏らさず描き残すのではなく、話の要点を拾いながら内容を自分なりに編集していくイメージです。
ところが言うは易し、やり方は手探り状態でした。しかし、いざ始まるとリアルタイムで進行するグラレコに悩んでいる暇はありません。緊張で汗だくになりながら描いてみると、描かなかった時よりも会議の進行が明らかにスムーズになっていることに気が付きました。

その理由を考えた時に、次のような考えに思い至りました。

情報を目に見える形で整理していくと、その場で参加者同士の認識のずれを確認しながら過去と現状の理解が出来ます。すると今欠けている視点や求められる視点が少しづつ見えてきて、議論が進み始める。それが「情報の可視化によって議論を活性化する」という、本来のグラレコの役割につながる結果になったのではないかと。

グラレコを始めてすぐに、それを見ていた参加者から「こちらでも描いてほしい」という依頼が来るようになりました。グラレコの可能性や必要性を肌で感じてもらえたのだと、自分のために始めたつもりのグラレコが、参加者にも影響を及ぼしたことが強烈な成功体験になりました。

描き方は、場の目的の数だけある

グラレコの大前提は、場の目的に応じて最適な形で描くことです。
場の目的にはどんなものがあるでしょうか。さらに、目的に合わせた形とは?
これまで私が描いた事例を分類して、グラレコの描き分けの例をご紹介します。

1.情報共有が目的の場合

構造化に注力し、見やすく理解しやすい画面作りによって、情報の不均等を解決する。

2.アイデアの発散が目的の場合

意見や状況を反射的に描き留めて、化学反応が起こりやすい場を作る。きれいさは二の次。

3.場の一体感を高めることが目的の場合

参加者の似顔絵や発言、場の雰囲気を主に描き、後からその時の様子を振り返れるようにする。付箋を貼ってもらうなど参加型にすることもある。

4.情報発信が目的の場合

第三者が見ても分かりやすい概要と目を惹くような装飾や色使いで、興味をもってもらえるきっかけを作る。


このように、一口にグラレコと言っても毎回同じではなく、その場に応じた効果的な描き方を常に模索しています。予想外の進行時には柔軟な対応も必要です。

以前、描く形式を予め決めて描いた方がやりやすいのではないか、と考えたことがあります。しかし、全然思った通りにいきませんでした。議論もプレゼンテーションも、場の空気次第でどんどん形が変わるものです。それを予測する方が無理なので、今はきっちりとフォーマットを決めることをやめました。

成り行きに任せてみたことで、その瞬間を最適に描くことに集中出来るようになりました。では、最適に描くのは「何」でしょうか?場の目的に合わせるだけでは、その場限りの満足を作ることで消耗してしまいかねません。珍しがられて褒められてそれで終わり、では自分自身に何が残るでしょう。

“私”が描く目的は

グラレコ自体は目的ではなく、目的達成のための手段です。

「一度描くのやめてみたら?」と、株式会社しごと総合研究所様主催のグラフィックファシリテーション練習会でフィードバックを受けたことがあります。周囲の反応に浮かれて、いつしか描くこと自体が目的に成り代わっていたことを見事に見透かされたのです。描くのをやめるという発想自体がショッキングでしたし、それまで順調だと感じていたものが実はそうでなかったことに打ちのめされました。

しかしその言葉は同時に、「あなたの目的は何?」という問いかけでもありました。

しばらくペンを置こうかと本気で悩みながら、そもそもの自分の状況を見つめ直してみることにしました。私の本業はUIデザイナーで、一番注力したいことは素晴らしいプロダクトを作ることです。そのために、プロジェクトチーム内の目線を揃え、自分自身がこれから作り上げるものを深く理解した上でUIデザインをする。これこそが私がグラレコで達成すべきことであると、ようやく気が付きました。

このことが誰にとっても正解であるとは思いません。人それぞれ描く目的が異なって当たり前なので、あくまで一例として受け取って下さい。自身の得意分野や持ち味を活かして何を描きたいか、そしてグラレコを使って何を成し遂げたいかが、その人ならではのグラレコを作り出すのだと思います。さらには、場の目的と空気、レコーダーの目的が掛け合わさることで、その場ならではのグラレコが生まれるのではないでしょうか。

ただ描くだけで終わりじゃない

グラレコによって得られる成果は描かれたアウトプットだけではありません。話される内容はもちろんのこと、発言者の意図を理解しながら描くことで、知識が広がり深まります。描き終えてから「もっと伝わりやすい表現があったのでは」とよく思い返すのですが、一発勝負の緊張感やそういう悩みが刺激になって、凝縮した学びを得られるのだと感じています。

レコーダーは基本一人ですが、参加者の一人でもあります。レコーダーが議論に介入することで直接的なファシリテーションの効果も期待できます。相乗効果を生み出しながら全員で良い議論を作っていく姿勢が、良いプロダクトづくりにつながるはず。そう信じて、携わるプロジェクトでは積極的にグラレコを取り入れる他、社内で定期的に情報共有を行っています。

グラレコがもたらす効果とは

これまで沢山のフィードバックを頂いてきて、参加者視点でのグラレコの利点や効果が体感的に明らかになってきました。グラレコにはどんな効果があるの?と問われた時、私だったらこのように答えます。

1.アイスブレイク

場の緊張感をほどき、チームビルディングを促進する。また、イベント参加者の一体感を向上することが出来る。似顔絵があると更に自分ごと化してもらいやすくなる。

2.効率的な合意形成

交わされる情報が描き出されることで認識のずれを素早く発見できる。目に見える形での着実な合意形成によって、手戻りのリスクを減らすことにもつながる。議論が空中戦でなくなる。

3.振り返らせる力

図やイラストがあることでとっつきやすい印象が生まれ、閲覧のハードルが下がる。強弱があるため文字だけの議事録に比べて必要な情報を見つけやすい。


議論を可視化することによって、言葉だけのやり取りよりも密度の高いコミュニケーションが可能になり、会議の効果が最大化されているように感じます。

個人的にレコーダーの視点で実感した効果は、物事に取り組む姿勢の変化です。未知の領域に恐れず踏み込む度胸とそれを支える自信が身に付きました。逆に、グラレコをするということで新しい領域に踏み込む理由が出来たとも言えます。

グッドパッチでは「まずやってみる」ことを大切にしています。私のグラレコへの挑戦を受け入れ応援してくれたことで、今に至ることができました。引き続き社内外でグラレコの可能性を探っていきたいと思います。今後も色々な切り口で、グラレコ情報やグッドパッチのグラレコ活動の様子を発信していきますので、お楽しみに!

ABOUTこの記事をかいた人

香林望

UI Designer/Graphic Recorder 上智大学文学部ドイツ文学科、桑沢デザイン研究所卒業。2016年1月にグッドパッチにジョインし、モバイルアプリ・WebサービスのUIデザインやワークショップの設計に従事。デザイナーの感性を活かしながらグラフィックレコーダーとして議論や発表などをリアルタイムに描き出し、社内外で活動中。プロセスの可視化を通じてユーザーと開発チームをつなぐごとに注力している。