デザインが以前よりもビジネスの世界において重要視されるようになった今日において「デザインって売上に関係あるの?」という質問が頻繁に交わされるようになったのではないでしょうか。

今回は実際に売上の向上につながったリデザイン例を紹介・考察し、売上とデザインの関係を考えたいと思います。

リデザインの成功事例

Meiji The Chocolate

Meijiはこだわりの良質なカカオを使った高級路線のチョコレートを開発し、2014年から初代「The Chocolate」を売り出していました。申し分のない品質の商品ではあったものの、売上は伸び悩み、発売1年でリニューアルチームが結成される結果になりました。初代のパッケージでは文字やカカオの写真を配置し、質の良いカカオを使っていることを伝えたかったものの、消費者には見た目としてのカカオはあまり認知されておらず商品は「少し高いチョコレート」という受け取られ方をされてしまいました。

リニューアルチームは新しいデザインの目標として「大人の嗜好品としてのチョコレート」と認知してもらえることを掲げました。おやつではなく嗜好品であることが伝わるようにパッケージにはシンプルで手作り感のあるクラフト調の見た目を採用し、上質な情緒感を演出しました。

(Before画像参考: https://news.mynavi.jp/article/20140924-a455/
(After画像参考: http://www.meiji.co.jp/sweets/chocolate/the-chocolate/

チョコレートの形状にはミニブロック、ドーム、ギザギザ、スティックの4種類を採用しました。これによって形や1口の量で味が変わり、同じチョコレートでも違った味を感じることができます。またコンビニやスーパーの売り場ではワインのような味のグラフ解説を載せたPOPを掲載しています。

(画像参考: https://www.meiji.co.jp/sweets/chocolate/the-chocolate/lineup/

これらはただ見た目を取り繕っているわけではなく、種類や食べる場所によって違う味を選べることでユーザーに楽しんでもらうためのこだわりです。楽しんでもらうことで「嗜好品」というコンセプトが伝わるのではないでしょうか

結果として、目標の2倍にもなる3ヶ月で900万個の売上を記録しました。リデザインによってユーザーへの伝わり方が大きく変わり、売上があがった事例だと言えるでしょう。

参考:  http://president.jp/articles/-/21623?page=6
http://blogos.com/article/214083/?p=2

昭和産業 オレインリッチ

昭和産業株式会社ではピュアひまわり油100%を売りにした「オレインリッチ」のパッケージリデザインを行いました。以前は「美味しさ、健康、品質」などをアピールするために数字や文字を多く利用したパッケージでした。新パッケージでは「キッチンやテーブルに置きたくなるかどうか」など、キッチンライフを演出する商品としてリデザインを行いました。

デザインの開発では千葉大学大学院発のベンチャー企業、BBStoneデザイン心理学研究所の支援を得てモニターの視線を追うアイトラッキング装置を利用しました。

「キッチンに置きたいものは?」などのヒアリングを行いないながらパッケージのどの部分に視線が集中しているかを分析したところ、旧パッケージに描かれていたひまわりに視線が集中していることがわかり、新しいパッケージでは大きいひまわりの絵を描きました。(Before画像参考: https://www.novelty-mall.com/product_info_4300.html
(After画像参考: https://www.the-seiyu.com/front/commodity/00000000/4901760433137/

その結果、従来と比べて約3割売上が伸びました。テクノロジーを用いた、今日だからこそできるリデザイン事例ではないでしょうか。

参考: http://business.nikkeibp.co.jp/atclnd/15/259861/051800066/

Airbnb

Airbnbといえばファウンダーの3人のうち2人がデザイナーであり、非常にデザインの重要性を理解している企業の1つです。ユーザーが求めるものを提供できるように日々ユーザーとの対話を行い、リデザインを行っています。ロゴのリデザインなども有名だと思います。

今回紹介したいのはそんなAirbnbが創設されて間もない時期に行った小さなリデザインの事例です。まだ収益が週に200ドル程度しかなかった2009年のAirbnbは約40件ほどあったニューヨークの物件の写真が全く魅力的でないことに気づきます。

データでの検証などを行うより以前に、創設者の3人はニューヨークへ向かい、自分たちでホストの家の写真を綺麗に撮り直しウェブサイトへ掲載しました。結果として、それまでずっと平行線をたどっていた週200ドルほどの売上が急に2倍にも成長しました。

今のAirbnbからは想像もつかない泥臭いリデザイン例ですが、わかりやすくデザインの変更が売上に影響した例でしょう。

参考: http://blog.btrax.com/jp/2014/12/25/airbnb/

SBI証券

SBI証券はGoodpatchがリデザインを手がけた例の1つです。プロジェクトは現在も進行していますが、UXの重要性を理解してもらう必要があったので、プロジェクトの取っ掛かりとして一番短期間で数字にもわかりやすく成果が出るスマホ版Webサイトにおける口座開設導入部の改善から始めました。

以前のwebサイトのデザインは自社メリットの訴求をメインとした「ネット証券会社としての総合力」「口座開設数No.1」「売買代金シェアNo.1」「手数料No.1」など数々の「No.1」や「総合力」を強調したものでした。

しかし新しいデザインの開発の1歩目として、ユーザーヒアリングを行った結果「総合力」や「No.1」というのがユーザーの証券会社選びの基準には当てはまらない可能性が浮上しました。

その仮説を元に開発を進め、1週間×4回のデザインスプリントを経て、最終的には「学びながら始めよう」という構成にし、以前よりぐっと簡潔なデザインにしました。

結果としては口座開設率が2%上がりました。今後さらにユーザーのニーズを満たしたWebサイトになっていくのに期待です。

参考: https://t.co/UBdVGPUXqf?amp=1

アサヒスーパードライ

アサヒビール株式会社には1984年に年間出荷量で史上最低の市場シェア9.9%となっていた時代があります。そんな業績の悪化から企業理念として「消費者が求める商品を提供する」ことを掲げ、約5000人にも及ぶユーザーインタビューを行いました。その結果、当時の業界の常識であった「重くて苦いビール」とは真逆ともいえる「すっきりした爽快なビール」がユーザーのニーズであることがわかり、味のコンセプトを「辛口・生ビール」としたアサヒスーパードライを開発しました。コンセプトを忠実にユーザーに届けるために名前に「スーパードライ」を採用したり、パッケージもメタリックシルバーに黒のデザインにしました。発売後は3年で20億本の売上を超える商品となりました。

今ではビールの常識は「すっきり」や「爽快」に変わってしまったように感じます。ニーズを的確に捉え、ユーザーを中心としたリデザインを行うことで、業界の常識すらも変えてしまう大ヒット商品が生まれた例です。

参考: https://www.asahibeer.co.jp/superdry/philosophy/#/philosophy_05/
http://melma.com/backnumber_97432_2378194/

ユニバーサルスタジオジャパン

森岡毅さん著書の「なぜUSJのジェットコースターは後ろ向きに走ったのか?」でも有名なユニバーサルスタジオジャパンのV字回復もUXのリデザインによるものだと言えるでしょう。

この回復をもたらした最も大きなリデザインは「映画にこだわったテーマパーク」であったパークのブランドを「世界最高をお届けする」に再定義したことです。提供するUXの方向性を変えたことでそれまでは実現するはずのなかったワンピース、モンスターハンターとのコラボレーションやゾンビがパーク内を闊歩するホラーナイトをユーザーに提供することができ、業績回復の礎になりました。

他にも「世界一のクリスマスツリー」「The Wizarding World of Harry Potter」など成功を収めたコンテンツはたくさんあるのですが、すべてのコンテンツにおいてリアルさや規模など「世界最高」の経験をユーザーに提供できているか?という点に非常にこだわって作られています。

結果として、2010年から2013年までの3年で入場者数は約1.5倍にまで伸び、それ以降は最高入場者数を更新しています。

一見秀逸なアイディアを何度も実現することで業績の回復に成功した事例のようにも見えますが、そのアイディアから生み出されたそれぞれのコンテンツは「世界最高」というUXを実現するためのUIなのです。パッケージやロゴなどわかりやすく目に見えているものの変更とは違うリデザインの事例です。

参考: USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?

何が売上を伸ばすのか?

実は今回紹介したすべての事例には「ユーザーの体験が向上した結果売上が伸びた」という共通項があります。

最終的な目的は「売上を伸ばすこと」であるものの、その1つ前の段階として「ユーザーの体験を向上させる」というステップが存在しているのです。

このユーザー体験の部分を意識せずにただ見た目がおしゃれにしたり、近代的にしただけではユーザーの求めているサービスになることはできず、数字に結びつかない変更になってしまうでしょう。時には逆効果になってしまい、元のデザインに戻すなんてことが起ってしまう可能性もあります。

ユーザーの体験を向上するためには?

ユーザーの体験の質が低い原因には2つのパターンが存在しています。

① 伝えたいことがうまく伝わっていない

ユーザーに体験してもらいたいものは確かに求められており、目標としているユーザーの設定も間違っていないが、サービスとユーザーとの接点においてなんらかの問題があり、ユーザーに伝えたいものが伝わっていない場合があります。パッケージや広告など視覚的な部分のデザイン変更を行うことで、ユーザーに思い通りの体験を届けることができます。

今回紹介したMeiji The Chocolate、昭和産業 オレインリッチ、SBI証券、Airbnbの例はこちらに該当します。

② サービスの達成したい目標がユーザーに求められていない

①のパターンとは真逆であり、自分たちが伝えたいことはユーザーに伝わっているがそれがそもそも求められていない場合です。ユーザーが求めている体験は何か?を問い直すことや、自分たちのサービスを届けるべきユーザーは誰なのか?を再度考え直す必要があります。

アサヒスーパードライ、USJのリデザインはこちらのパターンに該当します。

まとめ

デザインの変更前と変更後で売上が向上した例を紹介させていただきました。

デザインを新しくすれば売上が上がる!という考えではなく、デザインを変更することでどうユーザーの得る経験を変えるのか?どのようにその変化が売上につながるのか?を考えることで売上を伸ばすことのできるリデザインを行えるのではないでしょうか。