今デザイン界隈でもブームになっている「AI(人工知能)」。トレンドを追いかけていると、便利で効率的でクリエイティブな未来にワクワクする一方、人間らしさやアナログの世界が恋しくなることはありませんか? 

デザインにおいて、「人間らしさ」というのは大切な要素だと思っています。例えば、ユーザーが困ったときにそっと手を差し伸べてくれるような機能。これは便利さや効率だけでは届かない、人間だから、人の優しさがあるから生まれるものでしょう。

私自身、そんな「作り手の『Humanity(人間性)』が感じられる」デザインやソフトウェアが大好きなのですが、その仕掛けの多くは、些細なインタラクションや文言に宿っているもの。意識的に観察しなければ見逃してしまうでしょう。それだけ、ユーザーの意識に融け込んだ体験であるとも言えます。

この記事では、作り手のHumanityが感じられるソフトウェアについて、アプリUIの観点からご紹介します。読んだ後には、いつも使っているアプリの見え方が少し変わるかもしれません。

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Netflixの字幕機能

まずは有名な動画配信サービス「Netflix」のアプリから。動画の視聴中に、音量を0にすると自動的に作品の字幕が表示されます。何かしらの状況で音を消さないといけなくなったユーザーに対し、「字幕つけとくね」と先回りした配慮をしていて、どこか人間らしい優しさを感じます。

 

Paypayの送金画面・支払い画面

キャッシュレス決済アプリ「Paypay」にも人間らしさを感じる工夫があります。例えば、送金機能で誰かにお金を送るつもりが、ついチャット欄に金額を打ち込んでしまった。そんなユーザーのミスを寛容的に察して、「(チャット欄に入力された金額)を送る」というフローティングボタンを出すことで、操作ミスをさりげなく救ってくれます。

また、QRコード決済をする際には、金額を入力して「次へ」を押すと、店員さん向けに文字がくるっと180度回転し、拡大表示されます。この画面は、単なるアプリ対ユーザー間のインタラクションでなく、アプリ・直接ユーザー・間接ユーザーの三者を媒介するインタラクションであるため、他のアプリにはない不思議な挙動にどこか人間らしさを感じます。

 

Google Mapのスクリーンショット付随機能

「Google Map」の画面をスクリーンショットすると、その後「現在地を共有しますか?」というスナックバーが出てきます。ユーザーが表示中の場所を誰かに共有するというユースケースを想定している機能で、「そのスクショ、きっと誰かに送るんだよね?」とアプリに気持ちを読まれた感覚になりました。

 

Filmarksの「Mark!」機能

映画情報アプリの「Filmarks」では、見たい作品を「Clip」したり、鑑賞した作品を「Mark」することができますが、Clip(=見たい)をつけていた作品をMark(=鑑賞済み)すると、自動的にClipのスタンプが外れるようになっています。「もうあなたはこの作品を見たから、見たいリストからは削除しておくよ」というメッセージが伝わってきます。

 

Noteのお礼メッセージ

「Note」に投稿された記事に「スキ」をすると、お礼メッセージが表示されることがあります。スキというアクションに対して、アプリからのフィードバックではなく、記事の筆者自身が書いたメッセージが返ってくるので、見るとほっこりするし人間味を感じます。お礼を期待してスキを押すわけではないからこそサプライズ感がありますし、その気持ちを盛り上げるようなアニメーションの演出も素敵です。

 

Slackの絵文字機能・Slackbotなど

ビジネス用メッセージングアプリの「Slack」は、まさにHumanityのかたまりのようなアプリといえるでしょう。投稿に対して絵文字でリアクションをつけることができ、硬くなりがちなビジネスのコミュニケーションを楽しく盛り上げることができます(GoodpatchのSlackスペースには数えきれないほどのカスタム絵文字が登録されています!)。

また、Slack上でリマインダーや自動メッセージなどを配信する「Slackbot」機能は、メッセージの言葉遣いが非常にフレンドリーで、まるで仲のいい同僚からメッセージが来たかのようにも感じられます。「Slackを使っていると、仕事をしているのにどこか遊んでいるような感覚になる」と弊社代表の土屋も言っています。

 

Pinterestの長押し

画像収集・共有サービス「Pinterest」のアプリでは、見つけた画像を長押しすると3つのアイコンボタンが浮き出てきて、さらにドラッグして指を離すとアクションを実行できます。

Pinterestの主要機能は画像をピンする(=自分のボードに保存する)ことであるため、「いちいちボタンなんか押さないでもピンできるよ、がしがし作業しちゃって」というような頼もしさを感じます。

 

Kindleのタブバー

電子書籍の「Kindle」アプリでは、タブバーの真ん中という特等席に前回読んでいた書籍のサムネイルが表示され、1タップで読書を再開できるようになっています。

起動ごとにタブバーが変化するアプリは非常に珍しいですが、物理世界では読みかけの本をいちいちしまわないので、人間の行動をベースに考えるとこのデザインが適切だと感心しました。とても理にかなった設計である一方、サムネイルが超縮小化された見た目が可愛らしく、愛着も沸いてしまいます。

 

Timepageの「今日に戻る」ボタン

手帳ブランドのMoleskinが作っているカレンダーアプリの「Timepage」では、スクロールで日付を遡ったり先に進んだりすると、今日の地点にワンタップで戻れるボタンが浮き出てきます。アプリ全体の美しさを損なわず、でも「どこからでも今日に戻れるよ」と手を差し伸べる感じの挙動にどこか人間味を感じます。

 

AINZ TULPEのスプラッシュ画面

ドラッグストアの「AINZ TULPE」の会員アプリは、起動時のスプラッシュの下部に会員バーコードが貼り付けられています。通信の問題でアプリが開けなかった時でもしっかりとポイントをつけられる工夫だと思い、見つけたときはすごいと感心しました。利用シーンが鮮明に描けるような、とても人に寄り添ったアイディアだと思います。

 

Sparkのスワイプ分類機能

メールアプリの「Spark」は、スワイプ操作だけでメールを「削除」「ピン留め」「未読」「アーカイブ」に振り分けることができます。スワイプの左右とストロークの長さによって4つもアクションが割り当てられていて、人間の身体性がアプリケーションの中に拡張しているのを感じます。スワイプでフォルダ分けするというインタラクションは、Mailboxというアプリで発明されたそうです。

 

Dispoのカメラ機能

「Dispo」は、インスタントカメラを覗くように小さい画角でしかプレビューできないカメラアプリです。「ばっちり映える写真ではなく、その時のテンションでしか撮れない雑な写真をもっと撮ろう」というコンセプトで、人間味のあるアナログの世界観を美しく表現しています。

 

NewsPicksの記事ページ

ソーシャル経済メディアの「NewsPicks」では、ニュース記事を読む体験とそのニュースに対する意見を読む体験がとても接近しているので、なんとなく人間味を感じながらニュースを読んでいる感覚になります。自分以外の読者を感じながら記事を読むという体験が面白く、他のメディアにはないインタラクションが生まれていると思います。

 

おわりに

いかがでしたか?中には「言われてみればそうだった!」と言葉にできていなかった体験を翻訳できている、そんな記事になっていれば嬉しいです。

具体例からも見て取れるように、良くも悪くもソフトウェアをはじめとする人工物には作り手の思想(=Humanity)が宿ります。今回ご紹介した事例を見ると『使い手の人間性に寄り添った、痒い所に手が届くような体験』があることがお分かりになられたと思います。

Humanityについては、Appleが毎年開催している開発者向けイベントWWDCにて言及されているため、もしHumanityに興味を持たれた方はこちらの視聴もおすすめです。

参考:https://developer.apple.com/videos/play/wwdc2017/802/

昨今、AIをはじめとする革新的な技術が次々と誕生し、効率的にデザインワークを進められるようになっている今だからこそ、ソフトウェア開発に取り組む上で、人間らしさや愛される個性を丁寧に織り込むことが改めて求められるのではないか──。

Goodpatchは「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンを掲げています。私自身、Goodpatchのデザイナーとして、効率だけでない人間らしさやユーザーへの優しさを忘れずにソフトウェアに向き合いたいと感じています。

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