「未経験でも熱量ある人と走りたい」 SBI証券×Goodpatchのデザイン組織構築の道のり

株式会社SBI証券は、SBIグループの証券会社です。Goodpatchは2017年4月よりSBI証券のデザインパートナーとして、サービスの改修やデザイナー採用の支援に取り組んできました。2018年2月にはUXデザイン室が設立され、室長を務める阿部 佳明さんは金融業界におけるデザインの重要性を積極的に発信し続けています。一見デザインとは縁が遠く感じる証券会社ですが、その中にあるデザイン組織はどのようにつくられているのでしょうか。阿部さんと、デザイン組織構築支援を行うGoodpatchマネージャー 長岡にデザイン組織のつくり方を伺いました。

なぜ、SBI証券がデザイン組織をつくるのか

— SBI証券さんとGoodpatchは、デザインスプリントに始まり様々なプロセスを一緒に経験してきました。今、なぜデザイン組織づくりに取り組むのでしょうか。

SBI証券 UXデザイン室長 阿部さん

阿部さん:
SBI証券(以下、SBI)全体にUXを浸透させるために啓蒙活動を始めたものの、うまくいかない期間が2年間くらい続いていました。そんな2017年の春にSBIインベストメントからの出資があったGoodpatchさんと出会って、UXデザイナーやUIデザイナーの方に常駐していただけることになったんです。それをきっかけにGoodpatchさんがFinTech専門チームを組成されるということでGoodpatchさんから3人、僕を入れて4人のデザイン組織ができあがりました。

まずは効果実感のためにスマートフォンのトップページ改修などをスプリントで実施していきました。2018年4月からは新卒で入社した社員も加わり、ちょっとずつメンバーが増えてきました。UXデザイン室の執務スペースは、経営企画や商品開発など会社のコアになる組織と近いところにあるのですが、付箋やホワイトボードを使って議論しているだけでも「あの組織はなんかやってるな」と認識されるようになるんです。そこから社内の雰囲気も少しずつ変わっていきました。

長岡:
最初はSBIさんの中でも感度が高い方たちが集まってくれた感じでしたよね。

阿部さん:
そうですね。UXデザイン室の情報がSBIで拡がっていくうちに、社内で僕と同じような課題を感じていたり、興味を持ってくれた人が数名出てきました。そこで僕から上司に直談判して、UXデザイン室に入ってもらった経緯もあります。徐々にメンバーが増えつつある中で、スプリントを回してインタビューするサイクルは定着してきていました。次のステップとして、知見を貯められる土壌を作らなければと思ったんです。そのためには仲間が必要でした。

デザイン組織のビジョンを届ける採用活動の実践例

長岡:
阿部さんから「本格的にデザイン組織を作っていきたい」とご相談をいただいた時も、ノウハウやナレッジが資産になる時代だからこそ、社内で持つべきですよねというお話をしました。

阿部さん:
社内公募もしたんですが、なかなか集まらなくて。どうやって採用活動していこうかなと思ったときに、長岡さんにダイレクトリクルーティングという手法を薦めてもらいました。

長岡:
これからのデザイン組織には、ダイレクトリクルーティングが必要になってくると思っています。いずれSBIさんの会社内でできるように、ノウハウをインストールしていこうと考えたんです。ダイレクトリクルーティングを体現していたツールがWantedlyだったので、阿部さんに「やってみましょう」と持ちかけ、運用を始めました。

阿部さん:
実際に始めてみると「こんなに来る?」ってくらい応募が来ました。強烈でしたね。

長岡:
すごい来ましたよね(笑)。使う写真や募集要項、メッセージングにはすごくこだわって何度もブラッシュアップしたので、嬉しかったですね。具体的にはこんなことをやりました。

1.デザイン組織の魅力を切り取った写真撮影
事前にロケをしたり、どういうカットがあったら良いか下調べした上で募集要項ページに使用する写真を撮影しました。当日も撮影に1.5時間くらい使って、ある程度コストをかけています。求人を見てくれたユーザーさんが働くイメージを持ちやすいように、ミーティングや休憩中などさまざまなシーンを掲載しました。実際の求人ページで使われています。

実際の求人ページで使われている写真

2.ターゲットに届くメッセージング設計
募集要項に書くメッセージには、ペルソナを設定して、その人に響くような言葉になっているか細部までこだわりました。UXデザイン室というデザイン組織のビジョンを伝えられることが重要だったので、阿部さんがこれまでに発信された記事や、弊社とのお取り組みをまとめた記事のURLを記載して、候補者の方に事前にインプットしていただけるよう工夫しました。その結果、きちんと記事を読んだ上で興味を持って面接に来てくださる方が多かったので、前提の認識が揃った状態で、お互いより具体的なお話ができました。

これまで阿部さんが発信されてきた取り組み

なぜUXは「広告以前」に大切?SBI証券がグッドパッチと挑む経営ゴトとしてのデザイン

グッドパッチ、FinTech領域へのUX/UIデザインの技術提供を強化。

金融サービスを変革するデザインプロセスに迫る!証券×デザインの未来とは?

プロトタイピングとユーザーテストによるSBI証券のサイト改善

未経験でも熱意がある人と、デザイン組織をつくりたい

— 阿部さんが、デザイン組織で一緒に働きたい人とはどんな人ですか。

阿部さん:
まず今回の採用活動では、未経験者も歓迎していることが特徴だと思います。もちろん経験者ならありがたいのですが、UXの知識が少ないとしても、モチベーションが高い方と一緒に働きたいと思っています。「学びたい」という意欲が高くて、自主的にインプットできるような人が理想ですね。「これ不便だからどうにかしたいな」「どうすればいいかな」と積極的に周りを巻き込んで、柔軟に物事を前に進めていけるような人たちと一緒にデザイン組織を作っていきたいです。

長岡:
求人ページには「未経験でもGoodpatchのメンバーがサポートします」とも書きました。サポート体制が整っているところに興味を持って応募してくださる方は多いですね。デザイン組織づくりのパートナーとして、こうした役割を持ててよかったと思います。

阿部さん:
採用って本当に大変だなと思いました。タフじゃないとできない(笑)。

長岡:
1週間で3〜4人と面談していたので、1ヶ月で15人ですもんね。もはや人事の域でした。でも、これからは人事だけに採用を任せていても組織はつくれない時代です。マネージャーやリーダーなどの責任者が、自ら採用にコミットするように変わってきているからこそ、ビジョンや組織の役割も自分ごととして語れたほうがいい。それができるように一緒に取り組みました。

阿部さん:
僕は2年間フリーランスだった経験があるので、客観的な視点で自分の組織を見つめることが多いんです。それもあってUXデザイン室のメンバーにも「SBI証券という会社に対して、UXデザイン室はどんな価値を発揮できるか?」と一歩引いた視点で考えてほしいと思っています。

組織の成長や変化に並走するパートナーシップ

Goodpatchでデザイン組織構築支援を行うマネージャー 長岡

長岡:
組織が徐々に大きくなって成長できているのを近くで見られるので、僕はすごく嬉しくて。

阿部さん:
変化できていますか?僕は当事者だからか、変化にあまり気づかないんですよ。僕の中では目に見える効果や、会社への貢献はまだまだできていないと思っていて。

これからは数字として見える形で成果も出したいので、UXデザイン室にその意識をどう芽生えさせるか。メンバーが成果をあげられる環境をどうやって作るかが課題だと思っています。デザイナーを見た目だけを整えてくれる人たち、という見方もまだ社内にありますしね。もっと時間をかけて、僕自身がUXデザイン室とは何ができるデザイン組織なのかを社内に伝えていく必要があります。

長岡:
新しく入社される方にとっては、阿部さんのような人がいてくれると心強いと思います。阿部さんから責任者としての覚悟が伝わってくるからこそ、UXデザイン室の一員になりたい方が増えてきているんだと思います。自分の組織を大きくしようという想いとか、メンバーの人生を背負わなきゃいけない責任感って、採用を通してじゃないとなかなか得られないものだと思います。そうした意味でも阿部さんはとても貴重な経験をされていますよね。 

阿部さん:
組織に迎え入れる=その人の人生を背負うことなので、最近は社長を見る目が変わりましたね。土屋さん(Goodpatch代表)もすごいなと思います。

— 最後に、デザイン組織として実現したいことをお二人それぞれ教えてください。

阿部さん:
極論を言うと、社員全員がお客様目線でものごとを考えられれば、UXデザイン室っていらないと思うんです。デザインの価値や重要性が本質的には浸透していない今だからこそ、僕たちが伝えていかなければならないなと思います。

お客様の目に触れるものは、SBI証券というブランドをつくる上でとても重要な役割を担っています。だから「デザインは経営ゴト」でなくてはいけないと思っていて、UXデザイン室は経営へのレポーティングもやっていかなければいけません。

あとは小さなプロジェクトにUXデザイン室が積極的に入り込んで、アウトプットを続けていきたいです。直近では開発案件がいくつかあるのですが、大きい案件を抱えすぎると本当に進めたいことに取り組めないという状況は往々にしてあります。
だから「開発が伴わなくてもUXは改善できる。その領域を組織で知恵を絞って取り組んでいこう」とメンバーに話しているところです。例えば、お客様に送る口座開設の書類がちゃんと読みやすいかとか、お客様の体験をよくするすべての部分に関わっていきたいです。目の前にあるどんなに小さなことも、コツコツやっていこうと思います。今までもずっとそうしてきたので。

長岡:
Goodpatchのパートナーシップのあり方として、僕たちが離れても自走できる組織を作ることが目標にあります。そのゴールに向かって、できることはなんでもやっていくつもりです。「自走できるようになったらクライアントからの仕事がなくなるんじゃないか」という見方もあるかもしれませんが、プロジェクトが終わった時にクライアントの社内に何も残らないようでは、本当の意味でGoodpatchのミッションである「デザインの力を証明する」ことはできません。

今後、デザイン思考やデザイン経営などをUXデザイン室にインストールしていく中でも、ナレッジをきちんと貯めたり、人材を育成して、自走できるデザイン組織にしたい。その上で会社や世界にインパクトを与えられる成果が出せるように、パートナーとして頑張っていきたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

Kaori Sugimoto

エディターをしています。デザインをもっと身近に感じてもらえるように、色々なコンテンツをお届けします!
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