Goodpatchは、デザインパートナーとしてプロダクトやサービスだけではなく、デザインに注力する企業の、デザイン組織構築支援も行なっています。
2019年10月より、Goodpatchはラクスル株式会社のデザインパートナーとして、デザイン組織の指針の言語化、採用ブランディングなどをお手伝いしてきました。

今回私たちは、より本質的なデザイン組織支援のために、ラクスルのデザイナー指針の定義と言語化、採用サイトの構築などをお手伝いしました。また、ラクスルのデザイナーのロールモデルを体現するべく、事業へ深く入り込んで折込/ポスティングサービスのリニューアルにも参加。デザインの力を活用し、ビジネスをより推進していくラクスルが考えるデザイナー像と、パートナーとして並走するGoodpatchのスタンスを紐解きます。

ビジネスに向き合うタフなデザイナー像の言語化

ーー 2019年から採用ブランディングなどお手伝いしてきましたが、今回デザイナー指針を定義することになった背景を教えてください。

ラクスル 水島さん(以下水島さん)
2019年10月からGoodpatchさんにジョインしていただいて、ラクスルのプロダクト開発におけるデザイナーの役割や、組織全体におけるデザイン組織のあるべき姿について共通認識が取れていないという課題があると分かりました。

ラクスル株式会社 執行役員CPO 水島さん

デザイナーの守備範囲への認識を揃えるために、まずGoodpatchさんにラクスルの折込/ポスティング事業のリニューアルに入り込んでもらいました。その中で「デザイナーがここまでやるんだ」という姿をハンズオンで見せてもらったんですよね。

國光さんと有田さん(Goodpatchのデザイナー)には、ラクスルの中での理想的な動きを当社のデザイナーの安積と一緒に意識して、事業に入ってもらいたいというリクエストをしました。安積が実践していた動きをうまく取り入れながら、國光さんと有田さん、そして安積を中心にビジネスを意識したデザインをする動きが見えてきたので、このラクスルにおける理想的なデザイナーの動き方を「ラクスルのデザイナーはこんな人です」と外に向けても中に向けても、言語化して伝えていくべきだと思ったんです。それで言語化するプロセス設計と実行を、安積とGoodpatchのお二人にお願いしました。

ラクスル 安積さん(以下安積さん)
ラクスルはこれまでもデザイナー採用を強化してきましたが、「どんな人と働きたいのか」が明確化されていませんでした。あるべき姿を言語化して指針を作り、採用面でも「ここは弱いけどここが強い人だね」と考えられるようにしたかったんです。
今いるデザインチームのメンバーについても、これから更にどんなスキルやマインドを育てていくべきかを考える基準になると思いました。

ラクスル株式会社 UI/UX design head 安積さん

水島さん
客観的に見ても、ラクスルはデザイナーが生きていくには大変な会社だと思うんです。
言葉を選ばずに言うと、デザイナーが自由にクリエイティビティを発揮してワイワイできるような環境というよりは、事業の成功に向き合うチームの一員として、愚直にビジネスにコミットすることが求められる。ラクスルあるあるなのですが、事業にめちゃくちゃ噛みごたえがあるんですよ。それはGoodpatchのお二人も感じていると思います(笑)。

だからこそラクスルで活躍できるデザイナーって本当にレアで、その究極さをきちんと言語化したかった。これからラクスルに入ってくるデザイナーの中にも、もしかするとバリューが出しづらくて苦しんでしまう人が出てしまうかもしれない。そんなメンバーたちをエンカレッジし続けるためにも「ラクスルのデザイナーって、タフなんだぜ」と提示をしたかった、というのが僕の個人的な想いです。

Goodpatch 國光
プロジェクトの初期に水島さん安積さんが「ラクスルのデザイナーは表現寄りのデザイナーではなく、事業にコミットできるデザイナーと働きたい」と話していたじゃないですか。それって、タフな環境だからこそより強く求められているデザイナー像なのだなと感じていて。デザイナーがビジネスに向き合うさまが「タフ」という言葉に内包されていると感じました。

Goodpatch 國光

水島さん
そう、だからデザイナーのビジョンを言語化していくときは「ビジネスインパクト」っていう言葉を入れたいと思っていました。

経営レベルからデザインを考えていくにあたって、デザイナー自身も数字やロジックに強くなり、経営に影響力を与えられるデザイン組織にしていきたいです。例えば、CFOと「時価総額をあげるためにデザイナーが何をできるか」など対等に議論できるような。
引用:組織からプロダクトまで一気通貫。ラクスルのデザイン組織に根付きはじめた「共通言語」とは

デザイナーひとり一人の想いを抽出したデザイナー像の定義

ーー 指針を言語化するワークショップはオンラインで開催されたそうですね。

安積さん
はい、本当は対面でするのが1番良かったのですが、ちょうど両社ともにリモート勤務に移行したタイミングだったため、今回はオンラインで開催しました。ワークの内容を國光さんとも相談し、ラクスル事業部のデザインチーム全員に個人ワークの宿題を出して、それをオンラインワークショップで持ち寄る形にしました。

その場で発散すると、意見が出しきれない時ってあるじゃないですか。でも、今回は宿題形式にしたことで、デザインチームのメンバーもじっくり考えて、多様な案を持ってこられたので非常によかったと思います。

Goodpatch 國光
まず、「ラクスルデザイナーの役割」の定義について宿題を出して個人ワークで考えてきてもらいました。この宿題では、対社会・対事業・対社内チーム・対ユーザーという4つの観点で、理想のラクスルデザイナーの役割についてアイディエーションしてもらいました。

もともとラクスルデザイナーの指針を立てるときに、安積さんとは「役割だけではなく、目指すべき姿やビジョンも立てましょう」と話していたんですよね。ただ、ビジョンを何もない状態から導き出すのは大変なので、宿題で持ち寄った役割の定義を足掛かりに抽象化することで、ラクスルデザイナーのビジョンを作っていくアプローチを取りました。

安積さん
特に、対社会の視点でのデザイナーの役割は、考えるのが難しかったですね。
実際にメンバーからは「真似されるようなデファクトスタンダードになるUIを作るデザイナー」「ラクスルが便利すぎて他のサービスが使えない状態を作るデザイナー」などの案も出ていました。

Goodpatch 國光
確か安積さんは「業界の負をユーザーの負として捉える」という案を持ってきていましたよね。先ほども出ましたが、仕組みを変えようとタフな環境に向き合い続けるラクスルのデザイナーっぽいなと感じたのを覚えています。

安積さん
ラクスルが対象とするのが印刷などレガシーな産業なので、業界の課題というのは常にあるんですよね。でも、それを「業界の課題だから仕方ないよね」で済まさないようにしたくて、「業界の課題をユーザーの課題として捉える」と書いた記憶があります。

ラクスル デザインチームの案を収束、構造化した図

Goodpatch 國光
安積さんを含めデザインチームの発散した案をまとめていくと、芯の部分がかなり共通していることが分かりました。ラクスルのデザイナーがどんなことに気を付けているのかのエッセンスを抽出できた。個人ワークで皆さんに発散をしてもらったので、抽出したエッセンスを一緒に構造的に整理しながら言語化し、収束をさせていきました。

安積さん
4時間×2セットくらい使って研ぎ澄ませていった感じでしたね。収束もすべてリモートで行いましたが、いつも同じ画面を共有しながら話せたので、リモートであることをあまり感じずに進められました。収束自体はサクサク進みましたが、言葉のディテールにはしっかり時間を使って、こだわり抜きました。僕とGoodpatchさんだけで解が出なくて、ラクスル社内でもフィードバックをもらったりしました。

Goodpatch 國光
ラクスルには「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という企業ビジョンと、それを体現する行動指針のRaksul Styleがあります。
ラクスルデザイナーもこの大きなビジョンやスタイルに自然と向き合っていけるように、ラクスルデザイナーの指針をこの全社のビジョンやスタイルと関連させるように設計を進めました。

進めていく中でビジョンとスタイルだけではそれを満たす手段について解像度をあげて自分ごと化できないことが見えてきたため、理想のラクスルデザイナーに求められるスキルも定義することになりました。安積さんがデザイナーのスキルマネジメントのために作ったスキルマップがあったため、それに今回個人ワークで発散した内容をマージして作成しています。このスキルは「ラクスルデザイナーとしての理想を追い求めるときに求められるベーススキル」という立ち位置です。

水島さん
他の一般的なデザイナー像との差別化ができたと思います。スキルの一つにある「プロフェッショナルとしてユーザ体験を守る」はエモいワーディングですが、他はビジネスに向き合ってる感がしっかりあって、自然と引き出してもらえたなと。

Goodpatch 有田
僕がこれをデザイナーとして見たときに、クリエイティブジャンプだけで解決を図る人は絶対に来ないなと思いました。ちゃんとビジネスに寄り添ってバリューを出す人が来るんだろうなと思えたのが良かったです。

Goodpatch 有田

安積さん
そうですね、これを採用の場面で伝えていくことで、ミスマッチがなくせそうですよね。変に現状を包み隠さず表現できたことが良かったなと思います。この指針に共感してやってくる人たちなら、間違いなく大丈夫と信じられるものができました。

関連記事:
ラクスル安積さんの視点で綴るラクスルのデザイナー指針の定義について

サービスの裏側、ユーザーとの接点の両方でビジネスインパクトを出す

ーー デザイナー指針の定義をするきっかけにもなった、折込/ポスティング事業のリニューアルについてもう少し聞かせてください。

水島さん
リニューアルってビフォーアフターが分かりやすく、成果も見えやすいので、デザイナーの守備範囲への認識を広げていくためにもぜひGoodpatchさんにお願いしたいと思っていたんです。でも制約はかなりたくさんありますし、難しいプロジェクトでもありました。

Goodpatch 國光
リニューアルの目的はリファクタリングとユーザー体験向上の2つで、僕たちは後者のユーザー体験の向上に対するアプローチを当初から期待してもらっていました。

水島さん
自動化されていないサービスなので、今でもオペレーションがすごく複雑なんですよね。
よく言えば、お客さんのために複雑化してでも対応しようとしていたんです。しかし、内部オペレーションにも無駄は当然あるし、お客様とのミスコミュニケーションも発生してしまう部分もあって。関わるファンクションも多く、バリューチェーンが長いので難しいんですよね。

Goodpatch 國光
まさにそうですね。バリューチェーンが長い。その現状を、最小限のコストでユーザーに最大限の価値提供ができるようなオペレーションに変えていく方法を考えていきました。

Goodpatch 有田
オペレーションの改善を一番に考えたいということは事前に聞いていたので、僕らは「生産性」の軸でどうしたら利益が出るかという考えで動いていきました。オペレーションコストが高いところは生産性で無駄があって、そこを減らすことでもっと利益が出るようになると考えたとき、自分たちが見えないところまで明らかにしないと本質的な改善はできません。そこで、全体像をサービスブループリントで網羅して改善を進めていきました。

参考記事:
サービスリニューアルする際、チームでユーザー体験を向上させるためのサービスブループリント

Goodpatch 長岡、國光、有田

Goodpatch 國光
安積さんやCSチームをまとめている谷さんと一緒にラクスルのCSチームを抱える京都オフィスまで行って、CSの片方に業務フローについてのヒアリングも行いました。サービスの裏側には、ユーザーの課題を聞いて解決している人もいれば、ビジネスにコミットしている人もいるし、ラクスル社内にファンクションがたくさんあることをヒアリングしながら学んでいった記憶があります。各所でヒアリングしたフローを、前述のサービスブルーポイントで洗い出していきました。

安積さん
この時にGoodpatchさんが作っていたサービスブループリントが、そのすぐ後にラクスル社内で一気に広まったんです。デザイナーみんなサービスブループリントを作るようになるっていう(笑)。

水島さん
カスタマージャーニーマップは広まらなかったんですよね。変数がカスタマーだけじゃないから、ラクスルの事業で作ってみてもフィットしなくて。

Goodpatch 國光
BizやCSに同じフロー図が少し違う形で複数あることを知って「ひとつに統一したものを見ながら話したほうがいいですね」という話も安積さんたちとしました。そこでサービスブループリントをまず作って、これを起点に話すようにしたら、まずデザイナー間で使われるようになり、それ以外の職種の方からも興味を持っていただいたので、一度ラクスル社内で主にPdMとBiz、デザイナーに向けて、これらの手法を使う意図と一緒にこれまでのプロセスを共有する会を開いたんです。そこから一気に波及して実用されていったのを覚えています。

僕たちはいつかいなくなるので、なるべく今後も残る判断軸を可視化したり、共通言語となるものを残すことを重視しました。ですので、ラクスル事業のチーム文化として少なからず資産を残せたことはとても嬉しいです。

事業の数字を動かせるデザイナーを増やしていく

ーー 水島さんと安積さんから見て、このプロジェクトでのGoodpatchメンバーの動きはいかがでしたか。

水島さん
折込/ポスティング事業のリニューアルでは、サービスの裏側の仕組みと、ユーザーとの接点であるUI両方を見て、ビジネスインパクトを出すという意識で動いてくれたので、目のつけどころがさすがだなと思いました。

安積さん
リニューアル以外のところだと、二人の深く知ろうとする姿勢が勉強になりました。サービスブループリントを作るためでもあったと思うのですが、ひとつも疑問を残さないとか、本来ならデザイナーが知る必要がないようなところまでも知ろうとする探究心。

もうひとつ私が感じているところをいうと、Goodpatchさんはただ話していると、デザイナーとは気づかれない可能性があるんじゃないですかね(笑)。もちろん、最終的なアウトプットは表層のUIまで出してくれるんですけど、理由だったりファクトだったりが考え抜かれているので、グラフィックだけを出して「どうだ」と言ってくるのではなく、すべてのことに対して理由をつけて論理的に話してくれる点がすごく良いなと思っています。

ーー Goodpatchと一緒に仕事をしたことで、ラクスルのデザインチームに変化はありましたか。

安積さん
デザインチームの変化としては、プロジェクトが終了した今でもGoodpatchさんの名前が会話に出てきます。「Goodpatchさんならどうするだろう」という話がでたりとか、サービスブループリントもそうですけど、やり方を真似して取り入れようとする人も出てきたので、いい刺激になったと思いますね。

水島さん
僕はGoodpatchさんに仕事をお願いするまで、ラクスルはデザイナーを雇えない会社なんじゃないのかなと正直思っていて。でも「いたじゃん!」と。ビジネスにコミットするデザイナーがいることを実際に行動で示してくれましたし、今後はラクスルでもデザイナーの指針を定義したことによって、デザイナーの立ち位置が良い意味で変わっていくのではないかと思いますね。BizDevとデザイナーの役割の棲み分けだったり、ビジネスに近い位置にデザイナーがいる未来が見えた感覚でした。Goodpatchさんと仕事をしてみて、BizDevとデザイナーの境目って微々たるもので、アウトプットの手段が違うだけなんだと気づいたことはかなり衝撃でした。

事業への効果は、残していってもらったものから少しずつ出てくると思います。すでに安積さんが結果を出してくれていて、料金表のコンバージョンがよくなったり、デザイナーのアイデアが事業の大きな数字を動かしているというポジティブな例は、間違いなく増えてきています。そういうところも含めて、これからデザイナーがより数字を意識をして、ビジネスインパクトを出していける組織にしていきたいです。