みなさんはDyson製品を購入したことがあるだろうか?

私はすっかりDyson製品に惚れてしまい、掃除機・ロボット掃除機・ドライヤー・扇風機と、ほぼ全てのプロダクトを購入してしまった。今までいくらつぎ込んだのだろう。

見た目は男心をくすぐるメカっぽさ。モーター音は高音で響きが良い。見た目も美しく、家電を「魅せるモノ」へと変えてくれた。

掃除機を使わない時は片付けるのではない。飾るのだ。

彼らの作るプロダクトは割と値段も高く購入に勇気がいるが、いざ使ってみると自然と身体に馴染む感覚、味わったことの無い新しい体験。特別なものを買った、という所有感。値段以上の価値を感じることができるのだ。

そんなDyson製品の外箱にはあることが書かれているのだが、そこには愛されるプロダクトを作るための「プロトタイピングへの情熱」を感じることができる。

Dysonの箱に書かれた情熱

掃除機や扇風機などDyson製品の一部の外箱には、このようなメッセージが書かれている。

失敗を重ねても挑戦し続けること。
これがダイソンの発明と問題解決の源です。
ジェームス ダイソンは、5年の歳月と5,127台の試作品を経てサイクロン技術を開発しました。
改良、テスト、特許の取得という一連のプロセスは、ダイソンで研究・開発に携わる1,700人のエンジニアにも受け継がれています。

私は最初の製品を家電量販店で購入し、この外箱に書かれたメッセージを目にして衝撃を受けたことを覚えている。今私が手にとっている製品は、5年間/5,000台以上のプロトタイピングを経て作られているのか。しかもそれをジェームス・ダイソン本人の顔写真と一緒に堂々と外箱に書いてある。この1製品にかけた情熱と圧倒的な自信が凄い。かつてここまでの想いを伝えるプロダクトはあっただろうか。

私は使う前からワクワクしてしまった。電車でDyson製品を持ち運びながら、優越感に浸った事を今でも覚えている。

技術を過信しない。日本への徹底したローカライズ戦略を探る

調査会社GfKジャパン(東京都中野区)調べによると、2017年第1四半期時点、Dysonのコードレス掃除機は日本国内コードレス掃除機の約50%のシェア、掃除機全体で見ても25%のシェアに達しようとしている、と発表している。

Dysonは日本国内でも圧倒的な地位を築いたわけだが、決して楽な道のりでは無かったはずだ。ここからはプロダクトを実際に使っている1ユーザーの目線から、日本へのローカライズ戦略を探ろうと思う。

最初は吸引力がただ良いだけだった

Dyson製品が初めて日本に来た時、世間の評判がどうだったかは分からないが、周りの評判を聞く限り、決して良いわけではなかった。


とある日のこと。

社内で同僚が掃除機の購入を検討していて、Dysonか別の日本製掃除機を購入しようか悩んでいる話題になった。その時、別の社員がこんな返事をしていた。

Dysonの掃除機購入したことあるよ。でも重くて手が疲れるし、大きいゴミを吸ってくれないんだよね。角のゴミも取りづらい。吸引力は良いんだろうけど、塵しか吸えないのよ。」


Dysonの特徴の1つは「吸引力」だ。そしてその吸引力をさらに上げるために、当時ノズルと床との設置面積を広くして、吸い付くようにゴミを吸っていた。

初期のノズルは床との接地面積が広く、吸い付くような感覚だった。

アメリカなどの土足文化では微細なゴミを取り除く為に圧倒的な吸引力は重要だった。しかし日本のマーケットでは、微細なゴミに対する吸引力をそこまで求めていなかった。アメリカと日本では、落ちているゴミの性質が違ったのだ。

実際私もDC45を買った時にデメリットを強く感じた。埃は吸えても少し大きなゴミは吸うことができない。しょうがないので、掃除機をバックさせながらノズルを少し浮かせて吸うしかなかったのだ。「目に見えるゴミを全て吸う」と言う最低要件を満たしていなかったのだ。

日本のユーザーに合わせたローカライズ戦略

私は大きいゴミを吸う時に不満はありつつも、吸引力には満足していたため引き続き使用していたが、ある日全ての不満が解決された新製品が発表された。それが「Dyson V6 Fluffy」だ。ナイロン製のローラーを搭載し、小さな埃から大きなゴミまで吸うことができる。そして角までしっかり掃除できるようになったのだ。

当時のCMがあるが、是非見てほしい。冒頭でフローリングや畳に落ちている大きなゴミも吸えることを1番にアピールしている。吸引力という強みを残しつつ、日本のフローリングや畳を意識して改良したローカライズなのではないか、と私は確信した。Dysonは自分たちのプロダクトを過信せず、日本では何が求められているのか文化とニーズを把握し、試行錯誤を重ねた上で出した製品なのであろう。

私はこのCMを見た後、すぐに古いDyson掃除機を売り、Dyson V6 Fluffyを買いに走ったのを覚えている。

今も変わり続け、なお挑戦し続けている

掃除機では、去年「Dyson V8」を出している。今まで課題だった連続稼働時間の短さに着目し、前回モデルの倍持つようになっている。さらに吸引力も強くなり、コードレス掃除機をメイン機として使えるレベルのスペックへと進化させた。
最近では、吸引力は落とさず重量や金額の課題を解決した廉価版「Dyson 7 Fluffy」を日本マーケット向けに発表したことで、新しいターゲット獲得にも挑戦していることが伺える。

そして彼らは1つの分野にとらわれず、掃除機で培ったノウハウを活かし、様々な分野で挑戦している。

例えばロボット掃除機。「Dyson 360 Eye」を発表した時は、「吸引力があれば1回掃除すれば問題ない」と「マッピング型」を提唱、それまでルンバなどで主流だった「ランダム型」の掃除方法を一蹴した。
当初は「1回で取れるはずがない」と言う意見も多く、iRobotもランダム型を推進していたが、結果的にルンバも最上位機種でマッピング型の「ルンバ980」を出すことになった。(Dysonを意識したのかは分からないが。)
私も実際にDyson、ルンバ両方のロボット掃除機を持っているのだが、Dysonの集塵力であれば1回で十分だと使って実感した。

猫を飼っているのでゴミの量は多いが、1~2回でこれだけの量をかき集めてきてくれる

アプリでどのように動いたか掃除履歴が見られる。基本同じ所は2度通らないスマートな動き方だ。

最近ではドライヤーの衝撃も記憶に新しい。「Dyson Supersonic」では、Dyson掃除機の吸引力の源にもなっているモーター技術や、扇風機の技術を応用して、「熱で髪を痛めない、風で乾かすドライヤー」を発表したのだ。値段も4万円とかなり攻めた値段設定だったが、瞬く間に人気商品となった。一度は家電量販店で顔に風を当てて「すごい風〜!!」とやったことがあるだろう。

私は短髪なので全く必要なかったのだが、Dysonだから買ってしまった。ただ実際手に取って見るとその魅力は伝わってきた。重心が中央に寄って長時間持っていても疲れない設計。シンプルなボタン操作で迷わず使える。「マイナスイオンON/OFF」など、「ずっとONでいいでしょ!」的な余計なボタンも無い。アタッチメントもマグネットで簡単に変更できる。しばらく進化がなかったドライヤー業界を変える製品だと確信した。

ヘアーサロン向けに、プロユースのアタッチメントと長い電源コードを搭載した「プロフェッショナルエディション」も出している。サロンにDysonのドライヤーがあることが、一種のステータスにもなっている。

ボタンは4つ。シンプルで使いやすい。

“コト”を常に考え続けたからこそ、愛されるプロダクトを生むことができた

Dysonのプロダクトは11つに対して強いこだわりを感じる。彼らは自分の製品を過信せず、しっかりユーザーを見て改良を続けている。

機能だけを重視した「モノ」を作ればよかった過去の時代から、デザイン・所有感・体験など、「コト」を重視した「デザイン思考」を感じる。プロダクト作りでは、成功など簡単に生まれない。ユーザーの事を徹底的に考え続け、プロトタイピングにより何度も失敗を繰り返し、その先に大きな成功が待っているのだ。だからこそ自信と情熱を持って、プロダクトを届けられるのである。
私自身もそうならなくてはと、改めて考えさせられる良いきっかけとなった。

最後にもう1つ、Dyson製品の箱に書かれているジェームス・ダイソン本人のメッセージを載せて結びとしよう。何千回ものプロトタイピングによる努力の結晶が、このメッセージに凝縮されている。

「発明品こそが、ダイソンを差別化するものであり、我々はその技術の特許を取得しています。つまり、我々の特許技術を他社が模倣することはできないのです。」
– ジェームス・ダイソン