創業1年半で累計調達額約50億円のスタートアップ ビットキーがデザインに投資をする理由

企業においてデジタルトランスフォーメーションの動きが加速する昨今、テクノロジーだけではなくデザインへの注目が集まっています。ユーザーとテクノロジーの間で「心地よさ」を形づくるデザインを経営の起点とする動きが、経済産業省より2015年に発表されたDXレポートや、2018年に発表された「デザイン経営」宣言によって後押しされています。

そんな中、Goodpatchは、1月23日にシリーズAラウンドで総額39億円超の資金調達を発表し、創業1年半で累計調達額が約50億円となったキーテクノロジースタートアップの株式会社ビットキー(以下ビットキー)への出資を発表。長期的なデザインへの投資によって、より気持ちよい体験、より強いパートナーシップを築いていく運びとなりました。
本記事では、ビットキーCEO 江尻さんと、Goodpatch代表土屋の対談をお届けします。ビジネスとテクノロジー、デザインを取り巻く環境と影響についてや、なぜパートナーシップを組んでデザインへ投資することが必要なのかお話を聞きました。

創業間もないスタートアップが着目する「デザイン」とは

土屋:
江尻さんはビットキーを設立されてから、どれくらい経ちましたか?

江尻さん:
ビットキーは2018年8月1日にスタートした会社で、2020年1月でちょうど設立1年半になります。今回発表させていただいた資金調達を含めると総額約50億円の調達をしておりまして、先日社員数は120名を突破しました。プロダクトも増え続けており、bitlockシリーズなどのハードウェア、アプリやWebサービスなどソフトウェアがそれぞれ6〜7個あり、それら全てをつなぐ基盤となるbitkey platformというコアテクノロジーのメインモジュールが6個ほど。これらを足すと約20個のプロダクトを扱っています。

ビットキーCEO 江尻さん

土屋:
設立1年半の会社ではまずありえないようなスピード感ですね。海外発のユニコーンスタートアップだと急激に規模を拡大しているところはありますが、日本ではあまり聞いたことがありません。
Goodpatchがビットキーをお手伝いするようになったのが2019年の4月からなので、当時は設立8ヶ月くらいの段階でしたよね。設立間もない中でお声がけいただいたと思うのですが、江尻さんは起業当初から、UXやデザインについて思い入れがあったんですか?

Goodpatch CEO 土屋

江尻さん:
僕はもともと大学時代に建築を専攻していて、クリエイティブな要素とロジカルな要素を組み合わせた複雑なアウトプットが求められる領域がずっと好きでした。今で言うとUXデザインに近い領域ですね。
前職に中途入社した1年目の時には、社長相手に「このシステムのUI/UXを改善すると何がどれだけ良くなるか」という提案書を持っていったこともあります。今から10年前、まだUI/UXという言葉もあまり使われていないような頃の話です。100通りくらいのデザインパターン、UI/UXとは何かという説明、どのようにプロダクトに落とし込んでいくかというプロセスまで提案したことがあります。なので、いつか自分が起業するなら創業時からデザインに力を入れようとは考えていました。

土屋:
ここ数年、スタートアップにおいてプロダクトのUXが重要という認識は当たり前になってきていますよね。
最初は僕らがUI/UXのベースを改善することから始まり、アプリやプロダクトをお手伝いしていくようになりましたが、Goodpatchメンバーの第一印象はいかがでしたか?

江尻さん:
コミュニケーションやプロセスが非常に分かりやすく、ビットキーという会社のコンテクストを読もうと社内の文化づくりなどの部分にも入ってくれました。ひとつのチームとして取り組んでくれるので僕もやりやすく、Goodpatchの皆さんの助けがなかったら乗り越えられなかったシーンがたくさんありました。

ビットキーの社内イベントにはGoodpatchのプロジェクトメンバーも参加している

事業の世界観を色濃く届けるため「文化」へ投資する

土屋:
そんな中で今回の出資の話に繋がっていくわけですが、通常、僕らがプロジェクトをお手伝いしているクライアントから「パートナーとしてより長期的に一緒にやりませんか?」とご提案いただくことは、当然ながらまだ少ないんです。よりデザインへ投資をすべきだと考えられたのは、どのような背景からなんですか?

江尻さん:
まず、ビットキーの事業形態が複雑で分かりにくいことが挙げられます。
ビットキーのビジネスは、IDをハブとして世界中のあらゆるものを柔軟に「つなげる」ことがベースにあります。これを軸に現在はTobira事業などを展開し、世界中のデジタルインフラを目指しているのですが、我々の構想通りに事業が推移した場合、伝えていきたい世界観が非常にマルチで、理解する難易度がとても高いのです。

実際のハードウェアやアプリ、Webサービスから体験の世界観まで、複雑なものをユーザーやクライアントにどのようなコミュニケーションで伝えていくか。これって、まさにデザインだと思うんです。ブランドイメージという根幹から、ユーザーとの接点になる日常的なタッチポイントまでかなり幅広くデザインの力が必要なので、設立間もない我々だけでそれを成し遂げることは難しい。Goodpatchさんと組めればもっと伝わりやすく、今後の先手を打てる世界観を作っていけるだろうと考えたんです。

土屋:
なるほど。実際に僕らが関わってから、ビットキーさんの中で変化したデザインに対する取り組みなどはありますか?

江尻さん:
社内にデザインに専門的な人間がほとんどいない中でGoodpatchさんとのプロジェクトが始まったので、組織の文化に対して貢献してもらっている感覚がすごくあります。例えば、プロセスを分かりやすく整理・可視化すること、ユーザーにプロダクトを届けるまでの一連の体験を考えることなど、目に見えない部分でデザインの力が浸透してきていると感じます。

土屋:
ビットキーのコンセプトにもある「繋ぐ」という考え方が、事業とユーザーと社員それぞれを「繋げる」ことにも影響を及ぼせるところまで持っていけると、僕らが入った価値が本当の意味で出せると思います。まだまだできることはありますね。

江尻さん:
ここからはより本格的に、あらゆるものを「つなぐ」ことに向けて走り出していきたいです。ビットキーの事業形態は複雑な分、デザインの力を発揮できる余地がかなりあります。Goodpatchの皆さんとは、我々の事業の最終的な形をどのように表現していくかというところまで一緒に考えていきたいです。2019年からプロジェクトが始まって、やり切れなかったことはお互いにまだあると思うので、今年はそんな部分も含めてやり切る年にしたいですね。

土屋:
課題が見えている状態ってすごく良いことですよね。Goodpatchは組織崩壊してから回復までに2年半ほどかかっているのですが、経営陣と社員の想いや目指す方向が共通化してきてからは、事業におけるスピード感などがまったく違うんです。

全員に共通言語があるので、例えば僕が入っていかなくても、マネージャーや事業責任者が意思決定できる。チェックコストをかけずとも、会社のビジョンやミッションと一致したアウトプットが出てくるようになりました。ビットキーとGoodpatchは持っている文化が近いと思うので、なるべく早く、ビットキーをそんな状態まで持っていきたいです。

江尻さん:
ビットキーは文化振興や組織の一体関係、責任感の担保などの仕組み化は浸透していますが、逆にアウトプットの質や、そこに対する考え方やプロセスが弱いので、ぜひ力を借りたいです。そのためにも、全員でスタイルを確立し、個々人のレベルを上げていく必要があると考えています。なので2020年に注力するテーマは「流儀」としました。例えば、日本画の狩野派や琳派のように、この集団に頼めば一定のクオリティが出ると認められている中で、一人ひとりが個としても強くありたいです。

土屋:
今、江尻さんが仰ったことは、目線を上げると「ユーザーやパートナーとの約束」を設定するということですよね。今後1〜3年のロードマップなどはあるんですか?

江尻さん:
僕らはパートナーありきの事業を展開しているので、年次で考えるよりも各事業体の成長ステップで考えています。5年先の予想は難しいですが、3年先の予想は頭に100パターンくらいあって、いつもいろんなパターンを考えています。
昨年からはモビリティ領域、金融領域など、多角的にお声がけいただいているので、どこまでどのようにまとめきるかが悩みどころです。まずは今年、Tobira事業を成長させ切って、「スマートロックや扉周辺のサービスならビットキーだよね」という世界観を作りたいです。

テクノロジーが「安全」を支え、デザインが「心地よさ」を生む

土屋:
最後に、江尻さんはデザインがビットキーの事業にどう作用していくと考えていますか?

江尻さん:
我々も今開発しているのですが、新しいテクノロジーに触れるとき、人は「怖い」と感じるものです。そんなテクノロジーに温度だったり、気持ちよさを持たせることができるのがデザインだと僕は思います。
ビットキーのコンセプトである「つなぐ」という言葉には、「あらゆるものを安全、便利に、気持ちよくコネクトする」という意味合いを含めています。「安全」や「便利」はテクノロジーがもたらす効果ですが、「気持ちよさ」という心理作用は、日々のUIから接する体験上の温かみがもたらすものではないでしょうか。そういった安心感のある体験を作ることができるのがデザインの最大の効果であり、新しい世界を作る時の最大のポイントになると思います。

土屋:
ビットキーはとてもチャレンジングな領域へ挑もうとしていて、会社の立ち上げフェーズでデザイナーが少ない段階だからこそ、僕らが関わることでビットキーのプロダクトの体験を向上できる余地はかなりある。出資は当然スタートでしかないし、これからパートナーとしてビットキーの企業価値向上をしっかりサポートしていきたいです。僕はカテゴリーとしてはデザインの会社を立ち上げているんですが、「将来AppleやGoogleのようになるポテンシャルを秘めてる会社をデザインでサポートしたい」と考えていたので、ビットキーはその最たる例になっていくのだろうなと思います。高いレベルにお互いを連れていく気持ちで、これから進んでいきたいですね。

ABOUTこの記事をかいた人

Kaori Sugimoto

Goodpatchの経営企画室でPR/PXを担当しています。2017年5月入社。興味関心があるのは文脈のデザイン。ものごとの由来や歴史を調べるのが好きです。
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