プロダクト開発に携わるみなさん、こんにちは。

突然ですが、現場でこんな話を聞いたり、実際に経験したことはありますか?

  • 関係者間で共有するドキュメンテーションを何日もかけて作成したのに、大して読んでもらえない。
  • プロダクト開発のステークホルダー(とくに現場から遠く決定権を持つ上司)が思いつきで指示をするため、振り回されたチームのモチベーションが下がり、優秀な開発者が退職してしまった。
  • 最先端のおしゃれなデザインを実装するために多額の開発コストをかけたのに、意外とユーザーには不評で、作り直しになってしまった。

・・・ありがちな話ではないでしょうか。これらは、「コスト」「時間」「モチベーション(人材)」といった大事なものがすべて「ムダ」になっている事例です。

ただ、競争や変化が激しく、リソースが貴重であるデジタル業界では、こういうような「ムダ」は極力防ぐべきですね。今日はプロダクト開発における「ムダの排除」について考えていきましょう。

プロダクト開発における最大のムダとは?

プロダクト開発において上記のようなリソースのムダは、効率という点で当然避けるべきですが、実はそれよりももっと大きく危険なムダがあるのです。

ときに、起業家が多いアメリカのシリコンバレーでは、スタートアップの90%は10年以内に失敗(倒産)すると言われているのをご存知でしょうか?。

この失敗の原因として最も多いのは「誰にも求められていないプロダクトやサービスを作ってしまうこと」だと言われています。実に失敗要因の42%〜52%を占め、倒産した起業の約半数にはこの問題があります。

もちろん他にも「ビジネスモデルが貧弱である」「先行する強い競合企業に対応できる戦略がない」など大きな要因が挙げられますが、そもそも誰も要らない、買う人がいないモノを作っても事業として成立しようがありません。これこそが大いなる「ムダ」です。

そもそも誰にも求められないモノを作ってしまうというムダ問題はなぜ起きるのでしょうか?

その原因は開発プロセスにあります。

従来のウォーターフォール開発のプロセスでは、新開発したプロダクトの価値がわかるのは全工程の最後です。開発にかけた努力が報われるか、はたまた徒労に終わるか、最後まで読めません。これはプロダクトのレベルに限らず、各機能の開発でも同じことが言えます。「これでいける」と信じて時間やコスト、愛情を注いでリリースまでこぎつけたのに、ユーザーが求めていない機能だった・・・そこで初めて無意味だったと思い知るのです。

なんて悲しいことでしょう!

それぞれのスタートアップには夢や希望があり、起業家やそれに賛同したスタッフの生活もかかっています。こんな大きなムダ失敗は絶対に避けなくてはいけません。

いま、これを読みながら「私の勤務先はスタートアップでもないし、安定している大企業だからセーフ」と思っているそこのあなた!気をつけましょう。

リーンスタートアップ方式を生み出したエリック・リース氏によれば、「スタートアップとは、極端に不確実な状況下で新しい製品やサービスを提供する組織(企業)のこと」と定義しています。たとえあなたの勤め先が大手企業でブランドがあろうと、厳しい競争市場においては、新規のプロダクトをつくるのも既存製品を改善するのも、スタートアップと大して条件は変わりません。限られたリソースで、めまぐるしい市場の変化に打ち勝つためには、いかに無駄なくプロダクトを成功に導くかが重要です。

プロダクトがユーザーニーズや市場状況から外れてしまうムダを防ぐ方法とは

事業にかけた全てのリソースをムダにしないこと、それはユーザーが必要とするものを作ることです。言い換えると、ユーザーのニーズを把握し、それに応えるプロダクトを作ることで、たくさんのコストや時間をかけた挙句に失敗するということを避けられます。使いたいと思うユーザーが集まり、そのプロダクトや事業の価値が認められます。

そのためには、「全体の開発プロセスの抜本的な見直し」が必要です。

まず、最後までユーザーの反応を得られないウォーターフォール型のプロセスを脱却すべきです。プロダクト開発において起きがちなムダを避ける方法として生まれ、最初からユーザーの声を取り入れられる、リーン開発を取り入れましょう。

「リーン」とムダとの関係とは?

リーン開発(リーン (lean)=贅肉がない=ムダがない)こそがムダをなくす解決法だと話しましたが、その理由はリーン開発の歴史にあります。

前述のエリック・リース氏が、自身のソフトウェア開発事業でたくさんのムダの問題に直面したときに、解決策として、自動車の多品種少量生産手法として確立されたトヨタ生産方式を勉強し、インスパイアされたという経緯があります。

おしよせるグローバル企業に「ムダの排除」で立ち向かったトヨタの生産方式

トヨタ生産方式とは、トヨタ自動車が生み出した工場における生産活動の運用方式で、ジャスト・イン・タイム方式、自働化という基本思想により成り立っています。

(参考:トヨタ生産方式

第二次世界大戦後、大量生産を得意とするアメリカなどの大手海外自動車メーカーが続々と日本へ進出する中、トヨタ自動車は旧式の機械や疲弊した労働力で生き残り、成長することに必死でした。競合と同じように大きな機械を導入するには資金も場所も足りず、独自の戦略が求められたのです。

そこで、注目したのが「ムダ」の存在です。競合企業との生産性の差は従業員の資質によるものではなく工程に多数のムダがあることが要因であると考え、一台の車をつくるプロセスをできるだけ最適化することを目指しました。

その一つが効率的な機械の活用による「自働化」です。固定的な使い方しかできない大きな機械は各工程で利用できる機械に切り替え、さらに効率良く使えるよう設置場所を直すことで時間とコストの削減を実現しました。またそれらの機械は、加工完了時のみならず不良品や設備異常があった際にも自動停止し、人が作業を止められるようになっています。作られる部品すべての品質にこだわり、工程で作り込むための工夫がなされています。

そしてこうした品質へのこだわりが「ジャスト・イン・タイム方式」による生産性の向上を実現します。これは、必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産するという考え方をもとに、上流・下流の工程間の仕掛在庫を最少に抑え、良いものだけを効率良く造るための生産方式です。

さらに、トヨタ生産方式ではムダ排除を徹底するにあたり、製造工程における以下「7つのムダ」の削減についても重要な取り組みと考えられています。

  • 作りすぎのムダ
  • 手待ちのムダ
  • 運搬のムダ
  • 加工そのもののムダ
  • 在庫のムダ
  • 動作のムダ
  • 不良を作るムダ

ムダを排除する思想から「リーン生産方式」と呼ばれることもあります。

長い年月の改善を重ねて確立したこの生産方式により、トヨタでは、お客様の要望に合ったクルマを1台ずつ、「確かな品質」で手際よく「必要な時」に造ることができるようになったのです。

「リーン開発」は、このリーン思想をソフトウェア開発に応用すべく登場した考え方で、ユーザーに価値を生み出さないムダを排除することを目的にしています。

リーン生産方式と同じく、リーン開発の目的も「ムダをなくす」ことです。ただし、「ムダ」の意味やプロセス自体が違います。

リーン生産方式が、確定している価値(プロダクトやサービス)をムダなく最も効率的に実現するためのものであるのに対し、リーン開発は、その価値(ユーザーの問題やその問題に最適なソリューション)がまだ正確に知られていないため、まずはその価値をムダなく見つけることに主眼が置かれています。つまり効率性が問われるのは、決まった工程・作業をこなす場面ではなく、ユーザーについて確実な知識を身につけ、ユーザーが価値を感じるものを早く見つける場面においてです。

「誰もいらないものを作る」というムダを防ぐ方法

リーン開発こそ、誰もいらないものを作る開発においてもっとも大きなムダを避けるための方法だとお話しました。とはいえ、そのままでは抽象的なので、実際のプロセスをもう少しブレークダウンし、説明してみます。

目的

作るべきものと作るべきでないものを明確にすることです。

昔は「作りたいものが作れるか」が問題でしたが、現代では、多くの場合想像したものを実現できるようになっています。同時に、ユーザーのニーズが多様化され、また、アイディアが簡単に実現できるため全ての分野においての競争が非常に激しくなっています。そのため、リーン開発における問題意識は昔のそれとは異なります。

ユーザーが抱えている問題とは何か、何が最適な解決法であるかがはじめから確実なことはありません。まずは仮説を立て、その仮説をできるだけ早く、安く、できるだけ確実と言えそうな知識に変えていけるかに重点を置きます。つまり「作りたいものが作れるか」ではなく、「作ろうとしているものは本当に作るべきか」「何を作るのがもっとも良いか」を常に自問し、本質的に必要なこと以外はそぎ落としていくのです。

最適解を目指すための仮説を立てるには、ユーザーの問題はどこにあるのか、ユーザーと同じ目線で深く理解する必要があります。そして、いますでになんらかの解決策があるか、それでも補われない問題点があるのであればそれは何なのか、市場のニーズについても学ばなくてはいけません。

簡単に言えば、「素早く学ぶこと」がリーン開発の目的です。

開発プロセス

ユーザーの課題やそれに最適なソリューションについて素早く学ぶるために、「作る – 測る – 学ぶ」のフィードバックループを繰り返すことは、リーン開発において最も重要なプロセスです。

フィードバックループとは、アイディアをカタチにし、その効果をテストし、ユーザーの反応(フィードバック)を得て、また新たなアイディアに落としていくことの繰り返しです。細かな仮説検証の繰り返しと言い換えても良いでしょう。

ユーザーについて確実に学ぶためには、この仮説検証を素早く数多く実行することが重要です。つまり安上がりで簡単に実行できる方法を見つける必要があるのです。

従来のプロセスでは、プロダクトが完成するまでそれまでの努力がムダだったかどうかがわかりませんでしたが、リーン開発ではユーザーの反応を得ることが最も重要なので、とにかくユーザーとコミュニケーションをとるための工夫が求められます。どうしたらユーザーの声を聞けるか、ユーザーが正確な反応を返してくれるか苦心するのと同時に、それをいかに時間やリソースを抑えながら、効率良く全うできるかも併せて考えなくてはいけないため、想像力がものを言います。

例えば「スモークテスト」では、プロダクトがない状態でも、簡単なランディングページや資料などを用いてユーザーが作ろうしているソリューションの価値をどこまで感じるか、テストすることができます。

効率

この記事では、新しいプロセスではユーザーの反応を得るために数多く検証を行い、ユーザーとのコミュニケーションの手法に工夫を凝らす開発方式をご紹介しました。従来のプロセスと比べて「効率的」と言えるのか、疑問の声が聞こえてきそうですね。

たしかに、リーン開発の現場では、それだけを見ると必ずしも効率的な作業とは言えない工程が少なくありません。日々ユーザーテストを行ったり、インタビューを実施したりすることは、時間も手間もかかる作業に見えるでしょう。しかし、目的によって「効率」の意味は変わるのです。

リーン開発では、ユーザーの理解や価値の把握が目的なので、決まった価値を効率良く作るプロセス改善や最適化とは分けて考えるべきです。そのためリーン開発における「効率」とは、ユーザーにとって価値あるものを早く理解すること、学ぶことであり、作ろうとしているものをいかに早く作れるかという意味になります。

進行測定

ウォーターフォール開発における進行測定とは、作ろうとしたものの価値を実現できているか、どこまでできているかというアウトプットの精度や進捗に関わるものでした。

それに対し、リーン開発における進行測定とは、ユーザーのニーズや市場の現状、それに応える最適なソリューションについてどれだけ理解が進んだかどうかが基準です。「定量的・定性的なデータで、より確実と言える知識を身につけられた」という状況や、「自分のアイディアがユーザーの反応からボツになったが、改善点が明確になった」というような事実により、ユーザーのニーズや最適解にいかに近づいたかを考えるのです。製作の進捗率とは異なるので注意しましょう。

おわりに

今日はプロダクト開発におけるムダと、それを排除するための開発プロセス改善の重要性についてご紹介しました。ムダにも色々な角度での捉え方があることや、リーン開発の具体的なイメージについてお分かりいただけたでしょうか。
誰にも必要とされないモノづくりこそ、最大の、そして最も悲しい「ムダ」です。

まずはこの致命的なムダが発生していないかどうか、いま一度、皆さんの開発の取り組みを見直すきっかけにしていただければと思います。

そして・・・実はプロダクト開発におけるムダの排除には続きのお話があります。

本当の意味での成功と言うためには、結果的にユーザーが望むようなプロダクトを作れれば良いというわけではなく、もっと細かい視点でのムダとも向かい合う必要があります。

そんな無駄を防ぐための方法、気になりますよね?こちらの記事で具体的に説明していきましょう!