未来を見据えたユーザー体験を創るテンセントのデザイン組織とは?【後編】

こんにちは!デザインリサーチャーのKeikaです。

前回の「テンセントのデザイン組織トップ、Jonathanのバックグラウンドについて聞いてみた」では、中国IT最大手テンセントのUXマネージャー、Jonathan Wong(ジョナサン)さんのこれまで歩んできたキャリアについて詳細にお伝えしました。

今回は、ジョナサンさんがジョインしてからのテンセントの急速な成長、そして注目すべき彼らのデザイン戦略についてお話をしていただきました。

テンセントの組織ISUXについて

──テンセントの組織構造について教えてください。

J.W テンセントは、7つのビジネス組織により編成されており、それぞれの独立したチームが国内数カ所に拠点を構えています。
私が率いるISUXというUXデザインチームは、7つの組織のうちの1つであるSNG(Social Network Group)の中の1チームです。

──ISUXについてもう少し教えていただけますか?

J.W もともと組織の中にはUED(User Experience Design)CenterというUXデザインのエキスパートを集めたチームあり、当時(2010年)のメンバーはたった60人でした。それを総括してISUXと名付け、私がGeneral Managerとして、現在410人のチームを取りまとめています。

ISUXの中にはブランディング、ユーザーリサーチ、UIデザイン、アウトソース・デザインマネジメントをそれぞれ担当する人が含まれていますが、全員デザイナーとしてのバックグラウンドを持っています。

アウトソース・デザインマネジメントチームは、主にアウトソーシングの管理を行なっています。テンセントは常にチャットアプリ内で使うスタンプを外注しているため、マネジメントが不可欠なんです。スタンプを外注するという制度は日本のLINEもやっていますが、異なるのはそこに投資する金額です。中国ではスタンプはかなり有効なマーケティング施策の一つとなっていて、アニメーションで表情を表すだけではなく、チャット相手とスタンプを使ってゲームをすることもできるんです。

トップも含めテンセントはUXを追求する組織

──よくテンセントとアリババは競合だと言われていますが、両社の決定的な違いは何でしょうか?

J.W アリババがECを重視しているのに対し、テンセントはよりユーザーの日常体験に重きを置いています。私たちは8億人が使うメッセンジャーアプリのQQと、8.5億人が使うWeChatをデザインしているので、ユーザーが日々の生活の中でどのようにメッセンジャーを使うかといったユーザーストーリーを理解しています。

その理解を決済へと活かし、自然な流れでメッセンジャーと決済をユーザーの生活の中で結びつけたのです。私たちはこれを「エコロジーシステム」と呼んでいます。これを生み出したのは、組織の中で行なっている継続的なUX探求だと思っています。

そういう意味で、テンセントとアリババのCEOマネジメントの方法もかなり違っています。ポニー・マー(テンセントのCEO)は、デザインに対し細部までこだわりをもち、常に探求を怠らない人です。深夜にプロダクトのフィードバックに関してメールをしてくることもよくありますし、月に1度は必ず顔を合わせていますね。

デザイナーを海外へ連れて行き思考法から育成

──デザイナーの採用はどのように行なっていますか?

J.W 組織の中で人材のレベルを1から6に分けています。レベル5から6は役員レベルなので、通常の採用面接は行わず、直接マネージャーになってもらいます。私が面接するのはレベル3以上の人だけで、それ以下のレベルの人はマネージャーに面接を任せています。
面接は、テンセントの組織レベルを意識して行なっています。かなり大きな組織なので、良い人材を雇い組織レベルの維持をすることに注力していますね。

──採用後の人材のクオリティ向上はどのように行なっているのでしょうか?

J.W 私は常にチームのメンバーに対し、「君たちのデザインはまだまだ甘い」と言い聞かせています。テンセントのデザイナーは、よく自分たちが一番だと思い込みがちです。彼らが現状に満足せず、自分の欠点を見出し成長できるように、頻繁に海外へ連れて行きます。これまでに連れていった場所は、シリコンバレー、ドイツ、デンマーク、フィンランド、シンガポール、韓国、台湾、日本です。

思考を変えるのはかなり難しいことです。私が一番変えたいのは、彼らがまず「できない理由」を探してしまうことです。HOWやWHYを考える前に、できない理由を考えてしまうのは、彼らのとても悪い癖です。これは欧米の考え方とは真逆なんです。
私が欧米に彼らを連れ出したことは、彼らの思考法にかなり大きな影響を与えたのではないかと思っています。

もう1ついつも言い聞かせているのは、ユーザーのスタンダードに合わせるのではなく、ユーザーの生活をより良くするデザインをしなくては意味がないということです。
彼らの悪い癖は、既存のデザインからユーザーの志向を読み取り、それに合わせてデザインしてしまうところです。そんなことをしていては、欧米にはいつまでたっても勝てません。

今はユーザーがデザインを見てサービスを選択をする時代です。デザインは常にカルチャーを作り出し、一歩先をいくものでなくてはなりません。それがデザイナーの使命です。

Designers should design better things, not only solve problems, but also design better solutions.

デザイナーは、ただ問題を解決するだけではなく、より良い解決策になるモノをデザインすべきだ。

失敗を恐れず常に変化を生み出していく

──育成にかなり注力されているのですね。その結果どう組織が変遷したのでしょうか?

J.W テンセントは今年で18年目の会社ですが、私はまだ7年しかいません。しかし、この教育法をはじめてから、組織の雰囲気はかなり変わってきたと思います。

何よりもプロダクト自体の質が向上しました。
デザインツールはSketchを使い、3週間に1度デザインスプリントを行なっています。クローズドβ版でさえも、500万人のユーザーを対象にリリースします。まずは何でも挑戦しそこから改善策を練り、リリースするようにしています。インターネット業界は世の中の変化に敏感でなくてはならないので、常にアンテナを張り巡らせています。

──なるほど。かなりスピーディーにプロダクト改善を行なっているのですね。

J.W はい、中国人は昔から寛容なので、失敗しても大丈夫なんです。というのも、一度プロダクトをリリースして人気が出なくても、再び良いものを開発すればユーザーはファンとして戻って来てくれるような国民性を中国人は持っています。変化を恐れていては何も改善できませんから、スピードをいつも重視しています。

中国のモバイルネイティブ世代の人たちは、新しいものに適応する能力が非常に高いです。その点では、日本と同じですね。まずはやってみる、という気概があるのではないでしょうか。

これからの時代はオンラインとオフラインの融合

──では最後に、テンセントがこれから目指す未来について教えてください。

J.W これからはインターネットプラスの時代です。
2000年代はインターネットが普及した時代でした。2010年代はスマートフォンが普及した時代です。そして、これからの10年はこれまでインターネットに関わりのなかった伝統的な領域が全てオンライン化される時代。例えば、これまでのような教育のやり方を変えて、全てオンラインに持っていきたいと考えています。この考え方は、インダストリー 4.0にも近いですね。

私はこれまでのように、インターネット業界だけに閉じている仕事はしたくありません。これまでオフラインだったものをオンラインにすることで、中国の全てをインターネットでつなぎたいのです。

参考|中国が目指す「互聯網+(インターネットプラス)」とは – ZDNet Japan

──ジョナサンさん、貴重なお時間ありがとうございました!

ABOUTこの記事をかいた人

keika

'94年生まれ。中国と日本のハーフで、1歳から18歳までを中国・上海で過ごす。2016年にロンドンで写真・デザインを学ぶ。グッドパッチが注力しているFintechと、国外のデザイン組織情報を中心に発信。