本記事は、2017年10月3日に開催された「スタートアップにCDOが必要な理由 CDO Night #1」のイベントレポートです。

イベントの後半では、様々なジャンルでサービスを提供するスタートアップのCDO/CCO/CXOによる、パネルディスカッションが展開されました。
登壇する3名は、いずれも複数の組織を経験し、現在のスタートアップにジョインしたシニアメンバー。積み重ねた経験から導き出される濃密なトークが交わされました。

Onedot株式会社CCO 坪田氏によるオープニングトークの模様や、パネルディスカッション若手編も合わせてご覧ください。

パネルディスカッション シニア編

登壇者プロフィール

坪田 朋|Onedot株式会社 CCO
ライブドア、DeNAなどで新規事業のディレクション、UIデザイン、デザイン組織の立ち上げを実施。BCG Digital VenturesにてExperience Designerとしてデザイン領域を担当。現在はOnedot株式会社のCCOとして、育児向け動画事業を中国で展開、日本展開準備中。

小久保 浩大郎|株式会社CAMPFIRE CXO
複数のデザインエージェンシーでフロントエンドエンジニア、UIデザイナーなどを努め、2011年3月Google入社。IAとしてアジア地域向けのCSRやブランディングなどに携わる。2017年8月より株式会社CAMPFIREに執行役員CXOとしてジョイン。

上ノ郷谷 太一|株式会社トレタ CDO
DTPデザイナーを経て、2005年より Six ApartでMovableTypeのローカライズ、UIデザインに関連する機能などの仕様作成に関わる。その後、Peatixを経て、2013年よりクックパッドで国際展開に関するサービス、アプリケーションのデザインのほか、コーポレートロゴのデザインなどブランディングを担当。2015年3月より、トレタのCDOを務める。

Q1. CDOの経営・ビジネス面への関わり方

上ノ郷谷 トレタではデザイン部のマネージャーを兼務しているので、各部門のリーダーが集まる経営会議に参加します。
先ほどの若手編セッションで、Lovegraph村田さんが「経営はアートでサイエンス」と話していましたが、うちの代表はそれで言うとアート寄りの人間だと思います。しかし組織が大きくなるにつれて、経営判断の「美しさ」といった観点を、別の人間に任せる必要があると判断し、初期からCDOといった役割を会社の初期フェーズから用意したのだと思います。CDOとして、代表のクリエイティブなビジョンを導き出すための壁打ち相手としてフィードバックをしたり、経営面にも参加しています。デザイナーには、イメージをビジュアライズして提案できる能力があると思うので、代表のビジョンを汲み取って、形にする動き方をしています。

坪田 お二人は取締役会とか株主向けの経営会議って出られてますか?
僕はプロダクト周りとか、東京での事業に関して最初から意思決定権をもらっているので、プロダクトを含めた事業計画を引いて予算の話はしますが、株主や出資者向けの会議は社長に任せてプロダクトに集中するという棲み分けをしています。

上ノ郷谷 資料は作成しますが、会議には出ていません。僕がトレタに入社してまず取り組んだのはデザインチームの立ち上げで、ワークフローの整理などを行いました。同時に、代表からプロダクトマネジメントの役割も引き継いでいたので、ロードマップを書いてKPIを設計したものを取締役会に提出などもしましたね。

小久保 僕も開発のロードマップを書いて、会議で自ら説明することはあります。投資家の皆さんや、社外取締役の方がいらっしゃる経営会議にも出ています。

坪田 途中から入社されて、会議に出て経営判断のハンドルを握るのって、ハードル高いですね。

小久保 8月に入社して2ヶ月が経ち、ようやく色々とキャッチアップをし終えた感覚なので、ハードルは高いですね。ただ、僕が今のポジションを選んだのは、CXOがプロダクト以外の幅広い部分のエクスペリエンスにも責任を持つという認識があったからで、それは組織のデザインの最適化にも同じことが言えると思っています。組織内にいるメンバーのエクスペリエンスも良い状態であるべきだと思うので、「ユーザーエクスペリエンス」って言葉は、ユーザーだけの方向を見ているようであまり使いたくはないんです。その意味でも「チーフ・エクスペリエンス・オフィサー」という役職は適切だなと思っています。

Q2.デザイナー以外でも、CDO/CCO/CXOになれるのか

坪田 勉強すればなれるんじゃないかな、と思います。知識をつけることは楽しいし、皆さんも勉強してどんどんCDOになったらいいと思いますよ。美術とユーザー体験のデザインって必ずしも紐付いてる必要は無くて、最近は理系出身のデザイナーも活躍して、リードデザイナーやCDOになるケースもある。早くからビジネスを学んだり、言語能力やディベートのスキルを積み重ねることは、この役職において活きてくると思います。

上ノ郷谷 昔の有名な学者って、専門学以外に音楽の知識もあったりしたと言いますよね。なのでその逆もあると思っていて、必ずしもデザインに寄った人だけがCDOになるとは限らないと思います。例えば、分析能力に長けたマーケター気質の人がデザインの知識をつけて、デザイン的な思考を持って判断していくことは可能だと思いますね。

小久保 スタートアップのフェーズによって、求められることが違いますよね。例えば美大で習得するアカデミックで専門的なスキルと、スタートアップの初期フェーズで求められる「何でもできる」みたいなスキルは方向性が逆なのかなと思います。でも学校で何を教わったのか、学んだのかということもさることながら、何かを作り上げることに思いっきりトライする期間を持った事自体が強みになるんじゃないかと思います。

上ノ郷谷 この役職では、好き嫌いがはっきり言えること、判断の美しさが大事かなと思っているので、美術観のようなものは役に立つ気がしますね。

坪田 もう一つ身につけた方が良いスキルは、人格とプロダクトを切り分けて考えられることですね。制作物に対してのフィードバックを、人格の否定のように受け止めない訓練をするといいと思います。

小久保 フィートバックを受け入れられるってデザイナーに一番必要なスキルですね。デザインすることって広義には、何かを形作るために意思決定を重ねていくことだから、どんな人も日常的に、なんらかのデザイン的な行為を行なっている。そんな中で、自分がターゲットペルソナであるデザイン的行為と、職業として自分以外のターゲットペルソナに最適なデザイン的行為を行う人がいる。これがデザイン的行為を行う多くの人たちと、デザイナーと呼ばれる人の違いですよね。
だから、フィードバックを他人事化できるかどうかがもっとも大事だと思います。自分のアウトプットを否定されることすらも他人事化していくような。

上ノ郷谷 そのマインド、いわば「フィードバック受け止めスキル」の話は最近社内でもよくします。デザイナーってどうしても、自分の表現がアウトプットに出ているから、フィードバックを自己否定されたように捉えてしまいがちなんですよね。伝え方も大事なんだなと思います。

Q3.CDO/CCO/CXOとデザイナーの境界線

小久保 CDO/CCO/CXOとは、組織内でどのような役割を担うのかを表すラベル。対してデザイナーは、自分の職能としての専門領域を表すラベルだと思います。

上ノ郷谷 誤解を恐れずに言えば、CDO/CCO/CXOはビジョンを作る人、デザイナーとはそれを増幅できる人のことだと思います。

坪田 僕は、組織・チームづくりに責任を持つのか、プレイヤーとして集中することでプロダクトに責任を持つのかという違いもあるかなと考えています。

小久保 CxOの名称とデザイナーの名称が、同じ組織内の人間に振り分けられているのだとすると、坪田さんの定義が正しいと思います。CxOは計画を立てたり、経営層のビジョンを汲み取って増幅したりを得意領域に合わせてできる人。

坪田 CEOの描いている大きな絵って、よく観るとピースが抜けていたりするから、僕らが埋めてあげるようなイメージですね。

上ノ郷谷 そうですね、CEOにピースが抜けていてもいいから大きな絵を描き切ってもらえるようにする役割なのかな。

Q4.チーム、企業を牽引するために心がけていること

上ノ郷谷 僕は先ほど話したように、好き嫌いをはっきり伝えることを大事にしています。
トレタでは組織が小さい頃から、デザインの重要性がある程度浸透していたので、「デザインってそこまで大事じゃないよね」みたいな声は出ないんです。でも、美意識の感覚がない人たちにとっては、デザインってコストに感じる可能性があると思います。「急ぎのプロジェクトだから、デザインはカットで」という事態にならないように、デザインはみんなの仕事をブーストするための手段であって、その手段が得意なデザイナーが社内にいることを啓蒙する
例えば、「デザイナーが入ったら、判断がスムーズにできていい結果が出た」という状況になるように、組織内でデザインの立ち位置をコントロールすることは意識的にやっています。

小久保 僕は主にプロダクトのデザインに責任を持っているので、プロダクトデザイナーとして他部署の同僚たちのアクションのテコになるべきだと思っています。会社の事業に対するレバレッジを高められるプロダクトを作ることを責任として考えています。

坪田 僕はやはり予算と採用ですね。まず、いいものを作るための予算・組織づくりを意識しています。特にスタートアップだと、節約することも大事になってくるので、予算の使い方を最適化することが大事だと思います。採用では常にネットワークを張って、プロダクトのジャンルが一番得意だという人と一緒にものづくりがしたいんです。適切なお金と環境を提供して、アウトプットをしてもらうためには、労務規定や人事規定など、バックオフィスと連携して採用の仕組みを作っていく必要があります。そのためにも、役職があることは有利に働きますね。仕組みづくりが評価された上で、いいものを作れたらと思います。

最後に

以上、CDO Night #1 のイベントレポートをお届けしました。
参加されたみなさんにとっては、登壇者6名の熱い想いや、デザインを司るCDOの可能性を強く感じられる機会となったのではないでしょうか。

デザインの重要性を広めるためには、まずはスタートアップシーンから、デザインとCDOの存在意義を発信していくことが大事なのだと改めて思います。

Goodpatch Blogでは、今後もデザインにまつわる情報をたくさんお届けしていきます。そして、CDO Nightの今後の展開にもどうぞご期待ください!