近年、海外では企業によるデザイン会社の株式取得や資本提携が相次いでいて、特に2011年以降に加速しています。そもそもなぜ、大手企業とデザイン会社の提携が重要視されるようになったのでしょうか?

今回は、いくつかの事例を取り上げ、デザイン会社との提携によるビジネス側の狙いと、ビジネスとデザインの相乗効果を最大化するソリューションを定義します。

ビジネスが重要視しているのはデザインシンキング

まずはデザイン会社と提携することによるビジネス側の狙いを見ていきましょう。
こちらはストラテジックデザイナーであるCarl Behrendorffにより作成された『Why business needs design thinking now more than ever』と題したスライドです。

このスライドから読み取れる大きなメッセージは、「ビジネスパーソンがもつ戦略的思考にデザイナーがもつデザイン思考(デザインシンキング)を取り入れ、50/50にすることが企業の成長にとって重要である」ということです。デザインシンキングとは、「デザイナーがもつユーザーファーストの視点を、ビジネスやあらゆる問題解決の場面で活かすための思考法」です。

デザインシンキングとはイベントではなく、プロセスである

これはCarlのスライドに書かれた一言です。デザインシンキングとは一度のイベントとして完結するものではなく、再現性のあるものでなくてはならないということです。デザインシンキングを活用した問題解決の手法をデザインプロセスと言います。

ビジネスに今求められているのは「デザイナーを採用し、デザインシンキングを取り入れよう」という短期的なソリューションではなく、「デザイナーのユーザー中心視点をビジネスに徐々に浸透させる長期的戦略」なのです。デザイン会社の買収は、長期的戦略(デザインプロセス)を実施するための最短ルートなのでしょう。

デザイン会社と企業の提携事例

Design in Tech Report 2016 from John Maeda

いくつかここ数年、世界各国で起きた大手企業とデザイン会社の提携事例を見ていきましょう。

2013年 Accenture→Fjord

早期で注目すべきなのは、Accentureがロンドンに本拠地を置くデザイン会社Fjordをマーケティング部門の一部として買収したことでしょう。コンサルティングを行うAccentureがモバイルデザインに特化するFjordを買収したことは、デジタルデザインに対する要望をもつクライアントとの信頼関係を築くために最適だったと言えます。

デザインはデジタル領域の中心的役割を果たすものになりつつあったため、デザインを必要時に委託するやり方は長期的にうまくいかないことを、両社ともに把握していたのでしょう。

2014年 Capital One→Adaptive Path

金融会社がデザイン会社を買収した事例として、話題を呼び起こしたのが米金融大手のCapital OneがUX専門コンサルタントのAdaptivel Pathを買収したことでしょう。この買収が一気に金融業界にデザイン会社を買収する波を引き寄せたと言えます。Adaptive PathのCEOは自身のブログで、「Capital Oneほど好奇心やデザインへの理解が深い提携先は他になかった。彼らは自分たちの蓄積してきたUX専門知識やノウハウを、金融の分野で大いに生かしたい」と話しています。

2015年 BBVA→Spring Studio

スペインの大手銀行BBVAは2015年にサンフランシスコのUXデザインファームSpring Studioを買収しました。目的は、次のステップに事業をドライブすることだったそうです。BBVAはデザインがビジネスの成功に直結すると確信していたそうです。自社でデザインを強めていき、他の企業と差別化を測りました。次から次へとスマートフォンやパソコンを使って口座にアクセスする人が増えてきたため、ユーザーにいち早くデバイス上のより良い体験を提供できた組織が有利であると確信していたそうです。
(参考:BBVA acquires leading user experience firm Spring Studio

2015年 McKinsey & Company→LUNAR

2015年には米コンサルティング会社McKinsey & Company, Inc.が、デザイン会社LUNARを買収しています。提携後、LUNARは「McKinsey & Company, Inc.の『優れたマネジメントコンサルティング・ビジネス戦略・オペレーション牽引力』と、LUNARの『デザインと開発に対する比類なき能力』が融合して初めて実現されるフルコンサルティングは、クライアントワークにこれまでにないほど有益な結果をもたらすでしょう」と自社のコーポレートサイトで述べました。
(参照:We are thrilled to announce the acquisition of LUNAR by McKinsey & Company—creating a groundbreaking proposition for the integration of business strategy and design

2016年 博報堂→IDEO

2016年には株式会社博報堂DYホールディングスの戦略事業組織kyuが、米デザイン会社IDEOに出資を行なっています。IDEOはデザインシンキングをはじめに提唱し、世界各国でさまざまなイノベーションを起こしてきた会社です。IDEOは、自社のクリエイティビティをkyuと提携することで、より一層効果の高いものにしたいと話していました。
(参考:Hakuhodo DY’s Kyu Takes Stake in Design Firm IDEO

ビジネスとデザインの相乗効果を最大化するには

デザイン会社を買収すれば、それでビジネスが成功するかというと、そうではありません。たとえ良いデザイナーが会社に加わったとしても、デザインの大幅な改善は時間を要します。

個人的には、本来生まれるはずのビジネスとデザインのシナジーを生み出すためには、2つのベストプラクティスがあると思います。

  1. 組織全体がデザインシンキングに対して共通の認識を持つ
    優秀なデザイナーを雇うだけではその人の能力を最大化できません。経営層を含む組織全体がデザインシンキングがなぜビジネスに重要なのかを認識する必要があります。チーム一丸となり、ビジネスにデザイン視点を取り入れようとすることが、より良い成果を生み出します。
  2. デザインプロセスを組織にインストールする
    「デザインシンキングとはイベントではなくプロセスである」というCarlの言葉のように、これからのビジネスにデザインプロセスを長期的に組織にインストールしていく姿勢がますます求められるでしょう。また、プロセスの再現性を高め、市場により良い価値を想像する必要があるでしょう。

Goodpatchでは、クライアントとデザインプロセスを用いたデザインスプリントを行っています。デザインスプリントに関する記事はこちらをご覧ください。