ビジネスにおけるデザインの重要性が近年騒がれていますが、両者の関係性は今にはじまったことではありません。欧米ではビジネスにデザインシンキングを取り入れることは常識となりつつありますし、過去に売れたプロダクトを見てもデザインが優れたものばかりです。

本記事では、「良いサービスを作ったのに売れない」と悩むビジネスパーソンや、ビジネス目線をプロダクト作りに取り入れたいデザイナーにおすすめなビジネス × デザインにまつわる良本を12冊取り上げました。

1. デザインマネジメント

デザインマネジメント

こちらは「デザインマネジメント」を主軸において、ビジネスにおけるデザインの重要性を紐解いた本です。

デザインマネジメントとは、デザインをビジネスの根幹にとらえたビジネス手法のことです。大きな特徴は、「顧客価値を探る多様な視点を取り入れよう」という意味合いに加えて、真に価値あるものを顧客に届けるためのアプローチや実践方法を取り入れた概念であることです。また、直接的にサービス作りに携わらない現場もデザインが必要であると主張しています。

本書を手にする人は、すでにデザインの価値を理解している人が多いかもしれません。一方で、世の中にはまだまだデザインを誤解している人もいます。こうした本がより幅広い層の人たちの手に渡ることを願っています。

2. 「売る」から、「売れる」へ。

「売る」から、「売れる」へ。 水野学のブランディングデザイン講義

グッドデザインカンパニーの代表取締役として、デザインの力を使ってブランド力を引き出し、商品を売るのではなく売れるように仕向けることを仕事とする水野学氏。
本書は、2014年9月から2015年1月にかけて、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにて14回にわたっておこなわれた講義「ブランディングデザイン」のうちの主要な4回をもとに、内容を書籍用に編集したものです。

水野氏は自らの経験から、いかに経営者がデザインを「自分とは関係のないもの」として捉えているかということを話しています。しかし、デザインはもはやなくてはならないものであり、こうしたコンプレックスからは早く自由にならなくちゃいけないと話しています。

さらにAppleのデザインがかっこよくて成功した事例や、ユニクロがクリエイティブディレクターを経営直下に置いたことで劇的にブランドイメージを向上した事例を用い、ブランディングの重要性を訴えました。しかし一番重要なのは、デザインで経営に有益をもたらすことです。ブランディングはあくまでも手段であり、重要なのは商品が売れたかどうかなのです。

3. 経営とデザインの幸せな関係

経営とデザインの幸せな関係

「日本の工芸を元気にする」というビジョンをもつ中川政七商店の13代社長であり、業界特化型の経営コンサルティングも行う中川淳氏により書かれた本。この本では、日本のものづくり企業が生き残っていくためには何をして、どう考えるべきかについて、概念ではなく実践方法について記しています。

「デザイン思考」や似たような概念が企業間で飛び交っている昨今ですが、中川氏は「企業とデザイナーの協働は必ずしも成果を出しているわけではない」と言います。その理由は、経営者にはクリエイティブリテラシーが、デザイナーには経営リテラシーが不足しているからだと言います。

中川氏は本書を通じて経営とデザインの共通言語が生まれ、幸せな関係が築けることを願い、自社のブランディングにまつわる戦略を包み隠さず1から記しています。

4. 無印良品のデザイン

無印良品のデザイン

こちらは日経BPによる、無印良品のデザイン理念をまとめた本です。
無印良品が過去に手がけた数々のプロダクトが、どのような戦略のもとでデザインされたのかなどについて細かく記されています。

第1章ではプロダクトデザインをテーマに、「人をダメにするソファ」やバルミューダとの連携など、興味深い同社事例を取り上げています。第2章ではコミュニケーションデザイン、第3章では店舗デザインについての自社事例についてまとめられています。

あらゆるプロダクトデザインに携わる人は必見の一冊です。また、本書の第2版や、同社のマーケティングについて書かれた『MUJI式』という書籍もあるので、合わせて読んでみてはいかがでしょうか。

5. バルミューダ 奇跡のデザイン経営

バルミューダ 奇跡のデザイン経営

異色の経歴をもつバルミューダの社長寺尾玄が経営者目線で語る、デザインを重視した経営について実例ベースでまとめられた本です。元バンドマンや海外放浪をした経験を活かし、独自の視点からプロダクト作りに携わる寺尾氏の知見は非常に興味深いです。

昨今は良いプロダクトとしても取り上げられることが多くなったバルミューダですが、同社が手がけた1つ前のプロダクトは売り上げに伸び悩む状況にあったそうです。一体どのように爆発的なヒットを生むという「奇跡」を起こしたのでしょうか。

本書を通じて、いまやプロダクトデザインの最先端をいくバルミューダから経営やブランディング、デザインについて学んでみてはいかがでしょうか。

6. デザインと革新

デザインと革新

NOSIGNERの創業者であり、デザインにまつわる領域で何度も表彰されている太刀川氏が自ら「デザインと思考術」について執筆された貴重な本です。いいデザインとは何を指すのか、未来を創造する価値とは何で、どのように創られるのかについて書かれています。

目次の中には最近よく耳にする「デザインプロセス」や「デザイン思考」などのワードが1つも含まれていません。太刀川氏は、それらの思想を言語化することに対してとても慎重なのだということが見て取れます。

デザイナーである人はもちろんのこと、デザイナーではない人も読むことで、よりイノベーティブなサービスが生み出せるのではないでしょうか。

7. サービスデザインの教科書

サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた

2017年9月に出版された本書は「顧客志向から価値共創へ、与えるものとしてのサービスを共につくるものとしてのサービスへと捉えなおすことがビジネスに小さな革命をもたらす」という理念をもつ経済学者竹山政直氏により執筆された本です。

個人的には読んでいて、今までご紹介した書籍とは少し違う角度からデザインの本質を説いているように感じました。武山氏によると本書は「サービスデザインの解説書ですが、特にマーケティング論におけるサービスの新しい考え方と、社会の様々な領域への応用が期待されるデザインのアプローチの融合に焦点を当てて、サービスデザインの意義や特徴、実践方法を説明している」のだそうです。

サービスとはなにか?デザインとはなにか?サービスデザインとはなにか?と3つのパートにわたり、いかにサービス開発にデザインが必要かを解説しています。

また、今後の社会では、エキスパートのデザイナーが単独でデザインを行うのではなく、多様な職能や知識、経験を持つ人々の連携による「コ・デザイン」が中心となっていくと予測しています。

基本的な概念から今後の動向までをキャッチアップしたいビジネスパーソンにとっては、見逃せない一冊ですね。

8. バリュー・プロポジション・デザイン

バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る

こちらは30以上の言語で出版された世界的なベストセラー『ビジネスモデル・ジェネレーション』の続編です。横長の分厚くなった絵本のような一冊に、カラーイラストと大きめな文字でデザイン思考の大切さを表現しています。

日本国内ではまだ一般的に知られていないバリュープロポジションを創り上げるための実践的なガイドでもあります。バリュープロポジションとは一言でいうと、「自社だけが提供でき、他社が提供できない、お客様が求める価値」のこと。この大切さを学び、世の中に高い価値を提供し続ける企業になることが必要とされています。

9. 突破するデザイン

突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる

愛されているプロダクトやサービスは、必ず突破したアイデアにより生まれています。しかし、何かイノベーティブなものを生み出そうと思っても、なかなか思いつかなかったり、ハードルが高かったりします。

著者は「意味のイノベーション」という新たな開発手法を提唱し、「イノベーションとは0から1だけではなく、1を0にリセットしてから1にすることでもある」と述べています。

意味のイノベーションには人間理解が基礎力として要求されます。そもそも人は何を必要としていて何に喜ぶのか。ユーザー中心設計やデザイン思考にも関係しますが、それ以前の問題として人は人なのですから、ビジネスをするに当たってはユーザーやお客様としてではなく、人間存在そのものの意味を問わなくてはならないのです。

著者であるロベルト・ベルガンティは、他にも『デザインドリブンイノベーション』と題した書籍などを執筆されています。合わせてお読みください。

10. 21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

こちらは過去にAmazonランキング対象ビジネス書部門で2位に輝いた良本です。株式会社biotopeの代表取締役の佐宗氏が、米国MBAトップスクールでデザインを教示した経験や、トップクラスイノベーションプロデュース業を通じて得たデザイン思考にまつわる数々のノウハウをまとめています。

佐宗氏が登壇したイベントなどの内容については、こちらに多くまとまっていたので併せてご覧ください。

デザイン思考をビジネスへ応用する手法について書かれているので、デザイン思考をある程度理解した状態で読むことをオススメします。

11. デザイン思考が世界を変える

デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方

こちらは書店ではなく、社内の本棚で見つけた本。デザイン思考を最初に提唱したIDEOのCEOティム・ブラウンが、現代のビジネスにおけるデザイン思考の重要性についてまとめた一冊です。私も入社したばかりの頃に、初めて会社から借りる本として読みました。

ティムは、私たちにはイノベーションに対する新しいアプローチが必要だと提唱し、それが「デザイン思考」なのだと言います。

自分がデザイナーだと自覚したこともない人々にデザイナーの道具を手渡し、その道具をより幅広い問題に適応するのが、デザイン思考の目的なのだ。

ビジネスとデザインの領域を横断し、顧客も気づいていないニーズを探り出し、飛躍的な発想で生活を豊かにするのがデザイン思考であり、この考え方をビジネス組織全体に浸透させ、常にイノベーティブな状態に維持することが大切なのです。

専門用語も多く、少し難易度の高い本であるようにも思えますが、デザイン思考に対して正確な咀嚼ができます。文庫本サイズなので、ちょっとした通勤時間に読んでみてくださいね。

12. 人は感情でモノを買う

人は感情でモノを買う

こちらも社内の本棚にあった一冊。マーケターによる、顧客の購買行為の裏側にある心理を解析した内容の本です。「顧客の思考を見抜くにはどのようなマーケティングが必要なのか」など、ビジネスパーソンがすぐにでも応用できるユーザーの体験にフォーカスしてサービスをデザインする「デザイン思考」について書いてあります。

ビジネスパーソンにありがちな勘違いと、顧客志向の根幹となる考え方がたくさん詰まった一冊なので、本屋で見つけたらぜひ手に取ってみてくださいね。

ビジネスとデザインは切り離してはいけない

いかがでしたか。今回はビジネスとデザインの関連性とその重要性について書かれた本を12冊推薦させていただきました。

まだまだ世界的に見ると、ビジネスとデザインの関連性は広く認知されているとは言えません。より認知を広げるべく、日本国外でも本トピックにまつわる書籍が多数出版されています。それほど2つの関係性は切っても切り離せないものなのです。デザイナーがビジネス視点を持つことと、ビジネスパーソンがデザイナー視点を取り入れることは今後さらに重要になるでしょう。